変わり者ガヴァネス
メアリに呼ばれたアンナは、私の部屋に入っていた使用人達に怒りの鉄槌を落とーーさなかった。
あまりにも陰気な雰囲気の私たちを見てギョッとし、何があったのかと心配する方にベクトルを向けていた。
メアリが『かくかくしかじか』と事の経緯を報告すると、
「早く来るよう、スチュワードを急かす事に致します」
と言って足早に部屋からいなくなったのである。
さて、どうしたら良いんだろう。この世界の事を何も知らない私には手のほどこしようがない状態だ。
幽閉ルートから距離を取ったと思いきや、不幸ルートは相変わらずロザムンドの中心に居座っている。
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徐々にすっきりしていく家の中に反して、私の頭の中はまとまらない。
どうやって家を守れば良いのだろう?というか今回の作業の費用は何処からでているの?
そんな事ばかり考えていると、伯母さまが言った。
「ロザムンド、そろそろ家庭教師の先生を呼んで良いかしら?」
そうだ、王宮から出る理由にした特訓を始めなくてはいけないのである。
それに今の私にはこの世界の知識が必要だ。
よし、十年ぶりくらいにしっかりと勉強をしてみてやろう。
伯母さまによれば家庭教師の先生は、「いつからでも良い」と言ってくれているそうだ。
グーピュル商会の顧客である、とある子爵家の親戚筋で、本好きの変わり者らしい。
とても頭が良いそうで、女性ながら20歳そこそこで文官経験があるそうだ。理由は濁されているが、現在は家に戻って来て、やる事もなく自室に籠っている『ひきこもり』であるとのこと。
ひきこもりのインドア派なんて仲良く慣れそうな気がするし、女性であるから変にルートに入る事もなさそうである。
「伯母さま、私の学力については」
「全く出来ないから、文字を書く所から教えて!って伝えてあるわよ」
伯母さまの答えに安心するも、まだ不安な点があった。
「お給料は?」
また『お嬢様が心配する事ではない』と言われてしまいそうであるが、一番の悩みなので確認しておきたい部分だ。アンナ達が戻って来てくれたのは良い事だと思うが、彼等への給金についても分かっていない今、更に人が増える事は不安でしかない。
「あー、それなんだけどねぇ」
と、伯母さまは少し言いにくそうに口ごもる。
何も知らない子どもにいちから教える、その上『良くない噂』があるシャポー家と多少なりとも縁が出来てしまうリスクを考えると、一般よりも高いのかもしれない。
身構えて続く言葉を待っていると
「『お給料はいらないから住み込みで働かせてくれて、それとロザムンドが王子達とどんな風にしていたのか教えてくれれば良い』って言うのよね」
「住み込みは良いですが、我が家のボロ加減でも問題ないのでしょうか。それともう一方の方は・・・」
「別に内情とかを知りたい訳ではないみたいよ。ちょっと・・・あれなのよね。あの子、探究心があるというか、恋愛小説が好きなのよ」
恋愛小説ときたか・・・。まぁ分かるよ、令嬢と王子の幼い交流、私も自分の事じゃなければ結構好きなジャンルだもん。
ただ、自分にあったことを振り返るとーー
「恋愛なんて恐れ多い事、いっっっこもございませんが」
「よねぇ?まぁ、話してあげれば良いんじゃないかしら。まぁお金についてはロザムンドが心配する事じゃないわ。ねぇ、アンナ」
「勿論でございます。そう言った事はこちらで考えますので、お嬢様は存分に学んで下さい」
そうは言われても・・・。メアリも『言う通りにしておけ』という表情であった。
これ以上は言わない方が良い。またあのアンナの冷たい怒りにさらされたくないので、大人達の言う通りにした。
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そうして3日後に家庭教師の先生、ジェーンが伯母さまと一緒に我が家にやって来た。
「ロザムンド、レディ・ジェーン・ホワイトよ」
「レディ・ジェーン、初めまして。ロザムンド・シャポーと申します。こちらは当家の家政婦長のアンナと侍女のメアリです」
隣にいたそれぞれを紹介すると、分厚い眼鏡がずり落ちていたジェーンは眼鏡を押し上げてゆっくりと声を出した。
「レディ・ロザムンド、この度はお声がけ頂きましてありがとうございます。私の事はジェーンと呼んで下さい」と、そこまではとても上品だった。しかし。
「ちなみに『レディ』は不要ですよ、あってないような物・・・というか、ほとんど貴族の血は入っちゃいないんです。この身分はお優しいホワイト爺さんが、お情けで私の祖母にくれたようなもんでして、実態はただの鶏ガラ本の虫。世間ではひきこもりの行かず後家といわれておりましてね」
はは、とジェーンは早口でそう自己紹介をして頭を掻いた。
「でしたらジェーン先生と呼びます。私の事もロザムンドとお呼びください」
「ははぁ・・・あなたは礼儀正しいんですね。ロザムンド。ちょっとアリアーデ、しっかりした子じゃないか!『読み書きもできない、マナーもいちから』って聞いて来たのに拍子抜けしちゃったよ。どんなとんでもない子かと思って身構えてきたのにさー」
「そうだったかしら?まぁ?お姉様の子ですもの、地頭は良いはずだわ」
「あー、でたでた。『お姉様自慢』ですか。まぁいいや。ではロザムンド、これから読み書き、算術、歴史、あとは簡単なマナー程度を私がお教えしますからよろしく。・・・とはいえ、このなりを見ればあらかた予想はつきそうだけど、マナーはホント最低限しか無理なんだよね」
皺の入った古い洋服や後れ毛が出た髪型をみると、あまりマナーにはこだわらないようだ。ただ、先ほどの最初の挨拶を見る限り出来ない訳ではなさそうだ。
アンナもその様子をみて少し少し心配そうな顔をしていたが、その懸念を感じ取ったらしい伯母さまが付け足した。
「嫌いなだけでしょ?貴方の場合。国王や王妃ともやり取りをしていたじゃない。大方、回りくどい挨拶よりもさっさと本題に入りたいってところでしょうよ」
「時間は24時間しかないんでね、余計な事に使ってたら勿体ない。そんな事をするんなら本を一冊でも読んだ方がためになる。と、いうことで、この荷物を置いたら早速授業に入りたいんだけど、ロザムンドはいかがかな?」
「はい、じゃあまずはジェーン先生のお部屋にご案内しますね」
私はなんだかこの先生が気に入ってしまった。
気取った話し方をしなくても良さそうだし、考え方が面白い。そしてこんな感じなのに恋愛小説好きというギャップがまた興味を引く。
これまでの事を聞かれるのはあまり嬉しくないが、色々学んばせて貰うんだ。




