222 毒沼の村 中
「何が必要かしら?」
俺の計画を聞いてアメリアが必要な物を聞く。籠城戦以前からの付き合いで俺の考えは正しくても実行能力に疑問があるのはバレている。バレているからこそ彼女のパワーレベリングをする代わりに一時部下になって貰っていた。
「拠点予定地の周りに防御用の柵さくと言いたいが、可能か?」
「難しいですな。あそこは水分を多く含む沼地です」
地元のグイードが地形の詳細を教えてくれる。防御面で不安を抱えるのは不味い。
「干拓とか?」
「流石に非常識すぎると思うけど」
アメリアに呆れられる。
「【水魔法】と【地魔法】の合わせ技で出来ないか?」
ルルブのリプレイでは魔法を使った農地の開拓が普通にあるので干拓も行けるんじゃないか? だがこの世界では魔法を農業に使うなんて言えば不信心者扱いされる。人類の最高傑作である魔導鎧を土木作業に使おうものなら後ろから斬りかかられても不思議じゃない。それでも使うけど。
「それが可能なら開拓が可能なのでは?」
グイードが逆に問う。
「それが出来るから干拓も可能だと思った」
「ああ、それなら開拓をして貰えませんか?」
領地持ち貴族が他の貴族に開拓を頼むなど狂気の沙汰だ。だが今のグイードは代官だからギリギリセーフなのかもしれない。これはアメリアへの貴族教育の一環だろうか?
「グイード卿、何をふざけたことを!」
ガイルズがその非常識なお願いに声を荒げる。ガイルズがグダグダと貴族の在り方を説いているのを横で聞きながら、どうするか考える。前世のブラック企業時代では俺が断る前提で無茶な条件を提示するクライアントがそこそこの頻度でいた。それで俺が了承したらパニクるまでワンセットだ。グイードは「魔法で開拓しない」と言う先入観が強すぎて俺が了承しないと思い込んだ。少なくても今回はグイードの大チョンボだ。
「開拓の件を受けよう。開拓希望地と支払いについて詰めよう」
「「はぁ!?」」
驚くグイードとガイルズを他所にアメリアは冷静だ。
「まったく、アッシュを侮り過ぎです。ラディアンド籠城の劣勢を個人技で覆す男ですよ? 今回の開拓は余暇で出来るのでしょう」
「開拓は余暇だが場所取りは別だ。何処が良いかなんて全然分からない」
「ほ、本当に良いのか?」
「勿論だ」
グイードが再度確認するので問題無いと伝える。
「開拓団となると村で面倒を見ないといけません。姫様の許可が必要になります」
「許可を出します」
グイードとアメリアが俺達の扱いをダンジョン攻略部隊から開拓団に変更する。実際に作業している所を見せれば村内での立場は大幅に改善されるだろう。これで衣食住のうち、俺が提供できない住の提供に前向きになるだろう。
「この件は報告するぞ?」
「しっかり報告してくれ。それとガイルズ達三人の中から開拓中隊長を選びたい。誰が適任だ?」
ガイルズはダンジョン攻略中隊長を自認している武骨者だ。農作業で泥まみれになるのは恥と考えるからこそ宰相家に報告が脅しになると思っている。実際は宰相家が聞けば専門家をグリフォン便で送って来る事態になる。だが宰相家の次男であるヘンリーとの話し合いから導き出した考えなので間違っているかもしれない。
「ダレンで良くないか?」
「選考基準は?」
開拓中隊長は騎士爵がお飾りのトップをやり、実務は魔法使いと農家が担当する。なので残り二人のどちらがなってもそう大きな違いは無い。それだけにガイルズの上げる選考基準はガイルズ自身の人となりを計るバロメーターとなる。
「ネイサンはまだ若い。それに女好きだ」
「分かった。ダレンに話を持ちかける」
ダレンとネイサンはガイルズと一緒に人質と派遣された騎士爵だ。ダレンはガイルズの同期でネイサンはその二人より三年は若い。ガイルズがダレンを選んだのは出世競争で彼を蹴落とすためだ。ガイルズ視点では間違いない判断だ。ダレンが了承するか反対できないネイサンに押し付けるか。リルの調査ではネイサンの方がこういう作業の適性が高い。ネイサンの祖父が豪農で息子が騎士になる道を金の力で開いた。孫のネイサンはまだその豪農との縁が切れていない。なんで祖父が相続できる準男爵位を買わなかったのか分からないが、帰農する前提での行動だったのかもしれない。
あくまで一例だが、裁判で有利になるために貴族の身分を手に入れる裕福な平民は普通に存在している。ルルブでは裁判になったら貴族の身分を金で買うか貴族の後ろ盾を得るのが最善と書いてある。次善の策として裁判官を買収するか武力で脅すとも書いてあるから、この世界の裁判制度のいい加減さが分かる。
「アッシュ卿、開拓はいつから始めます?」
やる気になっているグイードが前のめりに聞く。
「明日だ。場所の確認がてらガイルズ隊に付近のモンスターを狩らせる」
「任せろ!」
ガイルズはモンスター相手に戦えるだけでうれしい。例え戦闘が不慣れな奴隷戦士の部隊でもそれを率いるのは騎士の誉れだ。調子に乗って大物を狩ろうとしなければ良いが、ちょっと心配だ。
「安全が確保されたらダレン隊を本格的に派遣する。状況次第だが三日後辺りか?」
「こちらも急ぎで用意します。他に何か入用でしょうか?」
「土地勘のある狩人を数人俺に回せ。ガイルズ隊とは違う場所でモンスターを狩る」
【光魔法】使いは俺が直接パワーレベリングした方が早い。
「全員持っていかれると困る」
「ダンを専属でそちらに回す。絶対に守れ!」
「無論だ!」
薬箱が無くなるのが嫌なガイルズが異議を唱えるので元農民のダンを回す。ダンは他の二人に比べてレベルアップする理由が乏しい。そういう男は位階10の壁にぶつかれば一生それを越える事はない。一発で越える事もあるので他の二人が仕上がった後はダンをパワーレベリングするのは言うまでもない。
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