↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 作戦名「ブギーマン」 編
51/72

51 サヨナラは言ったはず 後編


「神州聞こえるか? こちらスフィダンテ、犀潟智也だ! 攻撃中止、攻撃中止してくれ! 」


 エリーズが用意した重力エレベーターにスフィダンテごと乗りながら、巡空艦神州に攻撃中止要請を行う智也。順調にエレベーターの輪は上を目指すのだが、神州や海自の攻撃でヘラの上部が爆発炎上を繰り返し、大きな振動や落下物でスフィダンテ自体も危険に巻き込まれそうになって来ている。


「マーゴットさん、聞こえるか! 攻撃をやめてくれ! 俺も危ないけどエリーズが……エリーズが! 」


(……智也君?……也君なの? ……こちら……スフィダ……応答……)


「マーゴットさん! こちらスフィダンテの犀潟智也、攻撃を中止してくれ! ヘラは既に戦闘不能でエリーズが助けを求めてるんだ、戦いは終わったんだよ! 」


 ヘラの上層階に近付くにつれてやがて無線の通りも良くなって来たのか、マーゴットの声などお構い無しに叫び続けた結果、それが功を奏したのか爆発はピタリと止んだ。


「……こ、これは……」


 重力エレベーターの輪が止まり、たどり着いたのはヘラの操縦室。ギリシャ神話に登場する神殿のような大広間も、今は見るも無残に破壊されて廃墟のようだ。


「エリーズ、エリーズどこだ! 」


 スフィダンテをしゃがませてコクピットから飛び降りる。瓦礫を乗り越え、かき分けながらホールの中心にたどり着くと、智也は一瞬で青ざめて硬直した。……大きな血だまりに浮かぶエリーズを発見したのだ。


「……エリーズ、エリーズ、エリーズ! 」


 顔をクシャクシャにしながら駆け寄り、何度も何度も彼女の名を呼ぶ。


「……トモヤ、来てくれたか……サヨナラは言ったはずなのだが……恥を忍んで……お願いしたい事が……」


 このヘラの操縦室も浮上した際にミサイルなどの直撃を受けたらしく、エリーズは至近弾の爆風に吹き飛ばされたようだ。

 綺麗なサラサラの髪は血でベッタリと濡れ、左腕と左足は爆発の破片で吹き飛ばされたのかグニャグニャに折れ曲がっている。破片が身体を貫通したのか腹と背中から今もおびただしい量の血が溢れ、どれが致命傷なのかも判別出来ないほどに人体の損壊は激しく、最早生きているのが不思議なほどの状態なのだ。


「聞く! 何でも聞くから……医者に行こう! 」

「……ふふ……もう……無理だ。それよりも……早くしないと……」


 左目も破片でやられたのか、眼窩がぽっかりと穴を開けており、残った右目で必死に智也の姿を探すエリーズ。

 智也は彼女の横にひざまづいて右手を握り、ここにいるぞと声をかけるのだが、それでも彼女の右目は宙を彷徨っていた。


 ヘラの重力制御がもうもたないーーそれが智也が呼ばれた理由。

 このままエリーズが心臓を止めれば、重力制御で浮かしていた『ヘラの海』が海面に落下、新潟県沿岸におびただしい津波被害を巻き起こす。それを智也に防いで欲しいと言う願いであったのだ。


「レアアース採掘基地には……ソ連兵もいる……兵に罪は無い……最後くらいは……綺麗に逝きたいのだ……」

「わかった、分かったよ! 俺やるから! 」


 エリーズの返り血など御構い無しに、右手を握りながら空いた手で頬を撫でてやる。


「スフィダンテ、スフィダンテ! ヘラのプレイヤー・ウィールから能力を引き継げ! ヘラが発揮中の力をそのまま継続させろ! 」

「……水は……成層圏まで……持ち上げれば良い……ジェット気流に乗って……綺麗に散らばる……」


 スフィダンテは立ち上がり操縦室の後方へ。奥に鎮座するヘラのプレイヤー・ウィール格納庫の壁をバリバリと引きちぎり、プレイヤー・ウィールに手をかざす。


「エリーズ、エリーズ、エリーズ、俺たちにはこんな出会いしか無かったのかな? 」

「……泣くなトモヤ、平和の守り人よ……君に、君に出会えただけで……!」


 エリーズの身体がビクンビクンと波打つ

 口と鼻からゴボゴボと大量の血を吹き出し、右目も視点が定まらず虚ろのままだ。


「エリーズ、しっかりしろ! 」


『報告、報告! リバティ・ギア・ヘラタイプの能力を継承! 重力制御による水の上空廃棄を実施する! 』


 スフィダンテのポータルが報告を終えると同時に、エリーズの身体から力が抜ける。

 いよいよその時がやって来たのだが、まだ彼女は何か言い足りないのか、力無く口がパクパクと動いている。

 何が言いたい、何を言っている? と智也が彼女の口に自分の耳を寄せたーー


「……この世界にも……エリーズはいるんだろ? ……もしその子が……寂しい思いを……しているなら……友達に……なってやって……く……れ……」


 智也はいてもたってもいられなくなったのか、心臓の止まった彼女の上半身を抱え、きつく抱きしめながら頭を撫でてやる。


「この期に及んで他人の心配なんかしてんじゃねえよ!何だよ、何なんだよおっ! 」


 やり場の無い怒りに打ち震えながら、エリーズの死を悼んで号泣する智也。やがてスフィダンテのポータルからは水の廃棄が順調に行われている事と、「空に向かうあの大量の水柱は何だ?」と巡空艦神州からひっきりなしに無線が入っているとの報告を受ける……


 ーーヘラの襲撃は終わったのだーー


 作戦名「ブギーマン」は成功した。タンスの中から現れた悪魔は見事に家主を倒した。

 ヘラの下に位置するレアアース採掘基地では、やがて退路を断たれて帰る手段も失った異世界ソ連軍が全面的降伏をして来るであろう。

 異世界ソ連軍の所持する兵器には、人造の模倣プレイヤー・ウィールを使用した兵器も大量に存在し、この世界においてはリバティ・ギアでなくとも喉から手が出るほどに欲しい貴重品である。

 ヘラ攻撃のために出撃していた海上自衛隊の護衛艦隊も、応援に駆けつけたアメリカ太平洋艦隊も、レアアース採掘基地に向かって嬉々として向かうはず。

 日本海沿岸住民には津波を想定した大規模避難を指示したが、市民に大した被害も無く、自衛隊の損耗も極力抑えた大成果であると言えた。


 ただ、気をつけるべきは『半年後』。

 先日エリーズと面談した智也の話では、ヘラが現世界へ侵攻を始めた半年後に本格的な侵略部隊が現れるそうなのだ。つまりヘラはその足掛かりを担う前線基地に過ぎないと言う事。



 丁重な葬儀を行うためにと、エリーズの亡き骸をコクピットに乗せ神州に帰投するスフィダンテ。

 日本海の海原にゆらゆらと落下して行くヘラ本体を背に、スフィダンテを操縦する智也はまだ嗚咽を繰り返している。


 だが、感傷に浸っている暇など智也には無い。

 何故なら半年後に戦乱の悲劇はまた訪れるのだから。



 ◆ 作戦名「ブギーマン」 編

   終わり



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。