表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女で娼婦な男爵夫人ヌイヴェルの忙しない日々  作者: 夢神 蒼茫
第13章 死体は語らず、ただ指し示す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

495/523

13-64 絶望と共感 (2)

 私が慕っていたオクタヴィア叔母様が偽者!


 しかも、その正体は、“共感”によって叔母様を取り込んだアウディオラだっとのは、完全に意表を突かれました。



「まあ、すり替わったのは割と最近の話よ。息子ディカブリオ子猫ラケスと結婚した前後の慌ただしさに紛れてね」



「しかし、なぜ叔母様がアウディオラと“共感”など」



「簡単な話よ。“魔女になれなかった事”が長女・・の心の歪み。そこを付け込めば、“共感”くらい難しくもないわよ」



「…………!」



 指摘されてみればその通りでしたわ。


 カトリーナお婆様の腹から生まれてきたのは、名知らずの“三つ子の母”とオクタヴィア叔母様の二人だと考えていました。


 でも、“名知らずの母”が存在しない人物であり、カトリーナお婆様こそ我々の母とするのであれば、オクタヴィア叔母様が長女となり、アウディオラが次女、私が三女という事になります。


 かなり年の離れた腹違いの姉妹。


 しかし、特殊な存在。



(叔母様……、この場合は長姉になりますか。その視点で見た状況を場合、“妹”が選ばれた存在になるのでしたわね。自身は大魔女グラン・ステレーガの長女でありながら魔女にはなれなかった。まあ、娼婦や商売人としては優秀でしたから、それは表面的には出て来なかった。そう、私達が生まれるまでは……!)



 叔母様もある程度までは知っていたのでしょう。


 そうでなければ私が“名知らずの母”について尋ねた時に、誤魔化すような言動をとらないはずですから。


 “嫉妬”は本当に人を狂わせる。


 オクタヴィア叔母様は魔女になれなかった事を悔やみ、魔女になってしまった私を奪った者として嫉妬した。


 アウディオラは誰からも愛されなかった事を恨み、カトリーナお婆様から愛情を注がれて育った私を奪った者として嫉妬した。


 長女、次女ともに、三女を選ばれた者、奪った者として見ていた。


 その絶望感と嫉妬が“共感”を生み出してしまったというわけですか。



(その事に気付けなかったのは、私の痛恨の一事でしたわ!)



 叔母様は厳しくも思いやりのある方でしたから、全く気付かなかった。


 それが“共感”によって得た演技だと気付かずに。


 必要なしと“お肌の触れ合い”による情報収集を怠った事による失策。


 “身内”に甘かった私自身の見落とし。



「あるいは、こんな方も“共感”してくれましたわ」



 またしてもグニャリと体がねじれ、そして、別人へと変わる。


 今度は初老の男性。


 そして、その顔には見覚えがあった。



「な……、ヴォイヤー公爵まで!?」



 アルベルト様が唖然とした声を上げる。


 『処女食い』の事件の際、そのゴタゴタを利用して、大公位を簒奪しようと目論んだ男です。


 私も見間違う事などありませんわ。



「アルベルト様、公爵の死体は水揚げされたのでは!?」



「されたはず。しかし、今にして思えば、引き上げが最後の方であり、“腐敗”が思いの外に進んでいた。顔の判別が困難なほどに……。着ていた服装と、なんとなしの顔立ちで公爵と判断したが……」



「では、今回のジョルジュ様のように“腐敗”を促進させた可能性もありますわね」



「だな。それとなく公爵に似た死体を調達しておいて、判別困難な状態にまで腐敗させて、湖に投げ込んでしまえば“死んだ”と判断されるな」



 手の込んだやり口ですが、死を隠匿するのには必要な手順ですわね。


 その事件、レオーネだけでは状況操作が難しいとは思っていましたが、公爵本人が“背乗り(なりすまし)”されていたのであれば話は別!


 兵士を始めとする人員の手配も、容易に行えるようになります。



「これで分かったでしょう? 私と“共感”した者は、奪われた者、あるいは奪われてていると勘違いした者。そう、私のようにね!」



 そして、変わる、次々と変わる。


 何人取り込んだのか分からぬほどに、次々と顔が変わる。


 見知った顔もいれば、知らない顔もある。


 それほどまでに“共感”を得てきたと言う事。


 相手の心を読み、その上で寄り添い、辛い現実から逃れさせ、夢を見せる。



(やり口としては、私とそっくり。でも、結果が全然違いますけどね)



 私は高級娼婦コルテジャーナとして、お客様に完璧なご奉仕を提供してきました。


 店の中では、嬢とのひと時を過ごす部屋の中では、誰しもが“楽編への扉”を開く事が許される。


 辛い現実からも、“対価”さえ支払えば夢の世界へと誘う。


 しかし、アウディオラは違う。


 悪夢を呼び起こし、辛い現実を突き付け、その上で“世界の破滅”とそこから繋がる“新たな世界への夢物語”を騙って(・・・)聞かせる(・・・・)


 口車を駆使する詐欺師そのものですわね。


 同じ“騙り”であろうとも、悦楽を与える私と、苦痛を与えるアウディオラ。


 ここまで真逆だとは!



「さあ、語りもここまでにしましょうか。さあ、ユリウス、私の可愛い坊や、共に新しい世界へと行きましょう」



 再び元のアウディオラの姿に戻り、ユリウスに手を差し伸べる。


 話を聞いていなければ、実に優し気な母親なのでしょうが、中身は本当に“魔女”。


 魔術と話術を駆使し、人々をたぶらかしては地獄を見せる。


 おとぎ話に出てくるような“悪い魔女”そのものですわね。


 そんな魔女にして母親であるアウディオラに対し、ユリウス様は露骨なまでに嫌悪感を示され、睨み付けました。



「母上! そのような話を聞かされて、私が“共感”するとお思いか!?」



「思っていないわよ~。あなたは夫ルーポゥにそっくりですからね。真面目で、誠実で、“仮面を外せない汚れた魔女”を心の底から愛してくれるくらいには」



「父上の心を読んだのであれば、その愛も推し量れたはずでしょうに!」



「ええ、そうね。ルーポゥは何一つ不満を漏らさなかった。それこそ、仮面を着けた初夜の際も、それ以降も、ずっとずっと私を愛してくれていました。“仮面ペルソナ”の向こう側にいる私に、唯一真心を以て接してくれていました」



「だったらなぜ今回も、あるいはこれまでも、数々の事件を巻き起こすような愚挙をやってしまったのですか!?」



「もちろん、私を殺そうとした事よ。その巻き添えでルーポゥまでね」



「…………!」



「愛は“渇き”でもある。飲み続けなければ、心が干からびる。私の心は沙漠。水がない、愛がない。でも、それをルーポゥは愛を注ぎ込んでくれた。渇きを気付かぬ者に『お前は渇いている』と示し、その上で寄り添ってくれた。でも、世界はそれを否定し、私を、夫を殺そうとした」



 そして、アウディオラは天を見上げる。


 今まで見た事のない憤怒の表情を浮かべ、怒りをあらわにしながら。



「ならば! 引きずり降ろしてやるまでよ! 世界が私を否定し、殺そうとした! ならば、私は世界を滅ぼし、作り変えてみせましょう! 誰に文句は言わせないし、言わせるつもりもない! まずは世界の管理者たる“雲上人セレスティアーレ”を高みから転がせ、私が新たな世界の“管理者”に あるいは“神”になってみせましょう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ