結界(シールド)が破られる
結界が破られる
ついに日本の上空で変化が出てきた。如月は空に目をやった。どす黒い雲がたち込めている。雷雲のようにも見えるが、時折雲の数か所が怪しい光を放つのだ。
如月は背筋が凍りつくような恐ろしさを感じていた。
神田じじは神通力を用いながらずっと鬼の様子をうかがっていたが、何か変化を感じ取ったようだ。人差し指を差し出し、黙ったまま車の行く道の方向を示した。
如月誠「みんな、いいか。今日はじいちゃんの指示するとこ行くからな」
全員の緊張感が高まってきた。そんな中サッチィンが口を開いた。
サッチィン「マーチャン、やっぱりほんとに来るようね。
三日続けて鬼が出てきた夢を見たわ。私も神社の娘だからね。
巫女の衣裳に着替えたわよ」
如月誠「ありがとう、わるいな頼む。
詳しい云われは知らなかったんだが昔から如月家に伝わっていた剣、おれの親父は『キサラギの剣』と言っていた。
ただの骨とう品かと思っていたんだが、修業を始めてからこの剣に不思議な力が感じられるようになった。
少しさびていたんで、念のため研いでおいたんだが、まさかこんなことになるとはな。
今、車は国道一二五号線の分抗峠に向かってる。雲の動きが激しくなった。なんかいやな予感がするな」
サッチィンも子供たちも如月と同様に不安を感じとっていた。三人が続けて口を開いた。
サッチィン「マーチャン、どう戦うの?」」
純ちゃん「パパ、ぼくも感じるよ、鬼が迫ってきている」
愛ちゃん「じじが怖い顔してる」
愛ちゃんは今にも泣きだしそうな顔だ。
如月誠「わかってる。大丈夫だ。じいちゃんの他に出雲の神と伊勢の神が
助人で来ている。
鬼に酒を飲ませたり、みんなを守る役割を担当する。
鬼が酒に食らいついて酔っぱらったところに、おれが切り付けてたおすという段取りだ。
だがこれは実際の戦いだから、ゲームのように事が運ぶはずがない」
純ちゃん「でもパパ、ゲームの闘いも、今度の鬼も基本は同じだよね」
如月誠「純ちゃんはするどいな。その通り。
心が負けるとゲームだろうと現実世界だろうとすべてが終わりだ」
現在の三鬼の動きや作戦の進行状況などは、出雲の神、伊勢の神らが逐一神田じじのもとに伝えていた。
その様子を神田じじはみんなに話した。
神田じじ「鬼の猛攻が始まっている。闇の力が日本上空のシールドに迫っていて今にも破られてしまいそうだ。日本海の上空に鬼の姿が現れた」
まるで実況中継のアナウンサーのような話っぷりである。
青鬼「○×▲☆●@Д◎…」
赤鬼「×▽■ф□@●」
神田じじ「現れたか…、鬼たちの話す声が、通信に入ってきている。風が強くなった」
如月誠「西から異常な黒い雲が湧いてきたな」
黄鬼「■◇◎★▽@*…」
如月誠「なんとか、現場に急がないと…」
神田じじ「「あっ、ついに三鬼によって結界が破られてしまった。
シールドはバキバキいって、破片が海まで飛ばされている。
三鬼が地上に降りた」
青鬼「△×□☆●ф…@」
如月誠「じいさん、あと三十分で着く。間に合うか?」
神田じじ「今、出雲と伊勢の神に通信しているところだ」
結界が破られたので闇が日本全体を覆いつくした。
漆黒の闇は今まで人間が体験したことのない恐怖に襲われた
良心的に生きてきた人でも、心が張り裂けそうな不安と憤りを感じていた
悪人は本能に任せてさらに怒り狂いだした。もう人間の力では制御不可能な状況になってしまっている。
サッチィン「マーチャン、水晶のペンダントの光が強くなってきている。
たぶん鬼に反応しているのだと思う」
如月誠「わかった。戦いが終わるまで、日本は混乱するな。ちくしょう」
じいちゃん「如月、次の手は打ってある。このまま車を走らせてくれ。
日本全体のシールドが破られたが、これから新しい結界を
出雲の神と伊勢の神とわしで張る」
如月誠「了解。許すまじ、三鬼」
じいちゃん「はーー神通力。大鹿村の上空に銀色のシールドが
山の形で張られたぞ」
如月誠「わかった。じいさん、到着だ!」
磁場ゼロの巨大断層と大鹿村に向かう。
みんなは車から降りて断層のある地点に急ぐ。
じいちゃん「今からここの結界は、磁場だけに張った十キロ四方の
異次元空間とする。制限時間は三時間。
如月は大鹿村に来ている三鬼を退治して巨大断層から、
違う鬼が出てくるのを阻止してほしい」
如月誠「わかった。サッチィンは子供たちとここの断層で待機してくれ」
サッチィン「マーチャン、いざとなったら私も戦うからね」
如月誠「ああ、頼む」
如月は子供たちをサッチィンに託し、神田じじともに三鬼が降りた大鹿村の酒樽地点に向かって走った。
神田じじ「如月、鬼たちは既に大鹿村に来ている。急ごう」
如月誠「わかった。おれは神社に祈願に行くのは正月くらいなんだが…。
こういう時はまず神に祈りをささげるものなんだな。
『聖剣よ、われに力を与えたまえ!』全てを守ってくれ」
神田じじ「鬼は敏感だ、ちょっとした草の動きや微風にも反応する。やつらを刺激しないように、ここからは慎重に行くぞ。音を立てると奴らに気づかれる。走るのはやめて速足で歩くぞ」
如月誠「そうだな。奴らに見つかったら元も子もないからな」
如月と神田じじは林に置かれた酒樽から百メートルほど離れた木の陰に潜んだ。
神田じじ「如月、奴らがどんな様子か探るんだ」
如月誠「どうやって?かなり遠くなんで、はっきり見えない」
神田じじ「そうだな、じゃあこれを使ってみろ。
『よくみえーる』というんじゃ」
如月誠「なんだ、また新しいじいちゃんアイテムか?
名前がそのまんまだな」
神田じじ「そんなこと言うのならお前には、貸さんぞー」
如月誠「じいさん…、ここでへそ曲げるなよ。どうせ、いつもは
ろくでもない物、見てるんだろうからな。
その、双眼鏡のようなもの貸してくれ」
神田じじ「わしの愛用じゃて…」
そういいながらも、神田じじは『よくみえーる』なる道具を如月に差し出した。如月はそれをのぞき込んで、鬼の姿を確認した。
如月誠「わおー、よく見える。三鬼の様子を見ながら一匹ずつ
倒すしかないな。三匹とも大体二メートルぐらいだな。
赤鬼は角が一本、デブでやたら足が大きい。もう酒をかっ食らっていやがる。相当酒好きのようだ。
青鬼は角が二本。スリムな体型で背中に黒い羽がある。
こいつは危険な匂いがするな。
黄鬼は角が三本、耳が大きく、やけに手が長い。
こいつが三匹の中で一番強そうだ」
如月は『よくみえーる』をじいちゃんに返した。『よくみえーる』を手にした神田じじは、鬼たちの様子を如月に逐一伝えた。鬼のそばには人間の姿になって鬼達の気を引きつけている二人の神の姿があった。
三鬼が空から降って来た時、すぐ酒樽を開けたのが伊勢と出雲の神だ。
じいちゃん「今、伊勢の神と出雲の神が鬼を油断させている」
伊勢の神「さあさ、どうぞ、ぞうぞ。お酒はたくさんありますよ」
赤鬼「○×▽■☆●…@」
出雲の神「はーい、踊ります」
如月誠「あの姿はおれの幼なじみとスナックみどりのママなんだ。まったくやりきれないな」