第13話 最初の村が、さっそく修羅場
城門を出て、半日。
舗装された街道はいつの間にか途切れ、
気づけば、獣道のような道を歩いていた。
「……おかしいな」
地図を見下ろす。
「一本道のはずなんだけど」
地図は合っている。
道も、たぶん合っている。
問題は――
「道が、地図より荒れてる」
文明レベルが、想定より低い。
嫌な予感がした。
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やがて、木造の柵が見えた。
小さな村だ。
畑はあるが、人影が少ない。
門番らしき男が一人、槍を構えて立っている。
ユージが近づくと、男は露骨に身構えた。
「……何者だ」
「あー、通りすがりの旅のもんだ」
「武装しているな」
「この世界じゃ、素手の方が珍しいだろ?」
門番は一瞬黙り込み、
背後の村をちらりと見た。
「……用がないなら、帰れ」
「いや、水と飯を」
「無理だ」
即答だった。
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そのとき。
村の奥から、怒鳴り声が聞こえた。
「だから言ってるだろ!
もう税は払えねえって!」
「王国の命だ。
逆らえばどうなるかわかっているな?」
甲冑の音。
兵士だ。
三人。
王国兵の徽章。
ユージは、ため息をついた。
「……最初の村、これかぁ」
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兵士の一人が、村人の胸倉を掴んでいた。
「作物が足りないなら、娘を差し出せ」
「なっ……!」
「なかなかいい顔してるじゃないか。
王都でなら金になるぜ」
「まるで盗賊か人さらいじゃねえか」
「気分が悪いな、ちくしょう」
ユージが独り言ちる。
村人たちの顔が、青ざめる。
誰も動かない。
――動けない。
ユージは、頭を掻いた。
一番嫌なパターンだ。
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「おい」
低い声。
全員の視線が、ユージに向いた。
兵士が睨む。
「部外者は下がれ」
「無理なんだよな」
「何?」
「この手の話、見なかったことにできない性分でさ」
兵士は、鼻で笑った。
「勇者気取りか?」
「いや」
ユージは首を振る。
「ただの、通りすがりさ」
そして、続けた。
「――話し合おうぜ」
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「話し合い?」
兵士の一人が嘲笑した。
「力の差が分からんか?」
「分かってるよ」
ユージは、地面を指差す。
「お前ら三人。
村人、十数人」
「だからどうした」
「これ、どっちが“多い”と思う?」
一瞬の沈黙。
兵士が、剣に手を掛けた。
「脅しか?」
「確認」
ユージは、静かに言った。
「ここで剣を抜いたら、
ちょっと面倒くさいことになると思うぜ」
(面倒くさいってのは、得に俺にとってだが…)
「……何者だ、貴様」
「だから、通りすがりって言ってんだろ」
⸻
次の瞬間。
兵士が、剣を抜いた。
「構えろ!」
村人たちが悲鳴を上げる。
――その瞬間だった。
ユージの足元から、圧のようなものが広がった。
地面が、きしむ。
空気が、重くなる。
「……あ?」
兵士たちの動きが止まる。
息が、苦しい。
「ん?今何か起こった?」
変化に気付かないユージは、気にせず言った。
「抜く前に、考えてからにしようぜ」
ユージの声は、穏やかだった。
いつの間にか、重さが消えていた。
「お前ら、ここで死ぬ覚悟、ある?」
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沈黙。
剣が、震える。
やがて――
「……撤退だ」
リーだーらしき兵士が、絞り出すように言った。
「覚えていろ」
「あはは、この世界でもチンピラの決まり文句は変わんねえのな」
圧が、消える。
兵士たちは、逃げるように去っていった。
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村は、静まり返っていた。
やがて、年老いた村長らしき男が近づく。
「……助けていただき、ありがとうございます」
ユージは苦笑した。
「礼には及ばない、ただの成り行きさ」
村長は、深く頭を下げた。
「おー、もしやあなた様は、勇者様?」
「やめて」
即答。
「その呼ばれ方、嫌いなんだ」
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夜。
粗末だが、温かい食事が出た。
焚き火の前で、ユージは空を見上げる。
「なるほどね……」
王都の外。
管理の外。
ここでは、
理屈より先に、力が出る。
「……めんどくせ」
だが。
同時に、思った。
「でも――放っとけないな」
火の向こうで、村人たちが笑っている。
さっきまで、怯えていた顔だ。
ユージは、缶ジュースの代わりに木杯を掲げた。
「ま、いいか」
最初の村。
最初の修羅場。
――勇者と呼ばれる男は、
まだその自覚もないまま、
世界に触れ始めていた。




