227 下準備 中
「ファイアストーム」
「「ゲコォォォ!!」」
アメリアの【火魔法】が容赦なくフロッガーを焼き尽くす。以前とは違い、釣り出す事を完全に諦め、殲滅を優先する。今日の護衛を担当している侯爵家の騎士がその破壊力を見て満足げに頷いている。彼が引き連れている従騎士と従士達の顔は引き攣っている。10日前に来た彼らは一日一日ローテーションでアメリアの護衛を引き受けている。最初はアメリアを侮っていた騎士達もアメリアの魔法を見て表向き侮るのをやめている。内心何を思っているのかは分からない。四騎士の一人はアメリアの戦いぶりを見てから俺とアメリアの書簡を持って侯都に向かったので留守だ。彼が出た後に俺はダレンに似た任務を与え、ラディアンドに派遣した。二人は今日明日に帰還するはずだ。
「「アンチドーテ」」
もう少ししたら状況が動くはずと皮算用をしている横で、この生活に慣れたハンナとマリーメイアは感覚が麻痺したかの様に足元の毒沼を解毒している。ここまでは侯爵家の騎士達が来るまでの日常と大差ない。
「良し、水を抜くぞ!」
俺は【アイテムボックス】から空の樽を5つ出す。それを合図に従士達が樽を沼に沈める。彼らが作業をしている横で俺は大岩を取り出して水をせき止める。
樽が一杯になった頃合いで従士達が蓋をし、俺が【アイテムボックス】に収容する。これで凡そ溜まっている水の7割程度を抜くことが出来る。
「ムーブウォーター!」
「メイクダート!」
残りの水は【水魔法】を使える奴隷が他に動かす。そして水が無くなった窪地を【地魔法】を使える奴隷が埋める。俺も【アイテムボックス】から岩と土を取り出して作業時間を短くする。ルルブのリプレイでは魔法を使ってパパっと水抜きと穴埋めをするのだが、現実でやろうとしたら魔法使いの魔力が持たなかった。休み休みで強制したら一日でそこそこ大きい水溜まりを処理できそうだが、そんな非効率的な事で時間を浪費する気は無い。そこで時間短縮のために人力で出来る事は人力でやり、魔法でやった方が効率的な部分は魔法に任せるやり方に切り替える。最後の水抜きと埋めた後の地固めは魔法でやった方が良いと言う結果になる。
俺の【アイテムボックス】に入っている岩と土は四人居る【地魔法】使いに予め用意させたものだ。それと開拓作業中に出た岩なども収容している。開拓作業で出たごみ問題は俺の【アイテムボックス】で一発解決だ!
干拓作業に連れて来ている二人の魔法使いは固定している。地と水の魔法使いは全部で6人。全員が農民だ。【地魔法】の四人の中で一人だけ外の世界に行きたいと言う男が居たので、彼を抜擢した。彼は四人の中で農家としての適性が一番高いのだが、彼が住んでいた村は魔法を「悪魔の力」と下げずんでいたそうだ。肩身が狭かった彼は開拓作業が終わったらまた白い目で見られるのが怖いと吐露した。こうまで言われたら放り出すわけにはいかない。少なくてもラディアンド地方の外に連れて行く。
【水魔法】の方はもっと世俗な年功序列問題による選択だ。両者とも外に行きたくないと言うので20代の若い方を選んだ。もう一人は30代中盤で村社会の中ではベテランから老境の間に属する。そして俺が購入した農民の中で二番目に年長だ。現在開拓している農地を得られるかは分からない。それでもいずれは開拓した農地を得て、農地を中心に新設される村の重鎮になる。そうなったら彼は自身の権力の源泉の脅かす若手を排除する。村で【地魔法】は何人居ても歓迎されるが、【水魔法】は一人居れば十分だ。生憎農村には余裕が無いため、フェールセーフとかバックアップを用意すると言う考えが無い。なので不幸が起こる前に俺が強権を使って若い方を連れ出す。
この二人の件をアメリアに相談した思いっきり蹴られた。解せん。……実は分かっている。この調子で色々な人に手を差し伸べればいずれ俺自身がキャパオーバーになる。前世でも損な選択ばかり選んだ結果がブラック企業でうだつが上がらない日々だ。この世界では自由に生きると誓ったのに、いつの間にか多くの柵を抱える身になっている。アメリアはそんな俺がいずれ限界を迎える事を心配してくれている。
「アッシュの発想には毎回驚かされます。まさかここまで効率的に毒沼を平原に変えられるとは」
「根本的には魔法のごり押しだ。俗に言う自然四属性が揃っていれば簡単だ」
「その四属性を揃えるのがどんなに大変か。【火魔法】が非常に多いお爺様の家では他の属性魔法使いが少ないとお爺様が嘆いていました」
「そこは金の力でなんとか」
アメリアと今後の水抜き計画を話し合う。当初水抜き作業は不可能と思っていたグイードはこれを見て考えを改めるしか無かった。そしてそれはダンジョンを中心に拠点を作れると言う事である。
「それでダンジョンの入り口を中心に全部干拓しますか?」
毒沼はダンジョンの入り口から円形に広がっている。
「それは危険だと思う。村に近い半分だけをやろう」
窮鼠猫を嚙むと言う。ダンジョンから溢れ出す毒液の行き場所が無くなれば何が起こるか分からない。ルルブにはダンジョンの入り口を物理的に閉じれば、閉じるのに使った扉が吹き飛び、様々なバッドイベントが発生すると書いてある。行き場を失った毒液が貯まる事で入り口が封鎖されたと判定されてはたまらない。
「となるとダンジョンの入り口と村の中間あたりに棚さくを?」
「ダンジョン寄りが理想だ。拠点がダンジョンの入り口を望める位置にあると早期警戒が出来る」
緩く縄張りを考えながら進む。ある程度構想を纏めたらアメリアが侯爵に手紙を書くことになる。一ヶ月で攻略出来るダンジョンなら現場判断でやるが、四ヶ月以上掛かりそうだから本格的なのが必要になる。それが俺たちの実力ではなく、政治的都合による遅延なのがもどかしい。
その日は日課となりつつあるマリーメイアのダイアクロコダイル討伐で終える。マリーメイアは【槍術】スキルを最初から持っていた事もあり、五体目で慣れて来た。今では平均三回でダイアクロコダイルを殺せる。無論、俺たちが両手足を排除し、首筋に深い傷を入れた前提だ。ハンナの方もパワーレベリングを頑張っているが、攻撃スキルを持っていない事が災いしている。専用にあつらえた先端にダガーを嵌め込める靴でモンスターを蹴らしているが、俺たちの手厚いサポートがあってもダイアクロコダイルを蹴り殺せない。最近は姿を見せる中型の蜥蜴を中心に蹴っているが、マリーメイアよりレベルアップのペースは遅い。
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