表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!要塞「ヘラ」襲来 編
33/72

33 神州再び空へ


 巡空艦神州の食堂では今、当直乗組員たちの夕飯を用意していた調理員チームが、予定を超えるオーダーが突如入った事で騒然としている。


 平時の交代勤務を行なっていた事から、全乗組員の内船に残った三分の一の乗組員だけの食事を用意すれば良かったのだが、突如降って湧いた指示に従い全乗組員分の夕飯を用意するとともに、向こう一カ月分の糧食を確保せねばならなくなったのだ。


 その指示が一体何を意味するかと言えば、つまりは『平時の終わり』ーー神州が空に飛び立つ事を示唆しており、巡空艦が緊急に動くとなればそれは計画的な訓練ではなく戦いが待っているのである。


 調理員たちが額に汗を浮かべながら、味噌汁サラダに煮込みハンバーグと……必死になって用意している頃、そして乗組員たちが真剣に神州を空に上げる準備を行っている頃。

 神州のブリーフィングルームにおいて、いよいよその船出の目的が明かされる事となる。



 天井は相変わらず低いものの、コンビニエンスストアほどの広さと奥行きをもった室内に集められたのは、副長の岸田少佐以下の下士官たち。更に甲板員チームの各責任者たちに機関部責任者、そして徳永少佐と麾下のCICチームにオブザーバーとして乗り込んで来た航空自衛隊の幹部自衛官のチームと……神州の各セクションの責任者たちが呼び出されている。


 岸田少佐一人だけがブリーフィングルームの出入り口扉の傍らに立ち、呼び出されたクルーたちは全員椅子に座り、前方の真っ白なモニターに顔を向けながら沈黙を保つ。


 ーー小松基地から岐阜基地を通じ、異世界ソ連軍のリバティ・ギアが出現したニュースは皆が耳にしている。技術進化の分岐が違う事から、ソ連軍の魔装兵器に対して自衛隊の現有兵器が通用しないのも理解している。


『多分、俺たちの出番だ』


 誰一人として笑顔を見せず、誰一人としてその時間を退屈だと思わず、ただただ沈黙と言う名の緊張だけが走り抜けるブリーフィングルームに、いよいよ副長の声が轟く。


「総員、気をつけえっ! 」


 ガチャリと扉が開いて榎本艦長が入室した瞬間、集まった乗組員たちは電気的に背筋を伸ばして立ち上がり、直立不動の姿勢を取る。


「艦長が入室、総員敬礼! 」


 一糸乱れぬ敬礼を前に、艦長の榎本はブリーフィングルームの中央に立って返礼。後について入室して来た犀潟智也と、犀潟智也の窓口係となっている航空自衛隊統合幕僚監部の永谷三等空佐と防衛省の鴻巣参事官の計三人は、榎本に促されながら彼の脇に立った。


「総員なおれ、着席! 艦長の説明に傾聴せよ! 」


 大した 物音も立てずに整然と席に着く者たちを前に、榎本は全クルー緊急招集の意図について口を開いた。


「もう皆も知っていると思うが、日本海に異世界ソ連軍のリバティ・ギアが出現した。結論から言えば我々が迎え撃つべく出撃する。徳永少佐、前へ……」


 艦長ってのはやるかやらないか、行くか退くかだけを言えば良いんだ。それが艦長の責任だとばかりに斜め後ろに一歩退き、戦術担当士官の徳永少佐を前に招く。

 当たり前の話、既に艦長とCICの間でプランは完成されている。いるからこそのブリーフィングであり、兵士たちに説明するのは自分の仕事だ。

 ーー真っ白な口髭が印象的な歴戦の戦術家は、モニタースクリーンに日本地図を投影させながら、一切の躊躇なく乗組員の前で口を開いた。


「状況を先に説明する。本日ヒトゴーニーマル、日本海の佐渡ヶ島近海に巨大な質量体が出現した。それは佐渡ヶ島沖にあるレアアース採掘基地に向かって進みながら、基地三キロ手前で静止している」


 モニタースクリーン上で佐渡ヶ島周辺とレアアース採掘基地がクローズアップされる。

 レアアース基地の北側に映し出された巨大質量は東西三十二キロ、南北五十九キロの佐渡ヶ島と全くもって見劣りしておらず、乗組員は度肝を抜かれながら背筋に冷たい汗を滴らせるーーこんなヤツに勝てるのかと不安を掻き立てられているのだ


「現れた巨大質量体は、異世界ソ連軍が有するリバティ・ギアのヘラタイプだと推察される。また、現出した理由としては、スフィダンテの確保ではなくレアアース基地の占領と資源の奪取が予想される」


 ーー先ほど、ヒトゴーサンナナ時に、航空自衛隊小松基地から飛び立った戦闘機二機が対領空侵犯措置として警告を行ったがヘラタイプはそれを無視。何らかの威力を行使して同二機を撃墜したーー


「以上をもって日本政府は巨大質量体を異世界ソビエト連邦軍所属のリバティ・ギア・ヘラタイプと認定! 我々巡空艦神州とスフィダンテに防衛出動準備命令が下った! 」


(防衛出動! )


 異世界日本共和国出身の乗組員たちからしてみれば何ともむず痒い言葉遣いではあるのだが、彼らもこの日本の仕組みを理解しようと努力している今、その言葉が何を意味するのかは分かっている。

 つまりは敵リバティ・ギアを撃滅せよと言う命令。

 この世界で唯一、プレイヤー・ウィールを持つ魔装戦艦と唯一のリバティ・ギアをもって、襲って来た敵を屠るのだ。


「このヘラタイプに関しては、正直なところ情報が乏しい。我々の母国である日本共和国が焦土と化した当時、ヘラタイプは別次元でナチスドイツとの戦争に投入されていた事から戦力がまるで把握出来ていない。我々が直ぐに現地に飛んで全面的に争うのは危険と判断した。よって本作戦の前半は敵ヘラタイプに対する強行偵察と位置付ける! 」


 モニタースクリーンに映る佐渡ヶ島周辺地図が再びズームアウトされ、この岐阜基地を含む広域地図へと変化する。

 今神州が係留されている岐阜基地には、神州を表す赤い矢印の基点が表示されており、そして日本海の西側……山口県沖合には青い矢印が点滅していた。


「本日フタマルサンマル、我々神州は出撃し、先ずは石川県の小松基地を目指す。小松基地で補給後に佐渡ヶ島近海のレアアース採掘基地を目指すが、強行偵察である旨を心掛けろ。スフィダンテによるリバティギア戦や当艦も含めた決戦は、山口県沖合から東進する海上自衛隊の護衛艦隊と、小松基地から発進する空自戦闘機との合同作戦となる」


「おお……」 ここで初めて乗組員たちの口から歓声が漏れる。

 この世界の近代兵器が、プレイヤー・ウィールを核とした魔装兵器に対して脆弱であっても、単身巨大な化け物を相手にするよりも自衛隊の全面的な協力が得られるとするならば、いくらかは気休めにはなるのだ。


「良いか! 我々が強行偵察において敵リバティ・ギアの全容を把握しなければ、生まれたばかりのスフィダンテを出す訳にはいかないし、自衛隊の協力を得る事も出来ない。全ては強行偵察の精度に全てがかかっていると心せよ! 」


 徳永少佐は最後に自分の腕時計で現時刻を確認しながら、全員ヒトハチマルマルに時計合わせ、フタマルサンマルに飛ぶぞと念を押して艦長に振り返る。これでブリーフィングは終了なのだが、いつも通り乗組員に向かって艦長から締めの一言をお願いしますと、アイコンタクトで送ったのである。


「うむ。飛行目的と行動詳細については、今戦術長から話があった通りだ。追加も削除もない、皆で力を合わせて結果を出そう」


 榎本艦長がブリーフィングに参加して締めの言葉を述べる時は、必ずと言って良いほどこの言葉で締める。それだけ戦術長を尊敬している証であり、それだけ部下である乗組員たちの練度を信用している証でもある。

 だが今回に限ってだが、珍しくその後に新たな言葉が続く。ーー乗組員たちだけでなく、オブザーバー参加の自衛官や防衛省の参事官そして、犀潟智也にまで視線を回しながら、ブリーフィング終了を宣言しようとした岸田副長に軽く手を振ってそれを遮り、改めて語り出したのである。


「この世界にとって我々は今、最後の砦となっている。やがてこの世界でもプレイヤー・ウィールの生産が始まれば、我々の肩の荷も降りる日が来るかも知れないが、それまでは我々が護り続けなければならない。我々が置かれた特殊な状況は状況としても、覚悟が必要だと皆は感じているはずだ。そして逆転の発想で考えてみよう。我々は最後の砦であって、その背後にはまだ何も無い……つまり我々が生き急いではいけないのだ」


 ーー昼行灯(ひるあんどん)のようだった艦長が珍しく語ってるーー


 歴戦の勇者として尊敬しており、決して卑下している訳ではないのだが、乗組員たち普段とは違う艦長の一面に戸惑っている。


「だから敵と刺し違えちゃいけないんだ。我々の後に続く者がいないなら、たとえ勝てなくても負けちゃならないんだ。この言葉を胸に、生き延びる努力を続けるように」


 言い終えた榎本は岸田副長に目を配る


「総員、気をつけえ! 榎本艦長に敬礼! 」


 この榎本艦長の言葉は、誰に対して何を意図して言った言葉なのかーー誰もそこまで踏み込んで考える事は無かったが、岸田副長と徳永少佐だけは一瞬だけ口元に笑みをたたえていた事、誰も気付いてはいなかった。


 ブリーフィングは無事終わり、後は各自が準備を整えて神州を空に上げるだけ。

 ーーいよいよ巨大なリバティ・ギアに対しての迎撃作戦が始まったのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ