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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!要塞「ヘラ」襲来 編
34/72

34 政治将校は肥え太るブタ



『ただ今より国木田総理の緊急記者会見が始まります。番組を中断してそちらを中継致します』


 (いか)つい表情を作った男性アナウンサーと女性アナウンサーが頭を下げ、画面は政府の記者会見場へと切り替わる。


 夕方のニュース番組も後半に差し掛かり、高速道サービスエリアにある飲食店が集まったご当地グルメコンテストの話題が報じられていたのだが、それらは途中でカットされてしまった。番組内容の大幅変更はこのテレビ局のニュース番組だけでなく、全ての局で切り替わるほどの“大事”であったのだ。


「……本日の午後、新潟県の佐渡ヶ島沖に未確認飛行物体が突如現れました」


 沈痛な面持ちでそう切り出した総理は、その未確認飛行物体が直径十八キロもある巨大な質量体である事を国民に向かって説明し、佐渡ヶ島沖からレアアース採掘基地に向かって徐々に移動を始めた事を明かした。


 今年の初夏に現れた異世界のソビエト連邦日本自治州軍や本隊のソビエト連邦軍ーーどちらに属する兵器なのかまでは判明がつかないが、レアアース採掘基地を襲撃して地下埋蔵資源を奪取しようとしている動きに間違いはなく、基地の職員に危険が迫っている事と日本の固有資源が奪われてしまう可能性を示唆しつつ、既に軍事侵攻が起こった事実を国民に明らかにしたのである。


「この巨大な質量体が佐渡ヶ島近海に出現したことを受けて、航空自衛隊小松基地から二機のFー15イーグルが発進。対領空侵犯措置として規定に従った注意と警告を発し続けたのですが、何ら回答も無いままに二機とも撃墜されてしまいました」


 長々と状況の説明に終始する中で口が渇いたのか、傍に置いてあるコップの水をごくりと喉に通す。

 そして楽観的な要素を一切廃したかのような内容を語っているこの記者会見において、国木田総理はスピーチ原稿を投影するプロンプターではなく、記者席後方にズラリと並ぶテレビカメラに視線をかぶりつかせ、喉から絞り出すような声で国民に宣言を行った。


「巨大質量体の出現と前回の飛行艦隊の出現とも照らし合わせて、異世界のソビエト連邦が日本国と我々日本人に対する恒久的な侵略の意思を持っている事は明白となりました。よって私は内閣総理大臣権限として、自衛隊法第6章第76条に規定されている【防衛出動】を自衛隊に命令。自衛隊による速やかなる自衛権行使を目指します」


 ーー尚、防衛出動命令の発令には事態対処法9条に基づいて国会の承認が必要ではありますが、巨大質量体に対する緊急処置の必要性がある事から、事後承認をもって……



「ふむ、このテレビと言うのもなかなか面白いものである」


 まるでオリンポスの神殿を思わせるような大理石の床と見事な円柱に囲まれたリバティ・ギア・ヘラの「操縦室」。

 普段くつろぐ大広間から重力エレベーターを使って一つ上の最上階にたどり着くと、ちょうどこの巨大質量体の頂点に立つヘラ像の上半身……目の部分にたどり着く。

 ヘラの契約者であるエリーズ・ド・アレクサンドリーヌ・ブルボンは、度重なるソ連側兵士たちからの出撃交渉にウンザリしたのか、大広間から逃げるように操縦室へと場所を移し、この世界のテレビ番組を眺めながらそれを楽しんでいたのである。


 操縦室と言ってもモニターやシートなど機材らしき機材が一切見当たらない、ガランと開けた空間の中央で豪華なソファに一人座るエリーズ。仕組みこそ分からないものの、目の前の空間に浮かぶ『テレビ画面』にかぶりつき、時折独り言を呟きながら時間を過ごしている。


「なるほど、こちらの世界は公用語が英語か。あの忌々しいブリテン者たちがだいぶ頑張ったようだな」


「日米安保とな? アメリカ合衆国とはこれ面妖な。(わらわ)の世界では、彼の地はオスマントルコが制したと言うのに」


「なるほど、プライムミニスターは妾を倒すと言うか。それはそれで重畳至極、全力で来てもらわなければ倒し甲斐がない」


 エリーズが眺めるテレビ画面の中で国木田総理の開戦宣言は終わり、やがて記者に対しての質疑応答が始まる。


「……プライムミニスターに対してスフィダンテとは何ぞやと聞いておるか。まだこの世界ではリバティ・ギアの存在を隠しているようだな」


 ーー失笑ものだとエリーズは苦々しい表情で呟く。


 どこかの新聞記者が国木田総理に質問した内容とはこれ『昨今の自衛隊界隈、特に航空自衛隊の幹部たちの間から“リバティ・ギア”や“スフィダンテ”と言う名前が聞こえて来る。それらは一体何なのか? 本年度の防衛装備品には掲載されていないが、秘密兵器なのか? 』


 もしアメリカとの秘密協定により調達された最新兵器ならば、いくら非常事態であっても国民に対して情報開示すべきだと詰め寄っていたのである。


 しかし総理はリバティ・ギアはともかく、スフィダンテなどと言う名前など聞いた事が無いと首を横に振るのだが、次の記者次の記者とマイクが回る度に同じ内容の質問を突き付けられており防戦一方だ。


「この先そう言う世界と闘って行かなければならぬのだ。隠し通せる訳が無かろう」と、エリーズは肩を揺らしながら呆れ顔でクスクスと笑う。


 そろそろ飽きて来た、どこか別のチャンネルで興味深い放送はしておらぬのかと、指でスマートフォンを撫でるように空間を撫でる。すると記者会見を映していたテレビ画面がチャカチャカと変わり始めるのだが、唐突にその画面の隣に新しい画面が開き、その枠の中で執事のマルセルが頭を下げている。


『お休みのところ申し訳ありません』


「何事か?……あ、いや。毎度済まぬなマルセル、どうせマクシモヴィッチ大尉だろ? 」


『直にお目にかかり、申し上げたい事があるとの事で、いかがなさいましょう』


 一日の間に何度このやり取りをすれば良いのかと、最初こそ顔を紅潮させて怒りをにじませたエリーズであったが、モニターの先で申し訳なさそうな表情をするマルセルの顔が可笑しいのか、笑いで沸点を超えてしまう。


「ふふ、損な役割でお前も大変そうだから上げてやるか。大尉を案内してサークルの中に立たせろ」


 仰せのままにとマルセルが身を引いてしばらく……階下のエレベーターサークルに人間が立った事を知らせる電子音が。エリーズはスマートフォンの画面をフリックするように、目の前の空間を撫でてしばし待つ。


「やっと、やっとお目にかかりました」


 現れたのはソビエト連邦軍の軍服を着ながらも、純粋な軍人ではない者。

 ソビエト共産党本部から送り込まれた政治委員で「射殺を含めたあらゆる手段により、反革命分子に対して非情なる対処を認められた者」。プロパガンダや革命教育を施しつつ、軍部隊が逸脱行為を行わないよう監視の任務にあたる者がこの、ヴィクトー・マクシモヴィッチ大尉なのだ。


「難儀なものよな、途中で諦めれば楽でいられるのに」


 エリーズはゆったりとソファに座りなおして足を組み、不敵な笑みを浮かべながら招かれざる客と対峙した。

 一方それが私の役目ですからとエリーズの前で直立不動を崩さないマクシモヴィッチも、不敵な笑みを返す。


「制圧目標であるレアアース採掘基地に到達したとのこと。同志エリーズ英雄大佐、先ずはお祝い申し上げます」

「世辞はいらぬ……で、どうせ部隊を展開させたいとでも言うのだろ? 大尉が言い出したのか、それとも将軍たちか? 」

「レニングラード軍管区の総意にございます。残念ながら戦勝祈願のパーティは開催する事叶いませんでしたが、華々しく進軍する機会を頂きたく存じます」


 レアアース採掘基地を前にしたまま無為な時間を過ごしたくない、このリバティ・ギアから部隊を展開させて早々と占領したい旨を申し出ている。

 しかしエリーズはそれを良しとせずにしばしの沈黙を置いてマクシモヴィッチ大尉に答える。ズッキーニをストンと輪切りにするような軽快な一言でだ。


「却下だな」


 この一言がひどくこたえたのかマクシモヴィッチ大尉の顔が真っ赤に燃え上がった。部隊の将校たちの想いを背負っていると勝手に自負していたのか、そのプライドが完全に打ち砕かれたのだ。


「同志エリーズ英雄大佐どの、理由をお聞かせ願いたい。私は同志たちにそれを説明して納得させる義務がある」


 詰め寄る大尉の鼻息は荒く、怒り狂っているのは手に取るように分かる。だがエリーズは彼の怒りを鎮める事に何らの価値も見い出していないのか、淡々と今置かれている現状を説明した。


「本作戦をもう一度思い出して反芻(はんすう)してみるがよい」


 それを枕言葉に口火を切ったエリーズは、出来の悪い部下を見下すような冷え切った瞳のまま、抑揚の無い淡々とした低い声で説明を始める。


 ーー本作戦の到達目標は佐渡ヶ島エリアとレアアース採掘基地である。レアアース採掘基地の占領目的は貴重資源の確保であり、佐渡ヶ島は半年後に現れる増援部隊のための橋頭堡陣地に変える。日本侵攻作戦の下準備と言える。

 尚且つ、本作戦には目標地点の確保と同時に、日本共和国の残党と新たに生まれたリバティ・ギアの排除命令も含まれている。

 この世界では未だプレイヤー・ウィールによる魔力機関が発明されていない前時代的な世界かも知れぬが、ウラジオストク艦隊とリバティ・ギア・アレスが被害を被ったのは確か。早々と部隊展開して採掘基地占領に向かわせるのは時期尚早であるーー


「このヘラは能動的な敵殲滅兵器ではない、拠点防御に特化した移動要塞である。敵軍本隊も現れていないのにやすやすと部隊を野に曝け出せば、何かあったら回収するのも一苦労だ」


 理詰めで追い込まれたマクシモヴィッチ大尉。理詰めに対して理詰めで反論出来ないのか、その表情は露骨にエリーズを嫌悪しながらも苦しそう。

 だがそれでも引き下がろうとしないのには理由がある。この共産党嫌いの生意気な娘との面会を終わらせてしまえば、次はいつ会って話が出来るか分からないのだ。


 ーーこのフランス王国の生き残りの娘などにゴマなど擦りたくはない、本部に対して『私が政治指導したソ連軍』の華々しい戦果を自慢げに報告したいのがその本心。彼にとっては出世のための長期出征であり、自分を飾る戦果が必要なのだ。


「同志エリーズ英雄大佐、私の胸の内にとどめておきますが、英雄大佐らしからぬ消極的判断と申し上げます」

「な……んだと? 」

「この世界にプレイヤー・ウィールが存在せず、魔装兵器が存在しないならば、それこそ一気呵成に攻め込むべきではないですか? 」

「大尉はウラジオストク艦隊と同じ轍を踏めと申すのか」

「あれは旧日本共和国の残党と未知のリバティ・ギアにやられただけの事。この世界の武力など恐るに足りません」

「大尉は何も学んでいないようだな。巡空艦一隻とリバティ・ギア一機が自由に動けた背景に目をやれ。彼奴(きゃつ)らがこの世界の協力体制下に入ったと何故気付かん」


 この応酬、ここで政治将校の本音が現れる。

 理屈や完全なる正論を力で打破する精神論ーー忌むべき悪魔の本性が現れたのだ。


「必要なのは革命の精神を持ち続ける事であり、革命の覚悟を持った圧倒的な前進あるのみです! 労働者は汗を流し続け、軍人は前に進み続ける。志半ばで屍となっても革命の精神は生き残り続ける。革命の先駆者として死んでも、後進者に対し何ら恥ずべき事などありません!」


 このヘラで運搬されて来たソビエト連邦軍は闘いたがっている、戦果を上げたがっている。それが結果として多数の被害と死傷者を出したとしても、簡単な話増援すれば良いじゃないかと大尉は説いて来たのだ。


 これにはエリーズの顔色も変わる。氷の女王のように冷たかった表情と視線が、まるで百八十度変わったかのように顔色を朱に染めて烈火の如く怒る。

 兵の命をチェスの駒程度にしか考えていない政治将校に我慢出来なかったのか、嫌悪と激怒の雷が落ちたのだ。


「このエリーズ・ド・アレクサンドリーヌ・ブルボン、フランス王国でルイの名前を重ねる血筋にある貴族だが労働者を邪険に扱った事は無い。死地に赴く兵士たちの命を軽んじた事も無い。貴族には貴族の矜持があり、貴族たらしめんとする生き様がある! 何が革命の精神だ、貴様の出世のために兵の命を捧げよとしか妾には聞こえん、貴様は他人の命で肥え太るブタだと知れ! 」


 思わぬ逆襲にたじろぐ大尉は、虎の尾を踏んでしまった自分を呪い始めたのか顔面蒼白。それでも負けを認める訳にはいかないのか、ブルブルと震える細い声を絞り出しながらも最後の抵抗を試みる。


「私の提案に耳を貸して頂けないと言う事はつまり、人民のための党を裏切る行為……人民の敵として党に報告せねば……ぎゃあっ!」


 マクシモヴィッチ大尉はそれを最後まで言い切る事は出来なかった。

 何故ならエリーズの指がすうっと空間を撫でた瞬間、大尉は直立不動のまま一切の受け身を取る事も出来ずに、顔面から床に倒れこんだからだ。

 エリーズがヘラに命じ、その能力で大尉を無理矢理押さえつけたようにも見えるのだがその圧力は凄まじく、床と圧力の狭間にある大尉の肋骨がベキベキベキと壮絶に鳴りながら割れて行くのが聞こえる。


「この痴れ者め! フランス王国とこのヘラは、ソビエト連邦と共闘はするも軍門に下った覚えは無い。穢れたハーメルンの笛吹きよ、屍肉にたかるウジ虫よ! 妾は貴様のような戦士の矜持も持たぬクソ騒動屋が大嫌いなのだ」

「痛い……いひゃい……! すびばぜん……ゆるじで……」


 あまりの痛さに我を失ったのか、あっさりと前言を翻して許しを乞う大尉。苦悶の表情には大量の涙と鼻水が滴り落ちている。



 『アヴァティスモン! 』『アヴァティスモン! 』『アヴァティスモン! 』


 エリーズがあとちょっと続けていれば、マクシモヴィッチ大尉は背骨と頭骨までも粉砕されたであろう。しかし大尉は思わぬきっかけで命が救われた。

 この荘厳なヘラ操縦室の至るところの空間に画面が現れ、そこには赤い字で「AVERTISSEMENT」ーーフランス語で警告を意味する文字が表示され、その点滅に合わせてポータルの音声がしきりに警告を発し始めたのだ。


「ポータル、何事か! 」


 大尉を痛めつけていた圧力を解除してヘラのポータルへ問いかけると、驚くべき内容の返答を発せられる。


 先程彼女は大尉を前に「彼奴(きゃつ)らがこの世界の協力体制下に入った」可能性を説いた。つまり亡国の巡空艦とリバティ・ギアが、この世界の日本と共闘体制に入った可能性に言及したのだがそれがズバリ読み通りに当たったのだ。


『報告、報告! 日本の本州、岐阜上空にプレイヤー・ウィール反応! 魔力紋識別の結果旧日本共和国軍所属の巡空艦神州と判明!現在石川方面に北上中』


「なるほど、もう手は組んでいたか」


 怒り狂う鬼神の顔からキリリとした戦士の顔に戻ったエリーズ。目の前でうずくまる大尉を前に「軍医に見てもらえ、ゲスが」と侮蔑の言葉を投げかけながらサークルを発生、大尉を階下へと追いやった。


「巡空艦神州、それにスフィダンテ。先は長いんだ、ゆっくり楽しもうじゃないか」


 物珍しそうにこの世界のテレビ番組を見ていた時よりも、エリーズの瞳は爛々と輝いていた。



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