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第十九話 迷宮体験

 ピラミッドに近づくと、掲示板とやらが隣に浮かんでいた。

 石板や木板ではなく、最先端のデジタルだ。

 どういう原理かは知らないが、コンピューターのスクリーンを空中に映し出したような感じだな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

C級迷宮【ピリミデン】

生命:保障なし

フロア数:二十階層

イベント:経験値二倍キャンペーン中! 今週のスタートダッシュを決めろ!

死亡者数:23万4912人

……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 『イベント』と『死亡者数』のギャップが激しい……というか、いくらなんでも不謹慎だろ。

 他にも最短攻略や攻略回数のランキングなどが表示されていたが、俺は無視して入り口に入る。

 迷宮の内部は松明で照らされた迷路のようになっており、

 冒険者が大勢いるのか、あちらこちらで人の声がした。

 床、壁、天井が全て石でできているので、音がよく響くのだろうか。


 途中で何度か冒険者とすれ違ったが、無言で会釈して通り過ぎた。

 迷宮探索は命がけなので、意味もなく話しかけるのは良くないのだろう。


 そのまま俺は迷路を歩き回ったが、魔物がすでに狩り尽くされているのか、

 冒険者にしかエンカウントしない。

 地図でもあればいいのだが、アップデートされるたびに道が変わるようだし。

 ちなみに『メンテナンス中』の迷宮を探索するのは自己責任らしい。



 ずっと似たような光景が続いていたが、ついに変化があった。

 なんと、通路の向こうから光が差し込んでいる。

 俺は走って通路を抜けると、そこはーー

 

「入り口かよ……」


 スタート地点に戻ってきてしまったようだ。

 迷宮の管理人を殴りたいが、そんなみっともないので想像だけにしておこう。

 ストレート、アッパー、回し蹴り。


 気を取り直して二回目、再び探索を実行する。

 すると、途中でスライムを見つけた。


 透明なわらび餅のような魔物。

 確かエレナは、感謝を込めて攻撃すれば反撃してこないと言っていたっけ。

 自分の力量も知りたいし、試しに武器で倒してみようか。

 俺は『流星の双剣』という、強そうな名前の武器を召喚する。

 獣人の剣士からパクった……いや、いただいたものだ。


「ウェポンチェンジ、流星の双剣(ツインメテオ)


 変なセリフを口に出してしまった。

 昔見たバトルアニメで、そういう能力のキャラがいたせいだ。

 俺は中二病なのかもしれないが、自覚しているだけマシだろう。

 武器が箱から双剣に変化したので武器取り替え(ウェポンチェンジ)、間違ってはいないはずだ。


 一旦箱を通路の隅に置き、地面に落ちた一対の片手剣を拾う。

 二本とも同じデザインで、一般の包丁を縦に二つ並べたような長さだ。

 まっすぐと伸びた銀色の刀身、どこかで見たことがあるような……

 そうだ、料理研修として叔父に連れ回された時に体験した大包丁だ。

 長めの牛刀で肉を切ったり、鮪包丁で大魚を解体したんだっけ。


 一度素振りしてみると、思ったより軽い。

 調子に乗って適当に振り回していると、左腕を切りそうになってヒヤリとした。

 すごく怖かったので片方の剣を収納し、一本だけでスライムに向き合う。

 肉を切る感覚でストンと切ると、スライムはあっさりと散って消滅した。


「俺って実は強かったり……しないよな」


 スライムは最弱の魔物だ。

 それこそ、子供でも倒せるくらいの弱さ。

 下手に剣なんて使っても、いずれ怪我するのが目に見えている。

 せっかくアイテムボックスという名のダンボール箱があるんだし、有効活用しないと。


 武器を収納し、探索を続行する。

 途中で何度か冒険者とすれ違った後、ついに迷宮から出れた。

 いや、出たらダメだろ。またスタート地点に戻ってしまった。

 仕方ない、辛抱強く挑戦し続けよう。

 


 何度か繰り返せば、いつか二階層への階段が見つかると思っていた。

 しかし、それがいかに甘い考えだったか、俺は思い知らされることとなる。

 それから俺は『入って出る』のループを数十回繰り返し、気づくと夕方になっていた。


「ゼェ、ゼェ、ふざけるな! 責任者出てこい!」


 滅多に叫ばない俺も、今回は怒りが爆発した。

 周りの冒険者がゴミを見るような目を向けてきたが、気にしない。

 すでに五十三回もの突撃を繰り返し、戦果はスライム三匹とゴブリン二匹。

 誰かが裏で意図的に操作しているに違いない。


 天然水を飲みながら休憩したのち、俺は再び迷宮に足を踏み入れる。

 そっちがその気なら、こちらにも考えがある。


「……迷宮の壁、収納してやる」


 というか俺、なぜ初めからそうしなかったんだ?

 箱を構えーー別に構えなくても可能なのだがーー迷宮の壁を収納してみる。


 パッ!


 壁に四角い穴が開いた。成功だ。

 さすがに迷宮は無理かもしれないと思っていたが、やはり何でも入るな、この箱。

 この調子で掘り進むが、松明がなくて暗いことに気づく。

 一旦引き返し、俺は壁に固定されていた松明を外そうとしたが、外れなかった。


「……収納」

 

 パッ!


 前言撤回、普通に外れた。

 召喚し直した松明は、赤々と燃え続けている。

 何を燃料にして光っているのかは知らないが、消えないようだ。

 ドラゴンの炎とは違い、長期的に光源として運用でき……ドラゴンの炎?


「ま、待てよ、この松明で肉を焼けば……」


 焼けるかは不明だが、成功したら食料問題が解決に向かう。

 俺は迷宮を走り回って松明を乱獲(・・)し、外に出て一箇所に集める。


 生肉が不足していたため、毎度おなじみの『魔物落とし』を実行したのだが、

 高さ200メートルから落とされる大量の魔物を見た、周りの冒険者の反応がすごかった。

 呆気にとられる者、騒ぎながら逃げ出す者、剣を構える者。

 しかし、地面に激突したゴブリン、白猿、白狼たちは一瞬にして絶命する。

 俺はリストを確認し、増えた生肉を見て満足そうに頷いた。


 お次は焼肉のための鉄板、じゃなくて石板だ。

 まずは石のブロックを加工し、松明を挿せるようにする。

 その上に薄い石のプレートを乗せて、さらにゴブリンの生肉を二つ乗せた。

 下からはもちろん、上からも松明を近づけて炙り、肉が焼けるのを待つ。


「おいチビ、何してんだ?」


 突然、背後から声をかけられた。

 大きなハンマーを背負った、山賊風の大男だ。

 大丈夫、人は見かけによらないって信じよう。


「肉を焼いてるんだ」

「それ……迷宮の松明か?」

「き、気のせいだろ」

「はは、だよな。今まで大勢の冒険者が切り取ろうとしたんだが、誰も成功しなかったそうだ。永遠に燃え続ける松明、その仕組みはまだ解明されてないらしいな。まさにロマンだ」

「はぁ……」


 邪魔をして悪かった、と言い残した彼はそのまま去っていく。

 この松明、ただの松明じゃなさそうだな。

 破壊不能の木材、そして消えない灯火。

 念のため、迂闊に人目にさらすのは避けた方がいいかもしれない。

 おまけ 〜都市防衛軍内の対話〜

(注:ストーリーとは関係ありません)

****



 一人の兵士が新魔帝国の偵察から帰ってきた。


「リーダー! た、谷が消えてやしたぜ!」

「は? 何言ってんだお前。偵察もまともにできないのか」

「もうホント、何から何まで綺麗さっぱり消えてやがるんですよ! 魔物がいない代わりに、女の子の石像とか、無人の神殿とかが立ってやした!」

「馬鹿は休み休み言え。証拠はあるのか?」

「行けばわかりやすよ! 森だって、木が消えて道ができてたり、こんな品も落ちてやした」

「な、なんだこれは。木でできた幼女の模型?」

「そうでやす、こんなの見たことねえですよ! 何か異変が起きてるはずでさぁ!」

「いくらだ?」

「へ?」

「その彫刻、いくらだ」

「え、えと、8億5000万円になりやす」

「ふざけるな。俺はマジで聞いてるんだ」

「す、すいやせんでした! 1万2960円でさぁ!」

「……おら、振り込んだぞ」

「確認しやした! 毎度ありがとうございやした!」

「いいか、他の連中には絶対に言うなよ? 他のを見つけたら、全部盗んできて俺に売れ」

「わかりやした!」

「観賞用、愛玩用、保存用、布教用、の四つが欲しいな。あとは闇商人に高値で売ろう」

「…………」


 こうして、邪神像は闇市に出回るようになった。

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