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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ スフィダンテ・マークⅡ その名は 編
57/72

57 共同生活?


 航空自衛隊員の正装を着用した少年が、巨大収容施設“リトルナガサキ"の通用口を抜けて街中へと入って行く。


 本人に支給された制服と言うよりも、式典に間に合わせるために急遽レンタルされたような、どことなく身体に馴染まない礼装用の隊服は、ある意味自分は隊に染まっていない人間だと主張する、意志の現れにも似ていた。

 だが左腕がアームホルダー(上肢固定ギプス)でがっちりと固定された痛々しい姿は、ヘラ迎撃作戦が成功した直後の時期である事から、彼を見る者、すれ違う者たちは軍属や民間の亡命者に限らず、彼を死線を彷徨った戦士と言う眼で見ていたのである。


 少年の名は犀潟智也

 この日本が、いや世界が有する唯一のリバティ・ギア契約者であり、異世界から侵攻を開始したソビエト連邦のリバティ・ギアと対峙する者。

 本人が考える将来への夢や希望は全て失われつつも、今をどう生きるかでもがき続ける少年であった。


 亡命者を収容する巨大ドーム。江戸時代に海外との窓口になった長崎の出島を模し、リトルナガサキと呼ばれるこの施設は、ドーム内にトレーラーハウスとコンテナハウスをズラリと並べた街になっており、個人のプライバシーが保証された状態での生活が可能となっている。


 一般的で平均的な日本人の労働賃金を算出し、亡命者や共和国軍兵士には日本円が支給され、リトルナガサキ内に設置した商店街での物品の購入などで経済感覚を覚えたり、やはりドーム内に設置されたゴミステーションや銭湯施設、公民館などによる社会生活を体験し、亡命者に関してだけ言えば、ゆくゆくは普通の日本人として社会に羽ばたくカリキュラムが組まれている。

 巡空艦神州の乗組員である日本共和国の兵士に対しては、後に自衛隊員として正式徴用される案も出ているが、今はまだ犀潟智也ともども空陸機動団付きの「謎の戦略戦術研究同友会」と言う曖昧な外郭団体に位置しており、政府側の最終的な結論は出ていなかった。


 ドーム内の亡命者エリアを抜けるともう一つのゲートが現れる。保安員が左右に立つそれは共和国軍兵士が収容される軍属エリア。

 一般の亡命者たちから“もう一人の犀潟智也”として好奇の目に晒される違和感から逃れるように、早足でゲートの前に立った智也は、身分証明書を提示して軍属エリアへと逃げるように入って行く。


 ーー今日の夕飯は何にするか?


 どんな状況でも腹は減る。

 悲しくても、悲しみを乗り越えた時も。そして怒りに震える時も絶望した時も。


 たった一度会って朝食を共に話しただけの女性だったが、何て印象深い人だったんだろう。凛々しく思慮深く、それでいて太陽のように輝いていた人物だった……そうエリーズの事を回想しつつ偲びながらも、智也の足は軍属エリアの商業区画へ。

 スーパーの前に差し掛かるも、自分の服装を思い出して慌てて立ち止まった。


 ーーいかんいかん! こんなカッコで店に入れば目立ってしょうがない


 入り口直前で翻り、足取りは自分の家の方向へ。

 確かカップラーメンとパックご飯の備蓄があったよなと自分自身に問いかけつつ、自宅へとたどり着いた。


 家族向けトレーラーハウスよりも一回り小さなコンテナハウス、土建屋さんの現場事務所より一回り大きな個人向け……これを二件分繋げたのが智也の家、彼を取り囲む様々な視線から自らを守る最後の砦だ。


 ガチャリと鍵を開けて扉を開ける。

 玄関口から右側にはキッチンとユニットバス、そして左側には机にクローゼットにテレビ台にベッドがあるのだが、飾りっ気も何も無いビジネスホテルの一室のよう。機能的と呼べば聞こえは良いが、味も素っ気も無い無味無臭の空間が広がっている。


「……ふう」


 小さなため息で緊張を解き、ベッド横のクローゼットを前に着替え始める。

 ガチガチに固定された左腕を気にしながら、慣れない片手での着替えに悪戦苦闘する智也。しかしその時はまだ気付いていなかったーーベッドの脇、入り口側の対面に謎の「扉」が付いていた事を


 上下スウェットの気楽な姿になり、冷蔵庫から麦茶を取り出し喉を潤す。

 さて、あるを尽くして簡単な夕飯でもとキッチンに足を運んだ時、智也は本来そこにいるはずの無い者と目を合わせた。

 いきなりガチャリとユニットバスの扉が開き、全裸の金髪少女が現れたのだ。


「い、いいい! 」


 驚きのあまり仰け反った智也、バランスを崩して床に転倒。左腕をしこたま床に打ち付けてしまう。


「ぎゃあああ! 痛ってえええっ! 」


 床に横たわりながら涙目で痛みと戦う智也、まだ抜糸もしていない腕の傷は思いのほかに自己主張が激しく、ドクンドクンと脈動を打ちながら派手な痛覚を伝えて来る。

 だが、傷口開いちゃったかな? と心配するほどの痛みに耐える智也の目の前に、更なる衝撃的な光景が広がった。


 ユニットバスから出て来た金髪の少女、最初は智也と鉢合わせしてポカンと呆けていたが、左腕を押さえてのたうち回る智也を見て心配したのか、そのままの姿で駆け寄り、智也の目の前でしゃがんで覗き込んだのだ。


「ねえ君、大丈夫? 」

「痛ええ……は、ハダカ! 何でハダカなんだよ! 」


 強烈な痛みと、目の前に広がった見た事の無い世界に完全なパニックに陥る智也。ピントのズレた疑問を少女にぶつけるのだが、少女の返しも相当ピントがズレていた。


「失礼ね、服を着たままシャワー浴びる人なんていないわ」


 リトルナガサキの街に智也の悲鳴が響き渡ったこの少女との出会い、これこそが智也とクラリッタの初顔合わせであったのだ。



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