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【第1話】男が絶滅した世界で、俺の価値は国家予算

「……ん、なんだここ?」


目を覚ました瞬間、鼻を突いたのは甘い百合の花のような香りと、わずかに焦げた魔術の匂いだった。


床は硬い石造り。天井には見たこともない巨大なルーン文字が青白く発光している。


俺——相沢(あいざわ)タツヤは、さっきまで放課後の教室でラノベを読んでいたはずだった。階段を降りようとして足を滑らせ、視界が真っ暗になり……。


(もしかして、噂に聞く異世界召喚ってやつか……!?)


男なら一度は夢見るシチュエーション。


胸を躍らせ、俺は体を起こした。


「おお……召喚の儀式は成功したのか!?」


「静かにしなさい! どのような邪神や異形が現れるか分からないのよ!」


威厳のある凛とした声と、金属が触れ合うジャラリという音が響く。


目が光に慣れてくると、俺を取り囲む人影が見えてきた。


(……え?)


そこにいたのは、全員が息を呑むような美少女と美女たちだった。


艶やかな銀髪を束ね、白銀の甲冑に身を包んだ凛々しい女騎士。


露出度の高いシースルーの聖衣を纏い、豊かな胸元を惜しげもなく晒した聖女。


そして、その後ろにズラリと並ぶ数十人の女子騎士たち。


甲冑の隙間から覗く肌は白く、全員がモデル顔負けのスタイル。


だが、彼女たちの表情は緊張に固まり、それぞれ剣や杖を俺に向けて構えている。


「あ、あの……俺、怪しい者じゃなくて……」


俺が困惑しながら声を上げ、立ち上がった瞬間

だった。


「「「「「きゃああああああっ!??!???」」」」」


地鳴りのような悲鳴が部屋中に響き渡った。


騎士たちが一斉にガタガタと震え出し、後退する。


「喋った……!? 声が……低い! 腹の底に響くような、恐ろしくも重厚なソプラノ……いや、ベース音!?」


「待ちなさい、あの姿……! 股間に……股間に何か変な突起があります!」


「胸が平ら!? 筋肉のつき方が私たちと根本的に違う……まさか、まさかあれは……!」


女騎士たちが顔を真っ赤にし、両手で頬を押さえながら叫ぶ。


なになに? 俺、何か変な格好してる? いや、フツーの制服(学ラン)だけど。


「控えよ、者ども! 私が確かめる!」


人群れを割って前に出たのは、銀髪の女騎士長だった。


彼女は震える手で剣を握り締め、鋭い視線で俺の全身を舐め回すように観察する。


その瞳は恐怖……ではなく、信じられないものを見たという驚愕と、狂おしいほどの『渇望』に満ちていた。


「異世界の来訪者よ……問いに答えよ。汝の……汝の『性別』はなんだ!?」


「え? 性別? ……男だけど」


俺が当たり前のことを答えた瞬間。


ドォォォォン!!!!


まるで部屋に雷が落ちたかのような衝撃が走った。


「「「「「お、お、オトコぉぉぉぉぉぉぉっ!?????」」」」」


悲鳴を超えた絶叫。


数人の女騎士が失神して崩れ落ち、聖女は握っていた木製の杖を握力でバキリと折った。


「バ、バカな……! 男だと!? 100年前に神の呪いによってこの世界から死に絶えた、伝説の存在……『男性』だと存するのか!?」


「本物なの!? 偽物じゃなくて!? 魔法による変身でもなく!?」


「見て! あの喉仏! あの肩幅! そして……あの、あの雄々しい匂い!!」


周囲の鼻がクンクンと一斉に鳴る。


数十人の美女たちが、ハイエナのような鋭い目つきで俺を凝視していた。


全員の呼吸が荒くなり、肩が激しく上下してい

る。


(な、なんだこの空気……!? 殺されるのか!?)


身の危険を感じた俺は、ジリジリと後退した。


「あ、あのさ、男がそんなに珍しいの? ここって男がいないの?」


「珍しいどころではありません!!」


叫んだのは、シースルー聖衣の聖女だった。彼女は狂気を孕んだ笑顔で俺ににじり寄ってくる。


「いいですか、異世界の男神様! この世界『エルドラ』には、今や女しか存在しません! 私たちは精霊の魔力を使った人工授精で辛うじて種を繋いでいますが、遺伝子の劣化により、あと数十年で人類は滅亡すると言われているのです!」


「は、はあ……」


「そこに現れたのが……あなた! 生きた『男』! 100年ぶりに現れた、完全なる男の遺伝子!! あなたの一滴の体液、髪の毛一本すら、この世界では国家予算10年分に匹敵する超絶価値があるのです!!」


「こ、国家予算……!?」


俺は自分の手を見た。


ただの男子高校生の俺が? 勉強も運動もフツーの俺が、髪の毛一本で国家予算!?


「さあ……さあ、聖なるお方! 我が『グランベル聖王国』にその尊い種子を賜りなさい! あなたを我が国の永久最高神として崇め、毎日100人の処女を侍らせて差し上げます!!」


「待ちなさい聖女セシリア!!」


女騎士長が割り込み、聖女を押し退けた。


「我が騎士団が召喚したのだ! このお方は我が王国の王配(国王の夫)となり、我が騎士団の精鋭たちと子を作っていただく! 異世界の男殿、私と……私と今すぐ契りを結んでくれ! 国のため、世界のため、そして……私の個人的な欲望のために!」


「本音漏れてる!! ろ、露出狂の聖女も、鎧の美女も落ち着けって!」


俺が叫ぶと、二人どころか、周囲の女騎士たち全員の目の色が「赤」に変わった。


「「「「「男(遺伝子)を逃すなあああああっ!!!!」」」」」


「うわああああああああっ!??!?」


地鳴りのような歓声(求愛)とともに、数十人の美女たちが一斉に俺に向かって飛びかかってきた!


ダイブしてくる膨大な胸! 伸びてくる無数の細い腕! 香水と体温の熱気が俺を飲み込もうとする!


「冗談じゃない! 俺の純潔は、大好きなラノベのヒロインみたいな子と付き合って捧げるんだよおぉぉぉぉっ!」


俺は火事場の馬鹿力で女騎士たちの隙間をすり抜け、召喚の間を飛び出した。


「追え! 傷つけるな! 服だけを破り取れぇぇぇっ!」


「麻酔薬を用意しなさい! 眠らせてからゆっくり種を搾り取ります!」


「待って! 私のバストはGカップよ! 一度吸ってみない!?」


「誘惑の仕方が直接的すぎるだろ!!! 助けて

くれえええええっ!」


豪華絢爛な城の廊下を、俺は全力で疾走する。

窓から外を見ると、広大な城下町が広がっていた。そして城の塔からは、俺の召喚を知らせる巨大な狼煙と、世界中に向けた緊急魔導通信が打ち上げられているのが見えた。


『緊急事態! 緊急事態! グランベル聖王国にて、100年ぶりの【男】の召喚に成功! 繰り返す、生きた男が存在する!』


その瞬間、遠く見える近隣諸国の国境から、無数の光(転移魔法)が空へと上がったのが見えた。


「おい嘘だろ……?」


男が一人の世界。


俺の存在を知った世界中の国家、女帝、魔王、裏社会が、今まさに俺という「一粒の遺伝子」を巡って動き出そうとしていた。


こうして、俺の異世界生活は——**「貞操をかけた世界規模の逃走劇」**として幕を開けたのだった。

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