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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ スフィダンテ・マークⅡ その名は 編
52/72

52 パイロット救出訓練



 ……『こちら青嵐。神州マルヒト、神州マルフタ、感明(無線感度明瞭確認)送れ』……


 ……『こちらマルヒト、感明良し』……


 ……『こちらマルフタ、感明良し』……


 ……『こちら青嵐、ヒトヒトサンマル時をもって予定回収地点に到達した。マルヒトとマルフタの誘導を開始する、送れ』……


 ……『マルヒト、了(了解)』『マルフタ、了』……



 右も左も前も後ろも全てが木々に囲まれた深い深い森。

 見渡す限り人の気配が全くしない森の中で今、無線の電波が静かに飛び交っている。


『こちら青嵐。神州マルヒト、現在地送れ』

『こちらマルヒト、現在地は、えっと……』

『どうしたマルヒト? 現在地を答えないと誘導のしようが無いぞ』


 ここは岐阜県のとある山中。

 観光地でも温泉地でもない単なる林野で、極めて軍事色の強い訓練が行われている。


『青嵐からマルヒト送れ』

『こちらマルヒト、ちょっと待ってください……』

『悩むなマルヒト! 地図とコンパス、太陽の位置と山の稜線、見るべきものはたくさんあったはずだ! 』

『うう、ううう……』

『もう良い、マルヒトは後回しだ! 青嵐からマルフタ送れ』


 コールサイン青嵐が主導し、コールサインマルヒトとマルフタを誘導する訓練。


 ーースフィダンテ墜落時のサバイバル訓練及び、緊急即応部隊(QRF)のパイロット救出作戦訓練ーー


 ・リバティ・ギア(スフィダンテ)が敵勢力圏内に不時着し、敵地上部隊が捕虜にする目的で不時着地点に進軍を開始したと想定する訓練。

 搭乗者はサバイバル技術を駆使して敵勢力圏内からの脱出を目指す事。そして緊急即応部隊は敵地内深くへ潜入して搭乗者の保護と脱出誘導を行う二段階の訓練となる。


 無線で頻繁に飛び交っている青嵐と言うコールサインは、分隊十一人規模でチーム組織された特殊部隊の事を指している。

 航空自衛隊に新設された謎の部隊『空陸機動団』に所属する特殊部隊、その中でもスフィダンテと搭乗者犀潟智也の周辺に起きるトラブルを解決するための緊急即応部隊(QRFーーQuick reaction force )。智也の命を守るために設立された部隊なのだ。


 そして無線に度々出て来る「神州マルヒト」「神州マルフタ」……これが救助を乞う立場である犀潟智也のコールサインなのであるが、何故か二人いる。

 神州マルヒトは間違いなく誰が聞いてもその声が智也本人である事が分かるのだが、何故か神州マルフタは女性の声である。


 誰もがここで疑問を抱くはずーースフィダンテはこの世界の犀潟智也を契約者としたリバティ・ギアであり、この国この世界にとって唯一無二の存在である。ならば何故“マルフタ”と呼ばれる女性が智也と肩を並べているのか?


 彼女の名前はクラリッタ・アディントン 十七歳

 異世界ソ連軍の第二次侵攻いわゆる機動要塞ヘラ襲来から一週間の後に、突如航空自衛隊岐阜基地に現れて智也と行動を共にする事が認められた少女であった。


『神州マルフタから青嵐、送れ』

『こちら青嵐、マルフタの誘導を優先する。現在地送れ』

(われ)の現在地、クラッシュポイントより五時の方向六キロ。貴隊の回収地点まで残り三百メートル、敵情(敵勢力の存在)無し、送れ』

『青嵐了、特定するから視認出来る目標物を教えろ、送れ』

『我の位置、後方三十メートルに雑木林、左に山の稜線を確認大きな木が四本並ぶ、左斜面下百メートルに民地農機具小屋を視認している。位置確認出来るか? 送れ』

『青嵐視認した。良いぞマルフタ、そのまま前方へ匍匐前進しろ。五十メートル先で我が待つ』

『マルフタ、了』


 名前からして外国人である事は想像出来るのだが、多少アクセントには違和感が残るものの、何とも流暢な日本語で受け答えするクラリッタ。サバイバル技術や身の隠し方、位置確認の着眼点などもなかなかに優秀で、無線から聞こえて来る青嵐の声も彼女を全面的に信用しているかのような、安心した声で誘導している。


 (ひるがえ)って、この訓練の最大の問題児は「神州ヒトマル」。

 野外キャンプの訓練に出て三日目なのだが、ことごとく犀潟智也がブレーキとなって皆の話題を独り占めしていたのだ。



『青嵐からマルヒト送れ』

『こ、こちらマルヒト……送れ』

『神州マルフタは無事回収して脱出した。マルヒト回収を始めるぞ』

『マルヒト、了』


 ーーこの後が大変だ

 地図と目の前に広がる景色が重ならない

 コンパスを地図を重ねても方位と進行方向がピンと来ない

 そもそもクラッシュポイント(墜落地点)からどれだけの距離を移動したかもうろ覚え

 まるで要点を押さえられずに、いちいちちんぷんかんぷんな無線を寄越す智也は、いよいよ教官側の青嵐からカミナリをどんどん受けるのだ。


『自分の歩数歩幅を覚えておけと言っただろ! 』

『地図の等高線でなぜ起伏のイメージが出来ない! 』

『森の中と言っても目印はあったはずだ、漠然と見逃したのは君だぞ! 』

『バカモン立つな! 伏せろ! 』

『遮蔽物の無い場所で顔を上げるな、丸見えだぞ! 』


 聞いているこっちが気の毒に思えて来るほどのサンドバッグ状態なのだが、無駄な訓練などある訳が無い。

 智也が自分自身の身を守れるようになる事を達成目標としている以上、彼が文系インドア派だからと甘やかしてはいられないのだ。


 結局、ヒトヒトサンマル時(十一時三十分)に青嵐がマルヒトとマルフタを回収し、青嵐に護衛されながら安全圏に脱出する訓練は大幅に時間を遅らせて終了し、一行はベースキャンプに帰着した。


 時間は十五時、二時間遅れの昼食を摂り始めた『青嵐』ことQRFチームの兵士たちとクラリッタ。ホカホカの戦闘糧食2型に舌鼓を打ち始める。

 完全なる野営訓練ではあるが、純粋な自衛隊員に対して施す訓練ではないので、完全サバイバル訓練の色合いを薄くしてはいる。皆を乗せた兵員輸送車で野外炊具1号を牽引し、暖かい食事を提供しているのだ。


 カロリー補給の観点からうるち米を使用したご飯パック二個。そしてハムステーキとポテトサラダ、お吸い物、海苔

 これらをレトルトパウチ包装でまとめて野外炊具1号で湯煎すると、出来立ての食事にありつけるのである。


 ハムステーキの肉肉しさを堪能しながら、白いもち米の甘さに笑みを漏らすクラリッタは、慣れない日本食を心から楽しんでいるよう。人気の無い山野の風景も相まって和の風光明媚さを醸し出しているのか、ハードなトレーニングが続くもまんざらではない表情だ。

 もう一方の智也はここにはおらず、クラリッタが食べ終わっけ後片付けを終えた頃に、ようやくキャンプに姿を現わすーー汗だらけでヘロヘロになった姿でだ。


 サバイバル訓練を見事に失敗した智也は、キャンプに戻った反省会で罰として腕立て伏せ五十回、そしてその場で反省すれば良かったのだが、ついつい訓練教官に口答えしてしまい、このベースキャンプ周辺を全力疾走五周する罰が上乗せされ、見るも無残な状態で戻って来たのである。


「ぜえっ、ぜえっ! ひゅー、ひゅー」

「お疲れ様、水飲むでしょ? 」


 クラリッタが水筒を手渡そうとするも、自分のがあるから大丈夫と、目を合わそうともせずに座り込み、バッグから自分の水筒を取り出し喉を鳴らす。


 ーー方や与えられた課題を軽々とクリアして行く優等生で、俺はいちいちケチが付く鈍臭い劣等生。優劣がはっきりしているこの状態、笑うなら笑えば良いさーー


 ひねくれている訳ではないのだが、優劣の差にイライラしながら、智也はまだクラリッタの存在を受け入れていない。


 ヘラ撃破後……エリーズの死のショックからまだ立ち直れておらず、独りにさせて欲しいと言う願いもそのままに、突然目の前に現れて共同生活をすると言われても理解を示せる訳がない。

 それも、自衛隊や日本政府の意向を飛び越えたアメリカ合衆国政府が、公式且つ高圧的に犀潟智也と共に生活をさせろと押し付けて来たのであれば、余計に反感を買ってしまうと言うもの。

 クラリッタ本人に罪があるのだと浅はかな結論には至らないが、気に入らないものは気に入らないのだ。


 いくら彼女が機能を停止するポータルを左手に持つような特殊な状況下にあったとしても、彼女が多くを語ってくれない以上、自分が下手(したて)に出る筋合いは無いと意地になっていたのだ。

 そしてこの演習場へ赴く前の段階で、彼女を(かたく)なに拒む原因も発生した。智也はとにかく認めたくないのである。



「智也、あなたが帰って来る時間を見計らって、温め直して貰ったわよ」

「あ、ど、どうも……すみません」


 だがしかし、どんなに意地を張っていたとしても、根は素直な単なる田舎の少年。他人の優しさにはついつい素が出る智也であった。



 この章では、犀潟智也の前に突然現れた少女、クラリッタ・アディントンの背景・生い立ち・家族の系譜に焦点を当てる事となる。



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