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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ
第一部 ユージア国誕生編

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第26話 発明王、盛大に誤解する

リシュン・オグ。

話し方や表情は少し砕けてはいるが、長身痩躯の美丈夫だ。


王国技術管理局に籍を置いていた頃、彼は「若き天才」と呼ばれていた。


魔導機構の効率化、軍装備の軽量化、補給の省力化――

どれも地味だが、しかし現場で役に立つ成果だった。


本来なら、王都で栄達していくはずの男だ。


だが、王国の“正しさ”は、天才の自由を許さなかった。


申請。審査。承認。前例。政治的配慮。

「安全で、無難で、責任の所在が明確なものだけを作れ」。


その言葉にリシュンは耐えられず、ある日、すべてを捨てて王都を出た。

――逃げ出した、と言った方が正しい。


そして辿り着いた先が、境界の砦。

第三辺境防衛砦。


ここなら、誰も“責任”を盾に止めてこない。

政治的配慮よりも、生き残ることが最優先の最前線。

必要なものは、必要なだけ作ればいい。


そうして彼は、砦に一つの武器を持ち込んだ。


多銃身連射の魔導弩――通称、ガトリングボー。


魔族の小規模侵攻を一方的に叩き潰し、「この男こそが命運を握る最終兵器」という認識を植え付けた。

結果、砦は“防衛拠点”でありながら、巨大な発明施設と化した。


そうは言っても、趣味に走りすぎた発明をして隊長にダメ出しされることも、たまにある。


――そんな男が、今、門前で手を振っていた。


「ようこそ、我が究極の砦へ」


明るすぎる声。

軽装のくせに、やけに堂々としている。


「……おい、あいつ大丈夫か?」


ユージが呟くと、ナーチャンが小さく頷いた。


「同感です」


門前の鎧姿の男――隊長らしき人物が、規律に沿った礼をした。


「第三辺境防衛砦、守備隊長のザンギです。辺境調停官殿、ようこそ」


「どうも。……調停官ってのはやめてくれ。ユージでいい」


「では、ユージ殿、あらためて貴殿を歓迎いたします」


隊長の言葉が重い。


その後ろで、リシュンが肩をすくめた。


「な?砦の人間は話がわかるだろ?」


「お前が威張るな…」


ユージが即座に返す。


そう言って、砦に向かって歩を進めた。


中に入った瞬間、まわりの空気が一変した。


鉄と油と焦げた木の匂い。

そして、遠くで「カン、カン」と金属を叩く音。


「……中は砦っていうより、工場だな、こりゃ」


「砦の中に工場があるんじゃないぞ。工場の周りに砦があるだけさ」


リシュンが得意げに言う。


「趣旨が逆転してます!」


ナーチャンが淡々と突っ込んだ。


通路の脇には、見慣れない装置がいくつも並んでいた。

歯車、魔導石、導線、配管、レバー。

兵士が通り過ぎるたび、当たり前のように触れて調整していく。


「日常的に使ってるんですね」


ナーチャンが観察する。


「普段から使ってないと、いざと言う時に役に立たないからな」


リシュンは軽い口調で言って、角を曲がった。


その先に、外壁へ続く階段。

登った先――外壁に取り付けられた巨大な回転櫓が、ゆっくり回っていた。


先端には板が複数。魔導石の光が淡く点滅している。


「侵入感知と自動迎撃の統合装置だ」


リシュンが言った。


「魔力の揺らぎ、体温差、地面の圧力、音。

ぜんぶ拾って、条件満たしたら警報、さらに“段階的”に迎撃まで繋げる」


「段階的?」


ユージが聞き返す。


「まず警告。次に威嚇。最後に実弾」


「実弾って、あのガトリングボー?」


「ちょっと違うが、ほぼ一緒だ。あのガトリングボーを小型化して、壁に仕込んである」


さらっと言う内容が物騒だ。


隊長が淡々と付け足す。


「夜襲の際は活躍します。先月は2度、我々が寝ている間に、魔族が撤退しました」


「……便利だな」


ユージが呟いた瞬間、リシュンが嬉しそうに頷く。


「だろ? 砦は“止める”場所である間は二流だ。“来させない”場所になって初めて一流と言える」


ユージは装置を眺め、眉をひそめた。


「でもこれ、もし誤作動したら怖いよね」


――一拍。


風が吹く。

櫓の板が、きしりと鳴った。


ナーチャンの視線が、ユージからリシュンへ移る。

隊長も、わずかに目を細めた。


小型化しているとはいえ、威力は絶大だ。

もし、帰還して来た味方を敵と誤認して攻撃してしまったら…


皆がそのリスクについて思いをはせた。


その時――


「……っ!」


何やら考え込んでいたリシュンが、ぴたりと止まった。


「誤作動……」


低い声で反芻する。


「怖い……」


さらに繰り返す。


次の瞬間、顔がぱっと明るくなった。


「なるほど、フェイルセーフか!!」


「は?」


ユージの声が間抜けに出た。


「基本だが忘れてたぜ……!」


リシュンは拳を握りしめ、興奮したまま捲し立てる。


「俺は“止める”ことしか考えてなかった。

だがリーダーは“数ある未来”を見てる!」


「未来?」


「誤作動ってのは、つまり“想定外”だ! 最悪ケースだ!

そのとき味方が巻き込まれたら、砦の防衛機能に対する信頼が根本から瓦解する!」


ユージが言い返す。


「いや、単なる想像なんだけど」


「それが大事なんだよ!!」


リシュンは聞いていない。


「完全はない。

だから“壊れたとき、どう壊れるか”を設計する。

それがフェイルセーフだ」


「つまり、警告だけじゃなく、確認動作を挟む。

迎撃には二重の条件を付ける。

手動停止レバーを三箇所に。

あと、誤作動時は“外側”へ逃がす――」


「逃がす?」


「矢を外壁の上空に散らす。威嚇で済む構造にする。

フェイルセーフの“最終形”だ」


隊長がぼそっと呟いた。


「……それ、できますか」


「もちろん!俺を誰だと思っている?」


即答。


リシュンはすでに頭の中で組み上がっている顔だった。


ナーチャンが、静かに口を挟む。


「リシュンさん。その改修は、砦の運用にどの程度影響しますか」


「短期なら半日停止。でも、それでいい。

停止してる間は人を増やす。

機械を止めることは問題じゃない。本当に止めなければならないのは“事故”だ」


「……」


隊長が、息を吐いた。


「明日、半日。訓練日程をずらします。許可します」


「即断とはすごいな」


ユージが言う。


隊長は真顔のまま答えた。


「臨機応変が我々のモットーですので」


現場の言葉だった。


リシュンは嬉しそうに笑い、ユージの肩をぽんと叩いた。


「さすがリーダー。やはり噂は本当だった。

ちゃんと見えてるな」


「……何の噂だ?」


「“境界を揺らす男が来る”って聞いていた」


「なんだそりゃ!

それと、いつから俺がリーダーになったんだ?

聞いてないぞ!」


「俺が今決めた。あんたしかいない。な!リーダー!」


「おい、やめろ」


リシュンは、人の話を聞かないタイプだった。


ユージが嫌そうに顔を歪める。


「……柄じゃないんだ」


ナーチャンが小さく咳払いした。


「どうやら彼、盛大に誤解しちゃったみたいですね」


「勘弁してくれ…」


「ですが、結果として砦の安全性が上がるなら、いいじゃありませんか」

「このまま誤解しておいてもらいましょう」

「それに、あながち誤解じゃないかもしれませんし」


そう言ってナーチャンは軽く微笑んだ。


一行は、そのまま砦の中を歩いて先に進んだ。


兵の詰所。食堂。倉庫。

いずれも妙に整っている。

動線が合理的で、備品が所定の位置にあり、余計な混乱がない。


「これ、全部……」


ナーチャンが小声で言う。


「ああ。全部リシュンの発明と、“改善”の積み重ねだな」


ユージが答える。


リシュンは胸を張った。


「俺は天才だからな」


「自分で言うな」


「でもさ」


リシュンは急に真顔になる。


「ここまでやっても、砦は“ぎりぎり”だ」


ユージが足を止める。


「……どういう意味だ」


リシュンは外壁の向こうを見た。


「魔族は、まだ本気を出してないってことさ。

もし本気で攻めて来られたら、この砦は長くは持たない。

俺の発明だけで守れる時間は限られている。

王国の本隊が到着するまでの時間稼ぎ。

それが“前線”の持つ本当の意味だ」


ナーチャンが、静かに頷き、ユージに向かって静かに問う。


「全部知った上で、あなたはこの砦に来たのですね」


ユージは、ため息をついた。


「……俺は、本当は面倒が嫌いなんだがな」


「そりゃ、無理ってもんだぜ」


リシュンが、なぜか得意げに言う。


「リーダーは、この世界に召喚された時点で、既に面倒に巻き込まれる運命にあるってことさ」


「面白がるな」


「いや、面白いってのは――」


リシュンは、ユージの顔を見て、にやりと笑った。


「俺とリーダーで根本からこの砦を変えていけるってことを言ってるのさ」


ユージの嫌な予感が、さらに濃くなる。


そのとき。


外壁の見張りが、階段を駆け上がってきた。


「隊長! 境界の向こう、動きが!」


隊長の目が鋭くなる。


「魔族か」


「……こちらを監視しています」


ナーチャンの声が低くなる。


「ユージさま。入砦した時点で、魔族側の観測レベルは一段階上がりました」


「だろうな」


ユージは肩を回した。


「……俺は、砦を助けに来たんじゃない。

戦争にならないように、場を整えに来ただけだ」


リシュンが目を輝かせた。


「ほら出た。“最低限のヒント”」


「言ってねえ」


「出来れば、出し惜しみしないでもう少し丁寧に教えてほしいんだがな」


「お前、人の話を聞け!」


砦の上に風が吹き、旗が鳴る。


境界の空気が、確かに変わった。


ユージは、腹の底で静かに決める。


――ここから先は、村の延長じゃない。

だが、やることは同じだ。


「……さて」


ユージは一歩前へ出た。


「張りぼてでもいい。敵が攻められない理由を作ればいいんだ」


リシュンが、また盛大に目を輝かせた。


「それだ!!」


「だからただのイメージだって!」


ナーチャンは、小さく息を吐いた。


(始まってしまいましたね)


砦の朝は、まだ静かだ。

だが静けさの下で、歯車は回り始めていた。

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