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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 対決!リバティ・ギア「アレスタイプ」 編
22/72

22 一握りの覚悟


「……うえっ! ……おえええっ!……」


 目尻と鼻から大量の涙をポロポロとこぼしながらエチケット袋を口に当てた智也は、せっかく胃に収まったトンカツ定食だけでなく胃液まで絞り出すように嘔吐しつつ、天地逆となった世界で地上に向かって落下して行く。


 “地球は丸かった”


 青かったと言うセリフなら人類の宇宙開発初期においての有名なセリフではあるのだが、智也は十六年間の人生において、理論や画像や模型や動画ではなく、肉眼でそれを確認するチャンスに巡り会えたのだ。


 だが、落下が始まった途端に身体を襲う擬似無重力状態に三半規管を駆逐されてしまい、感慨深げに眺めている暇などまるで無い。

 横軸回転で天と地をぐるぐると回転させていたスフィダンテはやがて姿勢制御に成功し、いよいよ頭を下に猛然と落下を始めたからだ。


 ターゲットは敵のリバティ・ギア

 ギリシャ神話の戦神アレスの現し身にたった一発の拳を叩き込むために、成層圏下層までジャンプしたのちアレス目掛けて高速落下の途中にある。


 スフィダンテポータルによる落下推奨速度はマッハ2

 音速以下の亜高速だと拳がアレスに当たった瞬間、充分なモンロー効果が発現する事が出来ずに表面的な破壊だけで終わってしまう。

 逆にマッハ2以上の音速で衝突すると、アレスに衝突したスフィダンテの拳から衝撃は全身におよび、高確率で全身粉砕の危険性があるらしい。


 もちろん推奨速度マッハ2を維持してアレスに拳を叩き込んだとしても、右腕は付け根のジョイント部分から粉砕されてしまうのだが、神木骨格と神聖翡翠鎧は十秒で再生する計算らしい。

 つまりは最少限度のダメージで最大限の効果を求めた結果、両手と両足を大きく広げて大の字になるスフィダンテは、大気の波に乗ったり切り裂いたりと速度調整を繰り返し、高速でアレスに肉薄していたのである。


『告げる! 目標まであと一分、目標まであと一分! 』


 日本海の鳥取県沖から上昇したスファダンテが落下を始め、眼下に能登半島をまたいで富山湾に差し掛かる頃にポータルがそう告げる。

 だが次の瞬間、ポータルが何やら異変を感じたのか、けたたましいアラーム音を鳴らしながら智也に警告を発し始めたのだ。


『警告、警告! 無数の超高速飛翔体が接近中! 回避行動推奨、回避行動推奨! 』


「な、なな……何だ急に、何が接近して来るんだよ? 」


『解析中、解析中! 衝突まであと二秒! 』


 ーーあっ、あと二秒って言われても、どうすりゃ避けられるんだ! ーー


 当たり前だが、智也がこのセリフを言い切る時間的な余裕は全く無かった。

 何故ならば、智也が覗くモニターにキラリと輝く光点が現れた途端にドカンと言う強烈な衝撃音を伴い、スフィダンテは上下左右に猛烈に振動したからだ。


『警告、警告、左肩部に被弾! 貫通銃創だが被害軽微。神聖翡翠鎧の自動再生修復開始する』


 上下左右前後にと……激しく揺れるシートの上で、どうやら敵の攻撃がスフィダンテに命中したらしいと智也が悟ったのは、思わぬ場所からの知らせである。


「ぐっ! ぐうう……うぎゃあっ! 肩が、俺の肩がっ! 」


 コクピットのシートに固定されたまま、智也は自分の左肩を右手で抑えながらその場でのたうち回る。左肩に強烈な熱さと痛覚を覚え、苦悶の表情だけでは我慢出来ずに悲鳴を上げたのだ。

 つまりスフィダンテと智也がリンクすると言う事はそう言う事で、スフィダンテ本体に被害が及ぶと智也自身の身体にも痛覚の信号が送られるのである。


『告げる! 神聖翡翠鎧の修復完了、プレイヤーウィールの魔力供給配分を通常モードへ』


「ポータル、ポータル! 教えてくれ! スフィダンテが被害を受ければ俺の身体にも痛みが走るのは理解した。痛みだけなのか? それ以上のダメージはあるのか? 」


 メインモニターに映し出される日本海、見下ろしていた雲々がどんどんとモニターに近付いては後方へと消えて行くその光景の中で、人為的に表示された無数の赤い光点からスフィダンテを遠ざけるようにと、忙しく操縦桿を動かす智也。

 その中で疑問と言うよりも確認の意味合いを持った質問をポータルに対して行ったのだが、結果としてはあまり嬉しくもない予想通りの答えが返って来た。


『回答! スフィダンテ起動中は常に契約者と神経細胞で魔力接続されている。本体被害においては契約者に痛覚被害が及ぶが、物理的身体損傷は無い』


 

 ーーって事は、痛みだけは感じるんだ。ロボットに乗ってるからって安心して無茶は出来ないんだーー



 A4のコピー用紙で指先を切っただけで、熱さと痛さとそれらに対する悪寒が身体を走り抜けるのに、これで敵のリバティ・ギアに体当たりで突っ込んで右腕が粉砕されようものなら、自動修復を待つほんの数十秒の間に、気絶どころか気が狂ってしまうのではないか……。


 全身に鳥肌を立てながら慄然とする智也の背中に、冷たい汗がドッと滴り落ちる。


「それでもだ! もう後に退けないならば、やるだけやってブッ壊れるしかない! 」


 やけっぱちになった訳ではない。

 あくまでも冷静にスフィダンテ右腕粉砕後の自分を想像しながら、それでも尚倒すべき敵は倒さねばならぬと腹を据えたのであり、智也はあらん限りの勇気を絞り出して覚悟を決めたのだ。


 ポータルが敵リバティ・ギアまで後十五秒だとカウント開始の宣言。智也は強張った顔で涙目になり、恐怖で手足をカタカタと震わせながら、雑念を排したのかまばたきもしない瞳で、表示されたリバティ・ギア・アレスタイプの光点を一心不乱に凝視し始めた。


 いよいよ敵に向かって、渾身の一撃を喰らわす時が来たのだ。



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