表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第14章 おとぎの国の魔女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

516/519

14-7 別れ (2)

 早朝に宮殿に駆け込み、陛下のへの状況説明と今後の指針を示した後、急いで公都キャピターレゼーナから港湾都市ポルトヤーヌスへと戻った私。


 昼近くになってしまいましたが、“魔女の館”は寝静まったかのような雰囲気。


 オノーレを先に戻しておりましたので、状況は既に伝わっており、それだけに住人の顔は重く沈んでおります。


 特に衝撃を受けたのはディカブリオとヴィットーリオ叔父様。


 なにしろ、オクタヴィア叔母様が“偽者”であったのですからね。


 母、あるいは妻が、赤の他人のなりすまし(・・・・・)であったなど信じられないといった顔をしております。



(それについては私も同じ。店で頻繁に顔を会わせていたというのに、全然気付きませんでしたからね)



 すり替わったのはカトリーナお婆様が亡くなって以降という事で、長くとも7年程度でありましょうか。


 その間、完璧にオクタヴィア叔母様に成り切っていたのですから、アウディオラの演技もなかなかと言わざるを得ません。


 一定の“共感”を得れば姿のみならず、能力や記憶まで共有できるようになるとは言え、ボロを出さなかった点ではこちらの完敗です。


 一番身近に一番厄介な人物を置き、情報を抜き取られていたのですからね。



「母上、なぜ魔女の口車になど……」



 ディカブリオが悲痛な面持ちで机に拳を振り下ろす。


 その怪力で壊れるかと思う程の一撃であり、それほどまでに悔やんでいるという事でしょう。



「ディカブリオ、してやられたという点では私も同じなのです」



「分かっています、姉上。しかし、どうしても解せない。“共感”によって同化ができるというのであれば、誘いに乗らなければ良かっただけの話。母上はなぜアウディオラ殿下の誘いに乗ってしまったのかと」



「嫉妬でしょうね」



「嫉妬、ですか!?」



「私とアウディオラ叔母様は親子ほど年の離れた姉妹という事です。どちらも大魔女カトリーナの胎より生まれながら、なぜ自分は魔女になれなかったのかと、叔母様は悩んでいたのでしょう」



「そこまで悩む事なのですか、それは」



「長女としての面子メンツもあるのでしょう。後から生まれてきた年の離れた妹が、自分よりも遥かに才能豊かで、後継に選ばれたのですから」



 今となっては確認しようがありませんが、あるいは叔母様は私の出生の秘事を知っていたのかもしれません。


 魔女にはなれずとも、聡明で隙の無い性格をしておりましたからね。


 何より、“身内”であるからこそ、気付く事もありましょう。



(あるいは、ジュリエッタのように、お婆様自身がきっぱりと『魔女になる才能がない』と言い切れば良かったのでしょうか)



 少なくとも、お婆様はジュリエッタに対しては魔女としての教育を一切しなかった上に、魔女にはなれないと当人にも言っていました。


 ただ、ジュリエッタは気にもしておらず、娼婦として、あるいは将棋スカッキィの指し手として、類まれなる才能を有し、その道を進み続けています。


 イノテア家の人間として血が近しいからこそ、叔母様は“魔女への憧れ”を捨てきれなかったのかもしれません。


 その嫉妬や未練こそ、アウディオラが暗躍する土台となり得たと。



「結局、“憧れ”は時に身を焼いてしまうって事なのですかね~」



 若干妬ましそうに私を見つめてくるリミアがそう呟きました。


 一応、私の弟子ではありますが、それはあくまで礼儀作法や貴族としての教養を教え込むのが目的であって、魔女としては手解きしておりません。


 あくまでフェルディナンド陛下からの依頼で養育しているだけで、魔女にする気は更々ないですね。


 当人はどこまでも“魔女”に憧れているのが厄介なのですが。



「リミアもまだ魔女になりたいの?」



「もちろんです! でも、師匠は全然、魔女の手解きをしてくれませんし」



「あなたは歌手としての才能が高いですからね。暗い部屋に閉じこもって、妙な儀式に打ち込むよりも、人々から拍手喝采を浴びる太陽のごとき“第一の女(プリマ・ドンナ)”であるべきですよ」



「大公女としてですか?」



「あなたでは私の真似はできませんよ。光と影、性質がそもそも違うのですから」



 私は見えない暗部でコソコソやるのがお似合いですからね。


 大勢の前ではなく、ただ一人の誰かのために尽くす。


 そこは娼婦としての性分でしょうが、魔女もまたしかり。


 “扇動”よりも“篭絡”こそ、私の得意とするところ。


 リミアのように歌で人々を感動させるような事はできません。



「それで師匠、本当に危険な鉄火場に飛び込んでいくつもりで?」



「ジュリエッタは何が何でも取り戻さねばなりませんからね」



「私でも分かりますけど、絶対に罠ですよ、これ」



「分かっています。だからこそ、準備は入念にするのです」



 出し惜しみしている状況でもないですからね。


 全力で、いえ、全速で行きます。



(と言っても、馬には限りがありますからね。私、アゾットは行けますが、ディカブリオは体が大き過ぎる分、乗馬は難しい。そうなると馬車での移動。オノーレも御者として同行ですわね)



 時間との勝負である以上、馬での移動は必須。


 しかし、我が家には常備している私兵などというものはなく、領民からの徴兵では騎兵を用意する事はできません。


 いつもの4人で突っ走るしかありません。


 まあ、“切り札”はいくつか用意しておきますけどね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ