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11.令和たぬき合戦

感想・ブクマ・評価、ありがとうございます!

今年もあと2日ですね。皆様が良き新年を迎えられますように。

P.S.早くお雑煮たべたいっ!!






「ったく、本当に使えないわ……ねぇねぇ、私の妹はどうしてどっちも、こんなに不出来で愚図なのかしら」


 水の鞭が一瞬で霧散する。魔力の粒子が再びアクエリアの右手にある魔術式に集まるのを感じて、クレアの背筋に寒気が走る。

 アクエリアはいつでも一瞬であの鞭を発動することができるということだ。ドレスの下に短刀一本と数本の針を隠し持ってきただけの今の状況では、クレアに分が悪すぎた。


「そのっ……アクエリアお姉様……」

「あら、ウィンディア。そんなところにいないで、私の隣にいらっしゃい。そうしたら許してあげるわ。これからも私と王家のために頑張ってほしいのよ」

「えっと、その……」


 ウィンディアがクレアの袖を掴む。クレアがウィンディアを庇うように立つと、アクエリアの眉が苛立ちに上がる。

 涼しい顔をしてるように見えて、アクエリアは内心ブチ切れている。いくらこの国で王族の権力が絶対とはいえ、貴族達が多数集まる舞踏会の会場でこれは拙い。

 やがて騒ぎを聞きつけて警備兵達が集まってくるが、変わらずアクエリアは話し続けた。


「ねぇねぇウィンディア、そこの女は王家の敵よ。ブレイズお兄様を王都から追い出したのはその女ですもの。そんな女が今度はあなたに近づいて、何をしようと企んでいるのでしょうねぇ?」

「僭越ですが、アクエリア王女殿下」

 クレアが話に割り込む。

「わたしはただの、ウィンディア様の友人です。本日は陛下から頂いた招待状に従い、この会場に足を運ばせていただいただけですわ」

「ウィンディアの友人? あんたみたいな侍女風情が……」

「ですので王位継承権が欲しかったのです。これでアクエリア様にも、身分違いと言われずに済みますので」

「は? そんなことのために王位継承権を?」

「ええ。わたしにとっては何より大切なことでございますわ」


 にこりと笑うクレア。

 若干の毒気を抜かれて唖然とするアクエリア。

 会場を覆っていた緊張感が僅かに和らぎ、


「クレア、それでも私は認めないわ! あんたは王家の敵よ!」

「気安く名前を呼ばないでいただけますか? 継承権第一位はわたしですわよ?」


 直後、再び空気は氷点下まで叩き落される。

 貴族達の『マジかよ!?』という表情を眺めながら、それでもクレアは一歩も退く気は無かった。


 クレアにチャンスがあるとすれば、それは大振りの鞭の発動直後のみ。大きく振り上げた瞬間に姿勢を低くして駆け、催眠の魔術を乗せた針を放つしかない。

「こンのっ……」

 クレアの予想通り、頭に血を上らせたアクエリアが、右手の魔術式を発動させる。

 クレアは姿勢を低くし、しかし……


「そこまでにしませんか、姉様? クレア嬢も。今宵はパーティなのですから、もっと楽しい話をしましょう」


 そう言って割って入った青年は、クレアの突進の進路をその身で塞ぎ、同時に土の壁でクレアの身を守ってくれていた。

 茶色の髪に灰色の瞳、目立った特徴は無いものの、優し気な顔をした好青年といった感じだ。


「ラビティオ……」

 ウィンディアが呟いた名前は、この国(リンドオール)の第二王子の名前だった。

「久しぶりだね、ウィンディア姉さん。社交の場に顔を出すなんて珍しいね。これもクレア嬢のお陰かな? ああ……気安く呼んではいけないのだっけ?」

「そうですね、ラビティオ殿下。ですから、優しく呼んでいただける分には問題ありません。こちらこそ騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありませんでした」

「まぁ確かにそれは困ったね。とりあえず床だけでも直してしまおうか」


 ラビティオが床に触れると、砕けた石材が砂となり、更に溶けて平らに固まる。仕上げと言わんばかりに石畳の模様まで浮き出てくるのだから、見事としか言いようが無かった。

 それからラビティオは、膝を着き国王グレゴリオに進言する。


「父上……いえ、陛下。アクエリア様へ退場を命じてください」

「ラビティオ、貴様っ……」

「そうしなければ、クレア嬢が反撃した場合に、我々は彼女を咎めることができなくなります」


(チッ……余計なことを言いやがって)

 クレアは小さく舌打ちした。国王もアクエリアも頭に血が上っている今が、流れを有利に運ぶ好機だったというのに。


 グレゴリオが渋々「アクエリア、出て行きなさい」と言うと、アクエリアはクレアを睨む。顔立ちが整っているだけに、その鋭い眼光が一層際立つ。しかしクレアはそれをさも気に掛けていないかのように受け流し、バイバイと小さく手を振った。


「夜道には気を付けなさい。あなたが八つ裂きの滅多刺しにされる日も近くてよ!」

「王都は随分と治安が悪いのですね。ご忠告感謝しますわ」

「テメェ……わたしが殺してやるって言ってるのよ!!」

「まさか王女殿下ともあろう方が辻斬りの真似事とは……頭大丈夫ですか?」

「言わせておけば、この女(アマ)ぁぁぁぁっ!!」


 叫ぶアクエリアを、警備兵達が引っ張っていく。

 その光景に貴族達は一様に顔を青ざめていた。笑うのを我慢するのに必死になっていたのはクレアだけのようだ。


「クレア、はしたないわ」

「ウィンディア姉さん、今気にするべきはクレア嬢の行儀の悪さではなく、意地の悪さだと思うよ」

「あら、酷いですわ、ラビティオ殿下。拗ねてしまいますわよ?」

「それは困ったね。ただ怒らせるよりも怖そうだ」


 穏やかな口調で頬を掻くラビティオ。

 人柄が良さそうに見えるからこそ、クレアはおどけた振りをしながらラビティオを警戒する。


『あの方(プリメラ様)は王族で最後の良心だった』

 そう言ったジルドから、事前にクレアは王族の情報を聞き出していた。

『じゃぁ第二王子ラビティオは? 帝国(ロシュヴァーン)にいたときには、悪い噂は聞かなかったんだけど』

『おそらくだが……魔術の研究のために人間を金で買っている。貧しい村の子供ばかりを集めてな』

『それって……』


 人身売買。

 人体実験。


 これが本当ならば、よほどのことが無い限り露見しない。

 農民は金を受け取った以上、加担した側なので口を噤むだろうし、リンドオールは王族を相手にして軍や警羅隊が立ち入り調査できるような国でもない。


「ではパーティの仕切り直しとしましょう。クレア嬢、俺と踊ってはいただけませんか?」

「ええ、喜んで」


(こいつ……何を考えてやがる!?)


 指が触れる。曲と共に身体が流れ出す。

 優雅なステップの中にラビティオの癖が見えてくる。しかしクレアがそれに応じれば、その癖はふと鳴りを潜めて意図的に隠される。

 ただダンスを踊っているだけなのに、こちらの心の内を探られているようだった。

 今更隠すつもりもないが、あまり気分の良いものではないなと、クレアはラビティオを睨む。


「そういえば、クレア嬢。君はどうしてリンドオールに?」

「成り行きですわ。たまたまこの国に行き着いて、少し遊びたくなったのでまだここにいる。それだけですわ」

「つまり、君にとってここは、偶然見つけた玩具箱みたいなかんじなのかな?」

「そんな悪趣味な考えなどしておりませんわ。ちょっと盛大にお祭りをしたいだけですの」

「悪い笑みをしてるなぁ……時代錯誤な血祭とかは勘弁してほしいかな」

「それは保証しかねますわ。それよりも殿下、わたしも殿下に教えてほしいことがあるのです」


 僅かに、しかし意表を突くタイミングで、クレアはダンスのステップを加速させる。

 ラビティオの返事を待たず、そんな余裕は与えず、けれど表情だけは穏やかに、クレアは優しい声で囁いた。


「殿下がこっそりやっている方の、魔術の研究は順調ですか?」


「………………何のことだ?」

「あら。噂も馬鹿にはできませんわね。表情から余裕が無くなりましてよ?」

「その噂の出所を是非とも知りたいね」

「内緒ですわ。だって今の殿下、目が少しだけ怖いんですもの」

「俺達は共に協力し合える。そうは思わないかな?」

「ふふっ……美味しいお話であれば喜んで。もっともわたしは、二束三文で買えるほど安い女ではありませんわよ?」


 優雅なダンスとは裏腹に、クレアもラビティオも互いの腹を探り合う。

ひんやりとした宵闇の風が頬を撫で、やがて曲が終わると、どちらともなくバルコニーへと足を進めた。


「クレア嬢。君はこの国をどう思う?」

 庭園を臨みながら、柵に肘を掛けてラビティオが言う。

「勿論嫌いですわ。懐が豊かで心の貧しい貴族と王族のための箱庭。王都の外を初めて見て、ウィンディア様は泣いていましたわ」

「そうだね。姉さんはほとんど城から出かったから、ショックは大きかったと思う。それでも良かったと思うよ。クレア嬢、君が連れ出してくれたんだろう?」

「見定めたかっただけですわ。ウィンディア様の悪評は帝国(ロシュヴァーン)まで届いているのに、本人を見たらまるで印象が違うのですもの。殿下はどうなのですか? この国をどのように思っているのでしょう?」

「複雑だね。納得のいかないところも沢山ある。好きかと問われれば素直に首を縦に振れないよ。けれど一概に嫌いと言うには、愛着がわいてしまっているようなんだ。これが母国と言うものなんだろうね」

「………………」


 ラビティオの気持ちを、クレアは分かるような気がした。ロシュヴァーン帝国を壊すのではなく再建しようとしたのも、自分の中にそんな気持ちがあったのではないかと、ふとそう感じたのだ。


「――――――……、――、」


 クレアが言う。しかし言葉が出なかった。

 再び言葉を発しようとしたとき、目の前が真っ暗になる。


 奇襲には警戒していた。しかし、何の気配も無かった。

 違和感も、魔力の僅かな波動さえも。

 自分の身体から力が抜けて、傾いて落ちていくのを感じる。


 何が起きたのかもわからないまま、クレアの意識は暗闇へと落ちていった。






年末特番!!「あの人は今……」


品行方正で礼儀正しいと言われていたクレア嬢。

帝国から姿を消して一ヶ月。今どこで何をしているのでしょう!?


宰相の妻Mさん「芋……じゃなくて、とっても真っすぐで良い子ですよ。愛らしいドレスに身を包んで、今日は舞踏会へ行っておりますわ」


第二王女W殿下「とても気の合う……その、友達よ。先日もお買い物に行って、お揃いのアクセサリーを買ったわ」


第一王子V殿下「芯のあるとても強い女性だと思います。彼女との出会いで、俺の人生は変わりましたね」


R国国王G陛下「息子よ、ホントそれな……ってか何あの暴力女!! 帝国で早く引き取ってくれないかな!?」


第一王女A殿下「全くよ、本当に目障り!! えっ、品行方正? 礼儀正しい? 帝国の連中、揃いも揃って目玉腐ってんじゃないかしら?」


王国宰相J閣下「黙秘します。ボロを出した瞬間にちょっと色々ヤバいので……マジで勘弁してください」


12人の侍女達「我々の敬愛すべき上官です!! ブッ飛んだ信念の元、悪逆無道かつ極悪非道を常とする堂々とした立ち振る舞いは、他の追随を許さないほどに立派です!!」


伯爵令嬢クレア「リンドオール王国はとても素敵な玩具箱(ところ)だと思います。毎日が新鮮(目に余るところばかり)で飽きること(潰しても潰してもきり)がありませんわ。では、このあと少々皆様へお礼に参りますので、失礼いたしますわね」


素敵な感想、心温まるは励まし、鋭いツッコミをお待ちしております。


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女子高生異世界コメディ書いています。
「異世界転生した瞬間、目の前に魔王がいるんですけど、それってちょっとヒドくないですか?」

コメディ多め、ちょびっとシリアス。勇者な少女の武勇伝です。
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[一言] 薬か魔法かわからないけどほぼ無防備になるピンチは初? 仕込んだ奴スゴいな、大快挙 クレアにも人並みに意識を失う可愛いところがある事が判明
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