後編※ディー視点
あれから数年の時が経ち、みずきも最初の頃に比べて少しずつ成長していってる。ボクもそれに合わせて身体をほんの少し大きくした。
精霊の見た目の変化は年数を重ねるほど、調整しやすくなる。ボクはまだ未熟だったから小さい姿だったけど、今はみずきと同じくらいの身長になるまでの力がついていた。
ただ、ここ最近のみずきは……ボクと遊んでいても以前のように楽しそうではなく、どこか上の空で退屈そうに見える。
ああ……嫌な予感がする。
「みずき、どうしたの? 最近ボクと遊んでてもつまらなさそうで、すごく悲しいよ」
つまらなさそうにしているみずきに思わず問い掛けると、みずきは悲しそうな表情を浮かべる。
「ディー、ごめんね。私、もうココに来ない……ディーとの毎日が退屈なの」
嫌な予感は的中してしまった。覚悟していたこととはいえ、みずきから聞かされることで余計ショックは大きい。
「そんな……イヤだよ、ボクはみずきとずっと一緒が良いっ!!」
悲しみから無意識に涙がボロボロと溢れてくる。そんなボクを見てみずきは切なそうに眉を下げ「ごめんね」と小さく呟いた。
このままじゃまずい気がして、慌ててみずきに手を伸ばすけど――ボクが触れるよりも早く、みずきの身体が蜃気楼のように揺らぐ。
「イヤだみずき!! ボクを一人にしないで!!」
ボクの叫びも虚しく、みずきはすうっと消えてしまう。みずきがいた箇所に触れてみても、そこにはもう何も無い。
ボクがある意味みずきを消してしまったようなものだ……あんなことを聞かなかったら、みずきはまだもう少し此処に居てくれたかもしれないのにッ。
後悔してももう遅いと分かっていても、こうしていたらとか色んな思考が頭の中をグルグル巡る。
けど、そんな時……ボクはみずきと約束する為にした契約のことを思い出す。そうだ、大きくなったらみずきは必ず此処に戻ってきてくれる。
それまではすごく寂しいけれど、人間が大人になるのは精霊であるボクにとってあっという間の時間だ。
ああ……早くみずきに逢いたい。
■□■□■
あれから10年近くが経つ。ボクの契約の際に施した魔力によって、もうすぐみずきは此処に帰ってくる。
ああ、早く逢いたいよみずき……あれからボクもみずきに併せるように成長してみたんだけど、ボクのこの姿を見たらみずき吃驚するかな?
逢った時のことを色々考えていたら、後ろの茂みから誰かが来る足音が耳に届く。
若干緊張しながら後ろを振り返ると――そこには、あの時から更に綺麗になったみずきの姿があった。
「みずき、おかえり……ずっと待ってたよ、みずきが大きくなるのを」
「ディー……」
あまり吃驚させないように、ゆっくりと歩み寄ってみずきの身体を抱き寄せる。
この日をどれだけ待っただろう……これからはずっと一緒だからね、みずき。
「あのねディー……約束はしたけど、私にはその資格無いと思ってるんだ」
……今、みずきはなんて言った? 資格はない? つまり約束を取り消すということなのか?
そんなのダメに決まってる、みずきはボクと約束したじゃないか、ずっと一緒に居ると……ボクから離れようだなんて、許さないよみずき。
「……メだよ……」
「っ……ディー? 今……なんて?」
みずきがボクから離れようとするから、そうはさせまいと強く抱き締め直す。みずきの身体が強張っているけど、今離したら消えてしまう気がするから……もう、独りは嫌なんだ。それにみずきは幼い頃言ったじゃないか。
『うん、やくそくはまもらなきゃダメってセンセーいってたもんっ』
「約束は守らなきゃダメだよ、みずき」
――だからボクとの約束、守ってね?
契約印による意識の締め付けによって苦しみだすみずきの瞳に映るボクの顔は――歪んだ笑みを浮かべていた。
■□■□■□■
あれからみずきは、あっちの世界に還ることなくこっちの世界に居続けている。もうみずきが消えることに怯える必要はない……ずっとずっと、ボクの傍に居てくれるんだ。
「みずき、おはよう……今日は何をしようか」
「ディー、おはよう……今日は温かいから、水浴びがしたいな」
「良いよ……ふふ、幸せだなぁ……毎日みずきと一緒にいられて」
ボクが笑みを浮かべれば、みずきも柔らかな笑顔を浮かべて此方を見てくれる。
ああ……こんな日々を迎えるのをどれだけ待ったことか。
でも、みずきの身体はまだ完全体じゃない――あくまでボクが契約で縛り付けたのは精神と魂だ。
ただ、みずきの元居た世界の身体が死を迎えたら……みずきは精霊に生まれ変わり、ボクが死を迎えるまで共に居続けることになる。
それまでまた少し長い時間を要するけど、こうしてみずきの精神体が傍に居てくれるから待つことができる。
「みずき、これからもずっとずっと一緒だよ……永遠に」
「うん、私はずっとディーと一緒にいる……約束したもんね」
約束を口にすれば、みずきの頬が薄らと赤らむけど――そんな表情とは裏腹に魂の奥底では、この契約に逆らおうとする小さな意志が垣間見える。
みずきがどれだけボクから離れたいと願っても、ボクはもうみずきを手放すつもりは毛頭無い。
――みずきにとって覚めぬ夢であるこの世界で、ボクとずっと一緒にいてね?
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色々試行錯誤しながら、ようやっと後編が仕上がりました…ある意味みずきにとっては牢獄でしょうが、ヤンデレの中では初歩の部類…素敵ヤンデレ書ける作家様達の文才が羨ましい今日この頃(´∀`;)