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ー1ー


 そこかしこで黒石造りの壁が崩れていく。ステンドグラスの窓が割れて、夏の花びらよりも色鮮やかなガラス片が降りそそぐ。巨大な振動が全身をたえまなく揺らしはじめた。孤城ヘルダグラの崩壊は時間の問題だ。


 音が聞こえない。周囲がまるで無声映画のように見える。それはわたしが結界魔法《ディム》を唱えたせいだ。こうしているあいだにも、まだ生きている魔族の残党が、結界に魔法をぶつけてくる。


「おれのことはいい……。いますぐ逃げろ」


 エルが消えそうな声で言った。鎧はそこかしこが砕け、欠けて、穴が開いている。頬や頭から流れる血はパーティを守りきった証だ。決して崩れない守りの果てに、攻撃の活路を開いてくれた。パラディンとしての責をまっとうしてくれた。


 これまでのどの戦闘よりも激しく、過酷な戦いの末——彼はいま瀕死だ。わたしは、横たわるエルのガントレットを外して素肌を見た。肘から手首にかけて、黒い肌が侵食をはじめている。


 墨よりも黒い漆黒。そこにまっかな稲妻のようなヒビが脈をうつ——。光の都ルフィシラの賢人が言っていた症状と、まったくおなじだ。それは死のセンコクがいよいよ現実になる前兆。


 わたしは杖に渾身の力を宿した。

 これ以上ないくらいの回復魔法をエルに注ぐ。


「ぜったいに死なせない」

「魔王は死んだ……。おれは、もう……」

「あなたがいない世界を想像できるほど、わたしは賢くない!」


 聖なる光がエルの全身を包む。回復魔法の香りが結界のなかに満ちる。杖からは心地よい音が鳴る。それでもエルの肌はみるみる漆黒に侵食されていく。ついには喉元まで肌色が失われた。そんな魔法など無駄だ、と嘲笑われているみたいに。


「死のセンコクが、ようやく、おれにも見えるようになったな」


 エルは片手を持ち上げて言った。自分の手が指先まで黒くなったことを見るや、すぐに床に手を落とした。まるで、なにかをあきらめたように。


「大丈夫、大丈夫、ぜったい、死なせない」

「もういいんだスズ、役目は果たした」

「いやだ!」


 泣きじゃくるわたしから、エルは目を逸らした。ふたりを包む結界の外を確認したようだ。


「時間がない……。城が崩れる、早く——行け!」

「あなたが死ぬなら、わたしも一緒だよ」

「みなも巻きこむつもりか!」

「——っ!」


 冷静になれ。やりかたを見つけろ——。

 わたしは結界を解いた。

 凄まじい音が全身にぶつかってきた。

 天井のがれきが落ちて、すこし遠くの床が砕ける。

 視界が揺れるほどの振動が焦りをふくらませる。


「むりむりむりむりぃ! 早くしないとみんな潰れっちょー!」


 おこじょ型のアンドロイド、セブルが言った。彼の身長は一メートルに満たないが、大型二頭身のピエロ型武装アンドロイドの頭にいつも乗っているため、パーティのなかではもっとも体格が大きい。ピエロの部分はバブルという。


「バブル、エルをかつぎな!」


 機工士のアンが言った。両手持ちライフルの銃口を忙しなくふりまわす。銃弾を受けた魔族の残党が、順を追って粉々になっていく。銃声とリロードの音が繰り返される。


「はいっちゃ!」


 セブルの声にあわせて、バブルの片手がエルを担ぎ上げた瞬間、真上から大岩のようながれきが落ちてきた。


「わわわっ!」セブルは上を見た。「そりゃないっちょぉっ!」


 このままではわたしとエル、そしてセブルが潰れてしまう——。


「イフトオウラ」呪文が叫ばれ、炎の最上級魔法が放たれた。オレンジの閃光にまたたく大きな火球が、がれきにぶつかる。激しい爆発が起きた。


 がれきは空中で粉々になり、小石の雨が降る。

 魔法を唱えたのは、少年のニオ。黒魔術の天才だ。


「スズさん、行こう!」ニオは頬に汗を見せる。

「ごめん、ありがとう」

「死ぬなら自然死にして」槍使いの錬金術師、ミティが戦いながら言った。「突然死は許さない」

「ティクルは?」わたしは訊いた。

「彼女はいま出口のほうで——」


 ニオが視線を投げたさきに彼女はいた。

 精神を集中させて、召喚杖に祈りをこめている。

 床に魔法陣が出現し、声が放たれる。


「未来へつなぐ時間をちょうだい——クロノス!」


 召喚獣が角のさきを見せた。ユニコーンの角をひたいに宿した女神。その頭があらわになり、魔法陣から全身を出現させていく。


 白い羽毛に覆われた胴体は、内臓をすべて取り払った人体模型のように空洞化している。その空洞には巨大な砂時計がある。背中には広大な天使の翼が生え、両腕はしなやかな女性のもの。脚は白馬のそれだが、浮いているので歩いたりすることはない。


 クロノスは片腕をまわして、体内の砂時計に触れた。弾くように手を使って、砂時計を半回転させる。教会で聞くような鐘の音が鳴り、それ以外の音はぴたりとしずまった。


 天井から降り注ぐがれきも、襲いくる魔族の残党も、すべてが止まった。まるで静止画のなかみたいだ。


「いまのうちに……!」


 ティクルが顔を歪めながら言った。

 その精神力は限界に近い。

 巨大な石柱にはさまれたレッドカーペットの上を走って、一行は彼女のそばに寄る。


「わたしの魔力をここに——」


 ティクルが召喚杖から手を離す。左手の指にはそれぞれ別の色の指輪が輝く。杖は、直立を維持したままその場に浮いた。青い星群のような帯光が現れ、杖を包みこむように踊りはじめる。


「行けるね?」アンが言った。

「うん、五分は保つはず」


 ティクルは呼吸をあらくして答えた。黒のストレートヘアが汗に濡れている。


「杖は——」ニオが心配そうに言う。

「大丈夫。ただお姉ちゃんの思い出があるだけだよ。杖の代わりは——」


 ティクルが視線を流したさきで、ミティがうなずいた。


「ぼくの錬金術につくれないものはない。材料さえ、あればね」

「五分はあっというまっちゃよ!」セブルが急かす。

「行こう!」ティクルが言った。「……またね、お姉ちゃん」


 わたしたちは退路を走った。孤城のなかは、どこもかしこもヒビだらけ。これから崩れるというのに、それでも待ち伏せをするモンスターが何匹もいた。


 クロノスのおかげで、モンスターたちの時間は止まっていたが……。自分が死んだとしても、わたしたちを殺そうとするその意志に畏怖を感じた。


 いつ崩れてもおかしくない状況は、入り口の大扉までおなじだった。紫色の雑草が覆いしげる城門前に来たときには、五分が経っていた。


 振り返ると、孤城の崩壊はまだ止まっていた。

 しかし数秒もすると、思い出したように城は崩れはじめた。

 自律していた召喚杖が力尽きて、クロノスが去ったようだ。


「バブル、優しくおろすっちゃよ」セブルが言った。


 紫の芝生に寝かされたエルに、わたしは駆け寄った。無駄だと知りながらも回復の魔法をかける。漆黒の肌は、アゴにまで届いている。


「ラクトさんは無事でしょうか……」


 ニオは三角帽子のつばをめくり、心配そうに空を見上げた。黒と紫を混ぜたような雲海に、ぽっかりと空いた闇の大穴——。


 この世界《ゲーム》の主人公《ラクト》はいま、別行動をしている。


 ヘルダグラでわたしたちが倒した魔王は、いずれ復活する。だからこそ、一度は救われたこの世界で、ふたたび冒険の物語がつづられた。


 魔王の復活を阻止するには、空の大穴をくぐったさきにある魔樹の命芽を、天界族の宝剣で斬るしかない。しかし闇の大穴は、魔王が死んだ直後の六分六秒しか開いてくれない。


 わたしたちが魔王を倒してすぐ、天界族の戦士らとともに、ラクトは大穴に飛びこんだはず。もし彼らがもどらないまま大穴が閉じられれば、多くの命と、世界の希望が文字どおり閉ざされてしまう。


 閉ざされた大穴のなかは、暗黒という名の地獄だ。命は呼吸をうばわれ、視界をうばわれ、無という苦しみにあえぎ闇に溶けてしまう。どのような光も、勇気も、力を失ってしまう。


「地上の光が届くうちに帰ってきて、おねがい……」ティクルが両手を重ねた。

「死んだら許さん。錬金の材料にする」ミティは首にかけたゴーグルを上げて、目を隠した。

「大丈夫、ラクトさんなら、やり遂げる」ニオは杖を握りしめた。

「たのんまっちゃ……」セブルが手を合わせると、バブルもおなじ動作をした。


 わたしは姿勢を落として、エルの上半身を抱えた。


「見える?」

「ああ」

「……もうすぐ、だよね」

「あいつ、なら、やるさ」


 きれぎれの息を漏らしながら、エルは空を見上げる。


「見てください!」ニオが指差した。「グリフィンの群れです!」


 闇の大穴から、何羽ものグリフィンが降りてくる。白銀の鎧をまとった天界の聖騎士たちがグリフィンにまたがり、勝鬨を上げる。そのうちの一羽の背に、ぼろぼろのラクトがしがみついている。


 闇の大穴から、一本の光の筋が伸びる。

 それは次第に拡散し、穴全体をまぶしく染めた。

 大穴は光に切り裂かれ——

 暗雲は晴れていく。


 わたしたちは勝った。

 このパーティで。

 みんなの力で。

 世界《ゲーム》を完救《クリア》した。

 だけど。


「エル……」


 わたしは視線を落とした。

 抱きかかえた彼の頭は、石のように重くなっていく。

 力が失われていく。

 おそるおそる、彼の前髪を片手で払うように持ち上げた。

 ひたいに刻まれた赤と黒の歪んだ数字が秒ごとに減っていく。

 それは死のセンコクであり。

 エルの寿命であり。

 別れまでの秒読みであり。


「いや、だよ……」


 わたしの目から虹色の涙が落ちて。

 カウントは、ゼロになった。














      A novel


 -Death sentence on my Fav-















 ブラウン管テレビがこの世に誕生したことに、わたしは心から感謝している。リモコンの電源ボタンを押したら、それ以上の操作はいらない。テレビ番組を見るわけではないから、チャンネルを合わせる必要はない。


 ビデオ1——緑色の文字が画面のナナメ上に浮いた。これでテレビの準備はできた。あとは、ゲーム機本体の電源を入れて、コントローラーを握るだけ。十字キーの反応が、ほんのすこしわるいのはご愛嬌。そのうちシリコンアタッチメントを当てる予定だから、それですこしは改善するだろう。


 土曜日の午後二時。週に二日しかない休日の初日。わたしにとって、一週間のうちでいちばん幸せな時間。


 一箇所しかない窓からは、まともな日差しは入らない。東京の二階建てアパート。物心ついたときからこの部屋に住んでいたので、この薄暗さには慣れている。むしろ心地よいくらいだ。


 家庭用ゲーム機、サイバーファミコンの起動ムービーがテレビに流れる。それから自動的に、ゲームメーカーのロゴがスタイリッシュに流れる。暗転をはさんで、ゲームのムービーがはじまった。


 盛大な音楽とともに、画面いっぱいにドット絵の芸術が広がる。この瞬間、わたしは現実から解放されて、二次元の世界にいざなわれる。脳汁が溢れだし、全身が多幸感に満ちてゆく。


 レディア・クエスティアは三年前に発売された大作RPG。キューブというゲームメーカーが手がけるファンタジーの世界に、わたしはすっかり虜になった。


 いや——正しくは、ゲームに登場するとある騎士の虜になっていた。


「はぁ……、エルさま……。きょうもなんて美しいドット絵なの……」


 かれこれ一八周しているわたしのセーブデータを友人の紗奈《さな》は「溶けたスルメ」と表現していた。


 噛めばかむほど味が出るスルメでさえ、咀嚼する時間があまりに長いと液状になるのでは——という比喩だった。


 たしかに各所のボスの攻略は完璧だ。隠し武器もコンプリートしている。隠しダンジョンは目をつむっていても歩けそうなくらい、マップも記憶している。つよくてニューゲームが実装されているからこそ、周回するごとに楽を覚えた。


 とはいえ「さすがに噛みごたえがなさそう」という紗奈の言葉もわかる。99レベルがずらっと並ぶパーティで、9,999のダメージを連発する旅では達成感というものがない。


 いま画面に映っているのは、一九回目の隠しボス。闇に魅入られた女神という設定のモンスターだ。妖艶な上半身は赤黒く染まり、下半身にはタコみたいにうねうねと何本もの足がある。それぞれの足先は物をつかめる手となっており、剣や斧、戟といった金属製の武器を持つ。


 上半身にある二本の腕は人間のそれと変わりない。そこには杖と、ハンドベルが握られている。


 物理攻撃、属性攻撃、時間魔法、状態異常、即死攻撃……。

 禍々しい女神に成せない技はない。

 しかし、こちらのパーティもおなじだ。

 倒せない敵はいない。


 まずエルさまのスキル——パラディンの構えをコマンド入力する。敵からの攻撃を一身に受けて、かつ、大幅なダメージ軽減をする優秀な防御スキルだ。エルさまがターンの最初に動けるように、すばやさのしずくという基礎パラメータを上げるアイテムを捧げつづけたのはいい思い出だ。


 次に、白魔術士のティクルが補助魔法を唱える。ターンメイク、という魔法だ。味方の行動回数を二倍にしてくれる。


 錬金術師のダフティおいたんが放つ、異力の香というスキル。これが効いているあいだは、パーティのアタックダメージが限界突破する。


 主人公のラクトが、みんなをしんじる、というスキルを使う。自分のMPを1にする代わりにパーティの物理、魔法攻撃力を三倍にできる。


 これでバフは完成。


 ターンは黒魔術士のラオ爺にまわってきた。彼の全身は獄炎シリーズでそろえてある。獄炎の杖、獄炎のローブ、獄炎のブローチ——これらは炎属性の攻撃力を上げてくれる。


 コマンドを選ぶと、画面上部に青染めウィンドウが現れ、イフトオウラの文字が表示された。派手な炎の演出が敵を焼き尽くす……。ボスに重なるように、65535の数字が表示された。


 あとは、それぞれがたたかうのコマンドを選んでいく。危険な即死攻撃は五ターン目からチャージがはじまり、七ターン目にくるのが定石だ。それまでに戦闘が終了すればいい。細かい物理攻撃などは、すべてエルさまが受け止めてくれる。


 画面にはフラッシュが三回またたく。地響きのような音が鳴り、ボスのグラフィックは垂直がずれるように切られていく。画面の左側が背景だけになり、すっきりしたところでファンファーレが鳴る。十九回目の完全クリアは達成された。


 ここからは隠しエンディングと、隠しスタッフロールが流れる。大好きなゲーム音楽がメドレーで再生されるのを聴きながら、わたしは有線のコントローラーを畳に置いた。


「はぁ〜、また終わっちゃったぁ……」


 あぐらのまま、ばたりと倒れて仰向けになった。天井からぶら下がる和風照明が視界の中心になる。ばんざいの手をすこし横にやると、週刊誌の冷たさがあった。それを手にとって、ページをめくる。


 さまざまなゲームを特集する週刊誌、名は週刊ファミ速。サイバーファミコン界隈の速報をおとどけする、という意味らしい。


 ここ最近は、ファミ速の内容にも大きな変化がおとずれている。きょうから七日後——十二月三日に、新たなゲーム機が発売されるからだ。かれこれ数週間は、それの特集が大部分を占めている。家電や音楽ビジネスの第一線を走るメーカーが売りだす、まったく新しいその媒体に、世界中から期待の声が寄せられている。


 いままでカートリッジだったソフトが、CDになる。カセットの端子部分をふーふーしない現実を、わたしは受け入れられるのか。


 映像の進化によって、ドットではなく、3DCGグラフィックでのプレイ体験もできる。本体価格も悲鳴を上げるほどではない。月四回の、おまんじゅう屋さんのバイト代で、どうにか買えそう。


 しかも。しかもだ。

 レディラ・クエスティアの続編が、ローンチタイトルとして発売される。

 その名も——

 レディラ・クエスティアⅡ。

 うん、そのままだ。


「あーぅ! 楽しみだよぉ!」わたしは足をばたばたさせた。「またエルさまに会えるぅぅう!」


 手に持ったファミ速のページは、踊るようにレディラ・クエスティアの特集へと流れた。もう何回読んだことか。付箋を貼ってあるけれど、それもいらないくらい、カラーの数ページだけがへたっている。閉じていてもすぐにわかるくらいだ。


 両刃剣《ツインブレード》使いのラクトが主人公であることは変わらない。いつか召喚士になりたいな、と言いつつも前作ではその夢が叶わなかったヒロイン——ティクル・ルッケンプルツは、今作でいよいよその道を見つける。


 最愛のエルディス・ヴァンクロウズさまも続投だ。続編が出ると聞いてから、それだけが気がかりだった。しかも、エルさまの妹がパーティに加わるらしい。前作ではNPCあつかいだったが、満を持してのプレイアブル化に、男性ファンは歓喜したという。


 魔法の火力でお世話になったラオ爺は隠居生活に入ったが、そこにはニオという孤児が流れつく。文字どおりラオ家付近の川に、ドラゴンの卵に入った状態で流れつくらしい。大つばの三角帽子に、身長ほどある杖をもつ彼のイラストを見るたび、期待がふくらむ。


「桃太郎みたい〜、早くやりたいぃぃ! 記憶が失われた少年だが、魔法の才がずばぬけているニオの過去やいかに……! あおるねぇ、この記事は」 


 ページをめくると、今度は錬金術師の新キャラだ。ミティとだけ書かれている。ミドルネームや、苗字にあたる部分はわざと伏せてあるみたい。風の大陸リュンカインの地理情報と一緒に載っているので、彼女はここでパーティに入るはずだ。


 最後のページをかざるのは、まったく新しいジョブを携えたふたり……、いや、三人かも?


「機工士アン・シクスリジアと、彼女が製造した戦闘兼偵察用アンドロイド、セブル・バブル……」


 大胆に肌を露出したスチームパンクな衣装にダイナマイトボディ。銀色のカールヘアをたなびかせ、大型のライフルを装備した強気のおねえさん。水の大陸ナイクシュバにある、蒸気と鉄の王国——ホトニエの技術者だ。


 白いオコジョのセブルはよくしゃべる。敵の弱点をしらべたり、次のターンにどんな攻撃をしてくるかを教えてくれるらしい。


 二頭身のバブルは、セブルの何倍も大きくて鏡餅みたいなシルエットだ。躰の半分が顔のピエロ。カスタマイズという独自の成長ルールをもっていて、物理攻撃型、属性攻撃型、回復支援型など、好きなようにいじれる。物理の大ダメージが狙えるガトリング、各属性の範囲攻撃ができるグレネードランチャー、ターンを消費せずに継続回復をしてくれる自律型ドローンなど、実にさまざまな能力を設定できる。


「だめだ、わたし、いまから一週間気を失いたい」


 雑誌を閉じると、またいつもの天井だ。ゲームのことを考えていると、ここが六畳の和室であることを忘れてしまう。


 はっ、とわれに返って壁の時計を見た。もうすぐバイトの時間だ。行く準備をしないと。


「エルさまに貢ぐぞぉぉおお!」


 一度躰を丸めて、足を伸ばす反動で起きあがろうとする——がっ、といやな音がした。いきおいをつけた踵が、サイバーファミコンに直撃してしまった。




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