10.堂々とご挨拶に参りました
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いつもありがとうございます。
令和2年もあと3日ですね。寒い日が続きますが、お体に気を付けて、良き年の瀬を。
「クレア様、陛下から舞踏会の招待状が届いております」
「クレア様、こちらが国王陛下からの招待状になります」
グスターク邸の一室で、わたしは侍女のメイとイドから招待状を受け取る。
王城の侍女として住み込みで働いていたが、たまには顔を見せてほしいとミリムから連絡を受けていた。
貧民街の荒くれ共を武力制圧して強制労働をしていただく方も軌道に乗り、一段落ついたので、戻ってきていたのだ。
「あら。ありがとうございます」
(ってか、王城で直接渡せばいいのに……)
ちなみにクレアと宰相ジルドの関係が国王に露見したわけではない。よほど律儀な人間ならともかく、あの国王が自ら招待状を書くとは考えづらい。
つまり、この招待状の郵送の指示したのはジルドということだ。
それが意味するところは……
「クレアさーーーーんっ! さぁ、舞踏会に着ていくドレスを選びましょう!!」
「は、はい……よろしくおねがいします」
間違いなく家族サービスだ。自分はそのための生贄だ。
平時の三倍は活き活きとしているミリムの表情に、クレアはそれを確信した。
(これは……覚悟を決めないと)
「メイ、イド。行くわよ! 今回は三十着しか用意できなかったけど、その分良いものを取りそろえたんだから!!」
(さ、三十着!? ……やっぱり逃げたい!!)
「クレア様、申し訳ありません。命に代えてでも逃亡を阻止しろと、奥様に命じられておりますので」
「クレア様、お覚悟を。開き直って協力的になってくださることを、奥様は望まれておりますので」
「そうですね……わかりましたわ」
「自分で歩けます」というクレアの訴えは聞き流され、メイとイドに両肩を掴まれて、クレアは廊下を引きずられていく。
そうして、化粧や髪型まで含めて散々もみくちゃにされながら、四時間後、クレアのドレスは決定したのだった。
それから一週間。
クレアとウィンディアの計画は軌道に乗り、順調に進む中、パーティの日は訪れる。
宵闇のような、青紫色のマーメイドドレス。光沢のある黒のレースと銀糸の刺繍をあしらわれたそれは、クレアの白い肌と対になってよく映える。凛とした顔立ちであることと背丈が一般的な女性より高いこともあり、クレアの纏う雰囲気は十五歳の少女のそれとはかけ離れて大人びていた。
そしてその隣では、淡い緑色のドレスに身を包んだウィンディアの姿がある。
「いいのかしら、わたしに招待状は来ていなかったのだけれど」
「『従者等一名同伴可』と書かれていますから、お友達もその範疇ですよ。そういえばウィンディア様は、舞踏会にはあまり出られないのですか?」
「毎度断っていたら、自然と招待状が来なくなったわ。それにしても……友達か」
「また可愛らしい顔になっていますよ。わたしは好きですが」
「気のせいよ。それかクレアのせいね」
少し恥じらいながら、勇気を出すように時折冗談を言うようになったウィンディア。頬どころか耳まで赤くなっているあたりが、とても愛らしい。
妹に欲しいと思ったところで、これが兄達の奇行の正体かと納得する。なるほど確かに、飛びつきたくもなると言うものだ。まぁウィンディアの方が三歳も年上なのだが。
「王位継承権第一位、クレア・アメストリア様のご入場です」
クレアが会場に入るなり、歓談の声が静まる。
興味、好奇、警戒、嫌悪、様子見の観察。様々な感情が入り混じった視線に、クレアはクスリと笑う。
「あれがこの前決闘したって侍女か? あれが本当に侍女かよ?」
「あの人が、ブレイズ殿下に勝ったという……到底そうは見えないわ」
「あんな美人、国中探しても数えるほどしかいないだろ……」
「あの連れている子は誰かしら? 使用人には見えないけど」
次第に漏れては聞こえてくるヒソヒソ声。
クレアは会場の中央を通り、主催者である国王へと挨拶へ向かう途中も、凛と背筋は伸ばしたまま笑顔を絶やさず、堂々と進む。
国王グレゴリオの前に立つと、スカートを摘まみ、クレアとウィンディアは揃ってお辞儀をした。
「ごきげんよう、陛下。クレア・アメストリア、下賤の者ではなくなりましたので、こうして堂々とご挨拶に参りました。本日はお招きいただき、大変嬉しゅうございます」
「我が息子を王都から追い出しておいて、よくも儂の前に顔を出せたものだな! 儂が貴様を恨んでいないとでも思っているのか!?」
「いえ、気付いておりますわ。刺客を既に十人以上いただいておりますもの。ですがお門違いです、陛下。決闘を先に提案したのはブレイズ様の方ですのよ?」
クレアが微笑むと、グレゴリオは眉間に皺を寄せる。
もしかしたら馬鹿にされたと勘違いをしているのかもしれない。それはクレアにとって嬉しい誤算だ。苛立ってくれた方がボロを出しやすいのだから。
「それともやはり、陛下もわたしと決闘されますか? わたしが勝ちましたら玉座をいただきますわ」
「よもや、この儂が貴様如きに負けるとでも言うつもりか?」
「滅相もございません。陛下の武勇は聞き及んでおります」
グレゴリオ・リンドオール。国内で最強の魔術師と名高いグレゴリオは、ただ一人で千人の敵兵を屠ると言われている。その圧倒的な魔力量は、ブレイズの数倍という話だ。
それが彼の誇りであり、同時に逆鱗である。
だからクレアは相変わらずの笑顔のまま、口調だけは挑発的に言うのだ。
「ですが、番狂わせがあった方が、民衆も喜びますでしょう?」
「待て、アメストリアだと……貴様、まさか……」
「あら、ようやく気付いたのですか? ゼレニア・アメストリアが長女、クレアですわ。
ってか、舞踏会ン時はよくもやってくれたな、クソ外道。テメェごときが踏ん反りがえって今まで好き勝手してきた分、ツケ払わせてやっから覚悟しとけや」
「――――――っ、」
顔を真っ赤にした国王が、魔術式を構える。しかしその直後には、魔力の僅かにこもったクレアの指が術式を貫き、術式が崩壊する。
二度、三度とそれが続き、次第にグレゴリオの顔色が青ざめていく。そこにあったのは、近接戦闘における圧倒的な実力差だった。
「陛下、また改めてお礼参りに伺います。ごきげんよう」
グレゴリオに背を向けて、クレアは歩き出す。
数歩歩いたところで、背後で魔力の気配がしてクレアが振り返ると、躊躇ったようにグレゴリオは魔術式の発動を止めた。どうやら背後からクレアを狙うつもりだったようだ。
(あのまま発動していれば、わたしを殺すこともできたでしょうに。まぁ、そうさせないようにしたのもわたしですけどね)
とはいえ賭けの要素が大きかった。綱渡りもいいところだ。
それでもクレアは首筋を伝う冷や汗を隠しながら、「ではウィンディア様、行きましょうか」と涼し気に笑顔を作る。クレアは本音を言えば、この国王からは少しでも早く離れたいのだ。
けれど、そんなときに限って……
「危ないっ!!」
ズドンッ――――――!!
ウィンディアを庇いながら、クレアが横に飛ぶ。
縦横無尽にしなり、時には液体とは思えない硬さを見せる、水の鞭。
それはクレア達が先ほどまで立っていた場所に大きく突き刺さり、その握り手はこの部屋の反対側の壁際で腕を組んでこちらを睨んでいた。
「ったく、本当に使えないわ……」
鮮やかな青のドレスに、妖艶な笑み。
第一王女アクエリアは、その美貌に上品さを乗せて、けれどその瞳の奥には憎しみの色をはっきりと灯していた。
プリメラ「クレアさん。『軍人あがり』って何ですか?」
クレア 「軍隊出身の漢気あふれる筋肉マッチョってことですわ」
プリメラ「じゃぁ『インテリ』ってなんですか?」
クレア 「賢いって意味ですわね。鼻持ちならないクソ野郎を揶揄してよく使われますわ」
プリメラ「えっと……感想で、クレアさんを『軍人上がりのインテリヤクザ』って」
クレア 「最上級の褒め言葉ですわ!!」
プリメラ「……ヒロインって、これでいいのでしょうか?」
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