09 余談:陰謀の結末
鏡の前でバーンハードは何やらやっていた。
側にはソニヤがおり、事の顛末を語っている。
「使った者が悪かったようで申し訳ないです」
「確かにアレは美しくない。やり方も美しくないがね」
「どの程度の者か知りたかったもので……申し訳ありません」
バーンハードは大げさに手を振って見せた。気にしていないということである。彼は美に拘るが、反省している部下の失態には拘らない。
「どうだった?」
「頭は悪くないようです」
「ほう。警備隊に突き出したようだが、彼女が捕まえたのかい?」
「いえ。切りかかられたところを通りすがりの冒険者に助けられたようでした」
「切りかかられた!?」
淡々と告げられた驚愕の事実に、バーンハードはソニヤを振り返った。鏡を前にした彼にしては珍しい行動にソニヤも僅かに眉を寄せる。寄せたが、それ以上表情を表に出すことはなかった。
「はい。切りかかられました」
「怪我は!?」
「ないようです」
「……はぁ、ならいい。次からは無闇に刃物を振り回す野蛮人は使わないように」
「心得ております」
我が事のように安堵の息を吐いたバーンハードは、鏡に向き直った。そこに映るのは、一部の隙もない美貌。今日も変わらず美しい。
「愛らしい僕のイロハ嬢が傷物になっていたらと思うと……あぁ、胸が張り裂けそうだ。可哀想にさぞ怖かっただろう」
スイッチが入ってしまったことを悟ったソニヤは口を噤んだ。
もし、いろは本人が聞いていたら、殴っていたかもしれない。しかし自分の世界に入ってしまった彼を引き戻せる者はいない。既に、自分の店の一員としていろはをカウントし、勝手に心境を推し量り、その身を案じているバーンハードは、ナルシストだった。
彼が愛して止まないのは、彼自身の美貌。
次に愛しいのは彼に属する全て。幸か不幸か――いろは本人からすれば不幸と即答しそうだが、彼女は既に彼の中では自分に属するモノになっていた。
「可愛い可愛いイロハ嬢……すぐに迎えに行くよ……」
その頃、何かを感じ取ったいろはが、布団をかぶって理由がわからない寒気に震えていたことなど、彼は知る由もなかった。