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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 巡空艦『あさま』の反乱 編
67/72

67 コールサイン


 令和元年もいよいよ終わりに近づいた。

 季節は晩秋から初冬に移り、コンビニエンスストアーでは店内にクリスマスソングが流れ始める時期。

 ここ、航空自衛隊岐阜基地に身を寄せる民間人……つまり日本共和国の亡命者たちだけでなく自衛隊員たちまでも、一年の締めくくりが迫っているこの時期は、不思議と口元に笑みが浮かんでいる。


 ある者はクリスマスを楽しみにし

 ある者は年末年始の休みを楽しみにし

 ある者は大晦日や元旦などの風習に心躍らせる


 このリトルナガサキにおいても、亡命して来た異世界の人々に対して現世界の風習を披露する目的で広場の中央に特設ステージを設置。

 自衛隊員たちの協力の元で、クリスマスパーティーや特設除夜の鐘&年越し蕎麦振る舞い、そしてニューイヤーパーティなどのイベントが計画されている。

 『年の瀬』と言う賑やかなで心地良い響きが、寒さに身を縮める人々の心を暖めていたのである。


 だが、亡命者たちはまだ良いとしても、旧日本共和国所属であった巡空艦『神州』の乗組員たちと、岐阜基地に所属している航空自衛隊『空陸機動団』の隊員たちの表情は硬い。年の瀬に影響されつつも瞳に緊張の色をたたえていたのだ。


 彼らが年末年始の賑やかな空気に染まり切らずに、厳しい表情で日々の日課をこなし続けるのには理由がある。

 あの超巨大要塞「リバティ・ギア・ヘラ」を日本海の佐渡ヶ島沖で撃破してから二ヶ月が過ぎ、日本列島と世界は異世界ソビエト連邦の魔の手から逃れる事が出来たのだが、それで全てが終わった訳ではない。

 何故なら、スフィダンテの契約者である犀潟智也とヘラの契約者だったエリーズが会談を行った際に、ヘラはあくまでも前進基地であり、半年後に異世界ソ連軍の本体が侵攻して来て合流したのち、本格的な日本占領作戦が行われると言う情報を得ていたからだ。


 神の奇跡、神の力の具現と呼ばれる神器“リバティ・ギア”のプレイヤー・ウィールと、人間が作った模倣のプレイヤー・ウィールでは、性能の差は天地ほどに離れており、明らかに出力の差がある。

 数十時間、数日程度の魔力充填をもって、リバティ・ギアら次元境界跳躍を行う事が出来るのに対して、人工プレイヤー・ウィールを用いた巡空艦などは半年近くの準備期間が必要となるのだ。

 つまり、ヘラを敵地に先行投入したのちに、異世界ソ連軍の本隊がやって来るのだ。


 ヘラが撃破されて前進基地を失ってしまった今、異世界ソ連側の日本侵攻作戦の方針は、大きく変わらざるを得ないはずではある。

 異世界ソ連側が日本侵攻を諦めてくれるのが一番なのだが、プライドが高ければそれは許されないはず。

 つまりは、巡空艦などの通常移送手段の準備が整う半年後……ヘラ撃破から二ヶ月経過しているので、残り四ヶ月後に異世界ソ連軍の大々的な軍事侵攻があるかも知れないーー 日本政府や自衛隊では、その予感を具体的な予測に変えて、有事に対応するための準備を始めていたのだ。


 今は戦闘状況ではないが、水面下で準備を行う時期。自衛隊空陸機動団の隊員や巡空艦神州の乗組員たちは、常に備え、常に鍛えていたのである。


  ◇  ◇  ◇


 岐阜基地に係留される旧日本共和国の巡空艦『神州』

 その士官食堂では今、他人が聞くと「割とどうでも良い」と思いがちだが、本人たちにしてみれば真剣に考えなければならない会議が進行している。


 何人もが並んで座れる細長いテーブル、真っ白なテーブルクロスが敷かれたその清潔感漂うテーブルの中央で、年齢もまちまちの男女四人が難しい顔をしながら話す内容はズバリ、「コールサイン」の件。

 神州の徳永戦術長と、レディオ・オペレーターのマーゴットの二人と対面していた智也とクラリッタは、なかなかに結論の出ない議論に頭を痛めていた。


 航空自衛隊の空陸機動団の中核となった巡空艦神州は、有事の際にリバティ・ギア二体を作戦空域へと運搬する役目が課されている。

 そして作戦空域で智也とクラリッタのリバティ・ギアが作戦行動を起こすのだが、そこで正式な無線呼び出し用名称 『コールサイン』が必要になったのである。

 と、言うのも、作戦空域には空陸機動団の航空機・輸送機・地上設備部隊・地上打撃部隊が一気に混在する状況になるので、今まで通り神州とリバティ・ギアだけの相互交信だけでは済まなくなったのだ。


 よって、智也とクラリッタがそれまで仮の名称として呼ばれていた『神州マルヒト』『神州マルフタ』の時代は終わる。内輪(うちわ)だけでなく、航空自衛隊側からも呼称される立派なコールサインが必要になったのだ。


 ーー本日はその会議。徳永戦術長が議題を提起し、マーゴットと智也、そしてクラリッタが知恵を絞りあっているーー


「本来ならば、君たちの意向など御構い無しに、勝手に作戦本部が決めてしまうのだが、君たちは純粋な軍人じゃない。これだと思うものがあれば、好きに決めなさい」


 徳永戦術長がそう言って、会議のスタートを宣言させる。

 いきなり決めろと言われても……と、智也とクラリッタは躊躇するのだが、ある程度のガイドラインとして、スフィダンテの専属レディオ・オペレーターであるマーゴットが、コールサイン決定にあたり考慮すべき概要の説明を始めた。


・コールサインとは無線を発信する者の身元を隠す呼び名である

・作戦中のみの期間を区切った、戦術的限定コールサインではなく、今回は永続的な軍用航空コールサインを決める

・陸自などの地上部隊では漢字を充てる場合もあるが、日米安保など多国籍軍との合同作戦も今後考えられる事から、今回は航空公用語である英語で決める

・これは無線発信者=無線局のコールサインではあるが、リバティ・ギアを駆る者として極めて秘匿性の高いコールサインになる。つまりコードネームと同じ感覚。謎に満ちたカッコ良い名前で考えろ


 単に無線の呼び出し名を考えるだけなのだが、カッコ良い名前を考えろと言う言葉が少年心の琴線に触れたのか、智也はノリノリになって頭を(ひね)り始める。

 しかし勉強が出来て英語の成績も良かった智也ではあるが、いざとなると意外にもカッコ良い英単語を知らないのか、知恵を絞れば絞るほどに、悩めば悩むほどに深みにハマって行ったのだ。


「バイパーなんてありきたりだしなあ……」

「毒ヘビねえ、確かにありきたりかな」

「マーヴェリックなんてどう? 」

「私もいるのに一匹狼って酷いわよ」


 口を「へ」の字に結んだクラリッタが抗議する。

 しかし身体の芯から腹を立てている訳ではなく、智也との会話を楽しんでいるようにも見える。

 それが証拠に、クラリッタは不満を表明しながら彼に急接近して自己を猛アピール。智也は冷や汗を垂らしながら「クラリッタ近いよ」と頬を赤らめている。


「マーヴェリックがダメなら、アイスマンはどう? 」

「あ、犀潟君それってもしかして、映画のトップガンから取ってるでしょ? 私この前初めて見たの、俳優さん素敵でカッコ良かったわあ」


 今度はマーゴットが黄色い歓声を上げて喜び始める。ーーどうやら最近こちらの世界の文化に触れたのか、とある映画俳優に熱を上げているようだ


「ネタの出どころがバレたか。なあ、クラリッタは何かアイデア無いのかよ? 」

「私は智也が決めたのが良い」

「何だよそりゃあ、俺より君の方が英語は詳しいった言うか、本場だろ? 」

「私は智也に決めて欲しいの。あなたの決定なら異論を挟まず従うわ」


 ……とほほ、結局自分しか頼りにならねえじゃねえか……


 日本人がカッコ良い発音だと思う英単語が、実は大した事の無い物の名称であったり、逆にカッコ良い物が英単語にすると呼びにくい変な発音であったりと、なかなかにしっくり来なくて苦悩を重ねる智也。

 やっと閃いても、既に兵器や乗り物の名称に使われていたり、スフィダンテやブリタニアのイメージから遥かに遠い物を表していたりと、出口はまだまだ先のようだ。

 

 だいぶ飽きて来たのか、あくびを何度も噛み殺す徳永戦術長が、(もうしょうがねえから)フォネティックコードから引用するかと提案するも、それこそ多国籍軍との合同作戦で間違われるとマーゴットに却下されてしまう。


 フォネティックコードとは、無線通信などで文字や数字の組み合わせを正確に伝えるために、Aならアルファ、Bならブラボーなどと、アルファベット文字と数字に定型の通話単語を当てはめたものである。


「やっぱり……英単語でビシッと決まるようなのを選ばないといけないのか」

「そうよ。それに、リバティ・ギアの存在を匂わせるような、謎のカッコ良いコールサインをね」

「何か他人事みたいな言い方だな。クラリッタもちゃんと考えろよ」

「私は悩んでる智也を見てるの。リーダーに従うのが私の役目」


 顔を真っ赤にしつつ、髪の毛をかきむしりたくなる衝動に駆られるも、何とか踏み留まる智也。

 ブリタニア発現以降も距離を置く事無く、何かにつけてクラリッタは急接近して来ている。まるで恋人のような距離感を取ろうとするのだ。

 それは思春期の少年にとってらあまりにも刺激的。毎日毎日が誘惑との闘いに変わっている。

 確かに照れるからやめてくれと言うのは簡単だが、ブリタニア契約以前に垣間見てしまった「彼女の闇」の部分が霧散しているのも事実。彼女に毒気が全く感じられない事から、智也は「魅惑的なありがた迷惑」に振り回されていた。


 ……リバティ・ギア、それも本当の神々ではなく、神々に闘いを挑む挑戦者。挑戦者スフィダンテと、人々の願望の女神ブリタニアを駆る俺たちは、神の操縦者でなければ純粋な軍人でもない。言うなれば正統派じゃなくて邪道……


 いよいよ退屈の限界が近くなって来たのか、大きなあくびをかき始めた徳永戦術長

 智也のために何とか良い名前が閃かないかと、眉間に皺を寄せて真剣に悩むマーゴット

 “遊んでよ”とアピールする子犬のように、熱い眼差(まなざ)しでチラチラと智也の視界に入って来るクラリッタ


 据え付け型空気清浄機のモーター音すら聞こえて来る静かな士官食堂で、三種三様の光景が繰り広げられているのだが、ここで静寂を打ち壊す一言が放たれた。何気無い智也の一言が、三人の心を震わせたのである。


「俺とクラリッタは邪道の非正規部隊……つまり、イレギュラー」


(イレギュラー!)


 徳永もマーゴットも、クラリッタさえも目をまん丸にひん剥いてその単語を噛みしめる。

 普通じゃない、不規則、変則的、例外的を意味するイレギュラーが、的確に今のスフィダンテや智也たちを言い表している事に目を見張ったのだ。ーーそれも、謎と言うオブラートに包みながら


 こうして、コールサインは決定した。

 犀潟智也の操縦するスフィダンテは「イレギュラー・1 (ワン)」

 クラリッタ・アディントンの操縦するブリタニアは「イレギュラー・2(ツー)」


 本人とクラリッタ、そして関係者全てが納得のコールサインが誕生したのであった。



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