第174話 未来を紡ぐ力
巨大な高炉を見上げながら、ガイルが足を止めた。
「皆さま。こちらが、この製鉄所の中心となる高炉です」
見上げるほど巨大な炉。
複雑に張り巡らされた配管。
そして、その一角では巨大なタービンが低いうなりを上げながら回転していた。
「ほう……」
サムが目を細める。
「あの回転している機械は何だ?」
ガイルは笑顔で答えた。
「あちらは発電設備です」
「高炉から出る高温の廃熱を利用して発電しております」
「廃熱を利用するのか」
枢機卿が感心したように頷く。
「はい。製鉄所で使用する電力を賄うだけではありません。」
「余った電力は周辺の工場や公共施設、さらには住宅へも供給しております」
「なんと……」
マイヤンが思わず息を呑む。
サムは腕を組んだまま、高炉と発電設備を見比べた。
「なるほど。」
「製鉄所だけを造ったのではない。」
「製鉄所を中心に、一つの街を造ったということか。」
「その通りです。」
ガイルが嬉しそうに答えた。
「ちなみに、この廃熱発電を思いついたのはガイルなんだ。」
突然ユージが口を挟む。
「え?」
ガイルが慌てて振り向いた。
「い、いえ! 僕は『熱を捨てるのはもったいない』と言っただけです!」
「ユージさまが方法をご存じで、リシュンさんが設備を設計してくださったので……」
「だから、それが最初なんだよ。」
ユージは笑った。
「最初の一歩がなきゃ、何も始まらねえ。」
「お前の『もったいない』から始まったんだ。」
ガイルは照れくさそうに頭を掻いた。
その様子を見て、皆が小さく笑う。
「続いて、こちらをご覧ください。」
ガイルは高炉の隣に建つ建物へ案内した。
「あちらはセメント工場です。」
「セメント工場?」
ペーター三世が首を傾げる。
「建物や橋、道路に使われるセメントを製造しております。」
「ですが、この工場の役割は、それだけではありません。」
建物の裏手には、多くの荷車が並んでいた。
積まれているのは街から運び込まれた木くずや可燃ごみだった。
「街で出た廃棄物のうち、利用できるものは燃料として使用しております。」
「さらに、焼却後の灰も、利用できるものはセメントの原料の一部として再利用しています。」
「灰まで使うのか。」
ペーター三世が驚いたように目を見開く。
「はい。」
ガイルは頷いた。
「もちろん全てではありませんが、使えるものは資源として活用しております。」
「廃棄物を処理しながら、建物や道路の材料も生み出せるのです。」
「なるほど。」
サムが静かに呟いた。
「燃やして終わりではないのだな。」
「はい。」
ガイルは胸を張った。
「捨てる物を減らせば、新たに採掘する資源も減らせます。」
「街を清潔に保ちながら、資源も循環させる。それが、この工業都市の考え方です。」
枢機卿は静かに目を閉じた。
「街全体が、一つの循環になっているのだね。」
「その通りです。」
サトータも一歩前へ出る。
「製鉄所で生まれた熱が電気となり。」
「電気が街を動かし。」
「街から出た廃棄物が燃料となり。」
「灰が再び建材となる。」
「そして、その建材で新しい街が造られる。」
「どれか一つだけでは成り立ちません。」
「全てがつながって、初めて一つの都市になります。」
誰も言葉を発しなかった。
彼らの目の前にあるのは、巨大な製鉄所ではない。
人が知恵を出し合い。
人が人を育て。
技術が技術を支え。
資源が循環し続ける。
一つの文明、そのものだった。
ユージは静かにガイルの横顔を見た。
もう、自分が説明する必要はない。
この街の未来を語る言葉は、すでに彼ら自身のものになっていた。
「……立派になったな。」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
その声に気付いたのは、隣に立つナーチャンだけだった。
ナーチャンは何も言わず、ただ優しく微笑んだ。
その時。
巨大な高炉の奥から、低く重い地鳴りのような音が響いた。
いよいよ火入れの時が近づいている。
誰もが自然と高炉へ目を向ける。
長い年月をかけて積み重ねてきた努力が、もうすぐ形になる。
未来は、すでに静かに動き始めていた。




