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【新装版】枯れたおっさん、何もしないで異世界を救う  作者: アズマユージ


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第21話 乱暴な監視が付けられた

彼女は、夜明けとともにやってきた。


正確には、朝靄がまだ村に残っている時間帯。

ユージが井戸のそばで顔を洗っていると、背後から声がした。


「――おはようございます、ユージさま」


(ビクッ)


それは、落ち着いていて、よく通る、聞き覚えのある声だった。


「……お久しぶりです」


振り返ると、そこにいたのは一人の女性だった。


淡い色の外套。

動きやすそうな服装だが、仕立ては明らかに良い。

腰には短杖。装飾は少ないが、無駄がない。


そして何より――

その目が、仕事の目をしていた。


「王国中央監査局より派遣されました。

 ナセ・ニシノナと申します」


深く、丁寧な礼。


「……ナーチャンか」


思わず、口をついて出た。


一瞬、彼女の眉がわずかに動く。


「その呼び方は、どこで?」


「俺のサードエフェクトがそう言っている」


「?」


いや、なんか昔見たアニメの中のかっこいいセリフを真似してみただけなんだが。


やっぱ無理があるか?



「それはさておき、単刀直入に申し上げます」


ナーチャンは、姿勢を正したまま言った。


「本日付で、私は、あなたと行動をともにし、

 必要に応じて補佐する役目を担います」


「……それって、監視?」


「いえ、サポートです」


即答。


「あなたは現在、

 《辺境調停官》という極めて曖昧かつ危険な立場にあります」


「だね」


「なら話は早いです」


彼女は一歩近づいた。


「あなたの動き次第で、魔族側が暴走し、戦争に発展する可能性があります」


「だから?」


「王国は、戦争は避けたい。

したがって、あなたを魔族との緩衝材として使うつもりです」


「最悪だな」


「はい」


わかってるなら、もう少し申し訳なさそうにしてほしいものだ…。



しばし、沈黙。


村の方から、子どもたちの笑い声が聞こえる。

平和そのものだ。


「……で?」


ユージは言った。


「監視役が、こんな辺境まで一人で来るってのは

 それなりに覚悟がいる仕事だろ」


ナーチャンは、ほんの少しだけ目を細めた。


「ええ」


「理由は?」


「任務ですから」


一拍置いて、


「興味もあります」


「あなたは、

 ・王国に従わない

 ・反乱もしない

 ・だが、現場を安定させている」


「それって、褒めてる?」


「そうとも言います」


「違ったりもするの?」


「最も危険なのは、

 “正義感の強い英雄”や

 “権力欲のある野心家”です」


ナーチャンは、淡々と言葉を重ねる。


「あなたは、そうではありません」


「ただの面倒くさがりだ」


「またまた、ご謙遜を」



ユージは、苦笑した。


「それで?」


「王国としては、

 あなたが“自覚なく最適解を選び続ける存在”なのか、

 それとも“偶然うまくいっているだけの不発弾”なのか、

 見極めようという腹積もりです」


「ストレートだな」


「あなたに隠せるはずもありませんから」


ナーチャンは、少しだけ肩の力を抜いた。


「安心してください。

 私はあなたを縛りに来たわけではありません」


「じゃあ?」


「あなたなら、腐りきったこの国を変えられる。

 あなたを支えることで、この国が救われる、私はそう思うのです」


「買いかぶりだ。俺はただの枯れたおっさんだ。

魔力も無ければ、戦う剣も無い」


「ええ」


小さく、微笑む。


「でも、私はあなたの秘めたる力を見てみたいのです」



その言葉に、ユージは一瞬だけ黙った。


「……一つ聞いていいか」


「どうぞ」


「もし俺が、本当に王国の不利益になる行動を取ったら?」


ナーチャンは、迷わなかった。


「止めます」


「力ずくで?」


「わたし、戦闘力は高いので」


「そうなんだ…」


だが、続けてこう言った。


「ただし」


一拍。


「あなたが、

 “守るべきものを守るため”にそうするなら」


ユージを見る。


「私は、いつでもあなたの味方でいるでしょう

たとえそれが、王国に反旗を翻すこととなったとしても」



風が吹いた。


村の外れで、旗がはためく。


「……ややこしい人だな」


ユージは、ため息をついた。


「お互い様です」


ナーチャンは言った。


「では、まずは状況整理から始めましょう。

 あなたの知らない情報が、いくつかあります」


「嫌な予感しかしない」


「安心してください」


彼女は、淡々と告げた。


「“魔族側が、あなたを観測対象に指定した”

 というだけです」


「……やっぱ嫌な話じゃねえか」


ナーチャンは、ほんの少しだけ笑った。


「ようこそ、境界へ」


「もう来てるよ」


ユージは、空を見上げた。


「勝手に連れてこられただけだ」


だが――

その隣に、頼れる誰かが立った。


それだけで、少しだけ世界が明るくなった気がした。

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