第60話 されど物語は終わらず
ユージア国建国から、ひと月余り。
かつて空白地帯と呼ばれたその土地は、
今や誰の目にも「国」として映っていた。
朝日が昇る。
灌漑水路には清らかな水が流れ、
黄金の麦畑が風に揺れる。
市場では、今日も声が響いていた。
「新麦だ!焼きたてだぞ!」
「魔王国産の鉄材、入荷した!」
「南区画、労働者募集中!」
人の声。
笑い声。
生活の音。
かつて戦火に覆われていた土地には、
もうその影はない。
⸻
丘の上。
ユージはパンをかじりながら、ぼんやりと街を眺めていた。
「……ほんと、なんでこうなったんだろうな」
隣でナーチャンが微笑む。
「何度目でしょう、その感想は」
「いやだってさ」
ユージは頭をかく。
「俺の中では、まだ“ちょっと厄介な仕事”くらいの認識なんだぞ」
「その結果が国家建設です」
「おかしいだろ」
ナーチャンはくすりと笑う。
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そのとき。
ユージは、ふと目を細めた。
「……あれ?」
丘の下。
街のさらに奥。
今までなかったはずの場所に――
異様なスケールの建造物が見える。
巨大な湖。
その奥にそびえる城。
白亜の外壁、鋭く伸びる尖塔、幻想的なシルエット。
まるで――
「……ディズ〇ーじゃん」
思わず呟いた。
「何あれ」
ナーチャンは少し誇らしげに言う。
「新施設です」
嫌な予感しかしない。
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次の瞬間。
「おうリーダー!」
背後から元気な声。
タケシトだった。
満面の笑み。
嫌な確信に変わる。
「見たか!?」
「新事業だ!」
ユージはゆっくり振り向く。
「……なんだそれ」
タケシトが胸を張った。
「ユージアランド!」
「は???」
⸻
場面は変わる。
ユージアランド内部。
ユージたちは、最終視察に訪れていた。
⸻
「……広っ」
それがユージの第一声だった。
「何これ、テーマパークってレベルじゃねえぞ」
ナーチャンが得意げに説明する。
「最大収容人数、五十万人です」
「は???」
「世界最大規模となっております」
ユージは固まった。
「千葉のネズミ王国の五倍じゃねえか……」
「ユージさまの発案ですから」
「一番でなければ意味がありません」
「いや知らん知らん知らん」
⸻
城の前。
音楽が鳴る。
人が動く。
光が揺れる。
確かにそこは――夢の国だった。
ユージは少しだけ笑う。
「……まあ」
「こういうのは嫌いじゃないけどさ」
ナーチャンが頷く。
「現実を忘れる場所ですから」
「例えば――」
「日々、理不尽な上司に振り回されている人などには最適です」
「おい」
「もしかして俺のことディスってる?」
「気のせいです」
「いや絶対俺のことだろ」
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そのとき。
遠くから絶叫が響いた。
「ぎゃああああああ!!」
ユージが振り向く。
火山。
マグマ。
その上を――人が落ちている。
「ちょっと待て」
「何あれ」
タケシトがドヤ顔で言う。
「新アトラクション!」
「生存率三割!」
「却下だ却下!!」
ユージが即ツッコミを入れる。
「誰が乗るかそんなもん!」
「安全基準どうなってんだ!」
ナーチャンがメモを取る。
「改善案件ですね」
⸻
さらに奥。
パレードが始まる。
牛車。
天狗。
狐火。
紙の女。
逆さ牛。
ユージは無言になった。
「……おい」
「これ夢の国か?」
神楽耶が誇らしげに言う。
「我が国の伝統を融合したぞ」
「百鬼夜行じゃねえか!!」
⸻
ひとしきり見終わり。
ユージは大きくため息をついた。
「……なんか」
「めちゃくちゃだけど」
少しだけ笑う。
「悪くないな」
ナーチャンが静かに言う。
「人が笑う場所ですから」
遠くで子どもたちがはしゃいでいる。
笑い声が響く。
その光景を見て、ユージは呟いた。
「……ほんと」
「とんでもない世界になったな」
⸻
その夜。
遠く西方――
聖王国。
重厚な聖堂。
円卓の上に報告が置かれる。
「新国家ユージア国」
「異界の男ユージ」
「王国・魔王国、均衡崩壊」
沈黙。
やがて一人が言う。
「……放置できぬな」
別の声。
「導くべきか」
「あるいは――正すべきか」
鐘が鳴る。
静かに、重く。
⸻
再びユージア国。
丘の上。
ユージは夜空を見上げていた。
遠くに見えるユージアランドの灯り。
笑い声。
音楽。
そして――
まだ見ぬ世界。
ユージは頭をかいた。
「さて」
「明日も忙しそうだな」
ナーチャンが微笑む。
「ええ」
「これからが本番です」
ユージは苦笑する。
「勘弁してくれ」
だがその顔は――
少し楽しそうだった。
⸻
戦争は終わった。
国は生まれた。
人は笑っている。
だが世界は、まだ広い。
そして――
物語は続いていく。
⸻
「……されど物語は終わらない、か」
ユージは小さく笑いながら、静かに呟いた。
風が吹く。
灯りが揺れる。
笑い声が響く。
⸻
第一部 完
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
本作『枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う』は、
これにて第一部完結となります。
最初は「とりあえず書いてみるか」くらいの軽い気持ちでしたが、
気づけばここまで続けることができました。
ここまで読んでくださった皆さま、
ブックマークや評価をしてくださった皆さま、
本当にありがとうございます。
物語としては一区切りとなりますが――
ユージたちの物語は、まだ終わりません。
第二部では、
新たな勢力「聖王国」の登場、
そしてユージア国を取り巻く世界の変化を、
より大きなスケールで描いていく予定です。
なお、第二部は
【1週間後】より連載開始予定です。
引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。
……と、その前に。
ユージア国では、今日も誰かが無茶をやらかしているはずです。
(主にタケシトかリシュンあたりが)
それではまた、第二部でお会いしましょう!
なお現在、別作品にて新作を連載中です。
『辺境ギルド長は、戦わないのに最強でした』
派手な戦闘ではなく、
“仕組みで人を救う”物語です。
もし本作を気に入っていただけた方は、
ぜひこちらもご覧いただけると嬉しいです。




