第10話 勇者は、使い捨てにされるらしい
今日も2話投稿の予定です!
王城の一室。
さきほどまでの謁見の間とは打って変わって、静かすぎるほど静かな部屋だった。
厚い扉が閉まり、外の気配が完全に遮断される。
「……はぁ」
ユージは、思わず長いため息を吐いた。
「なんかさ、異世界来てからずっと測定されてない?」
向かいの椅子に座る白髭の魔道士老人が、くすりと笑う。
「勇者とは、そういうものだ」
「いや、商品検査じゃないんだからさ」
ユージは椅子の背にもたれ、天井を仰いだ。
「で?
さっきの“測れない”って評価、俺的には褒め言葉っぽく聞こえたんだけど?」
老人は、少しだけ表情を曇らせた。
「……褒め言葉ではある。
だが同時に――」
一拍置いて、はっきりと言う。
「非常に、厄介だ」
「ですよねー」
ユージは即答した。
⸻
老人は、机の上に一枚の書類を置いた。
封蝋付きの正式文書だ。
「先ほどの測定結果は、すでに上層部に共有されている」
「仕事早いな」
「この国は、“魔王”との戦争を控えている」
老人は淡々と続ける。
「勇者とは、本来“切り札”だ。
そして切り札は――」
視線が、ユージに突き刺さる。
「切るために使う」
ユージは、しばらく黙っていた。
(あー……なるほど)
「つまり?」
「最前線に投入される。
生還は、期待されていない」
空気が、少しだけ冷えた。
⸻
「……正直だな、おい」
ユージは苦笑した。
「もっとこう、“期待してます!”とか言ってくれるもんじゃないの?」
「それを言う役目の者は、別にいる」
老人は肩をすくめる。
「私は、事実を伝える役だ」
「そっか」
ユージは顎に手を当て、少し考え込んだ。
(使い捨て、ねぇ……)
元の世界でも、聞き慣れた言葉だった。
「で、質問いい?」
「許可しよう」
「俺が逃げたら?」
老人は、即答した。
「追われる。
場合によっては、“処理”される」
「ですよねー」
「ただし」
老人は、そこで言葉を切った。
「あなたは“測れない”。
だからこそ、扱いに困っている」
ユージは、目を細めた。
「……つまり?」
「上は二つに割れている。
『危険だから早めに使い潰せ』という派と――」
「派と?」
「『制御できるうちに、味方に引き込め』という派だ」
⸻
その言葉に、ユージは小さく笑った。
「どっちにしても、ろくな未来じゃないな」
「否定はせん」
老人は、真っ直ぐにユージを見る。
「だが、一つだけ忠告しておこう」
「なに?」
「この城で“善意”を信じすぎるな」
ユージは、少し意外そうな顔をした。
「魔道士のおじいちゃんがそれ言う?」
「長く生きているからこそ、言える」
老人は静かに立ち上がった。
「この国は、あなたを“勇者”として歓迎している」
そして、低い声で続ける。
「――同時に、“道具”としても見ている」
⸻
扉が開く音がした。
「時間だ。
これから“歓迎会”がある」
「切り替え早いな」
「政治とは、そういうものだ」
老人は去り際、ふと足を止めた。
「ユージ殿」
「ん?」
「あなたは、使い捨てにされるには――
少々、面倒な男だ」
そう言い残し、部屋を出ていった。
⸻
一人残されたユージは、椅子に深く座り直した。
「……使い捨て、か」
ゆっくりと立ち上がり、口元に薄く笑みを浮かべる。
「悪いけどさ」
誰にともなく、呟く。
「俺、ゴミ屋だから」
――捨てられる側より、処理する側の方が慣れてんだよね。
王城の外では、華やかな音楽が鳴り始めていた。
だがその裏で、
“想定外の勇者”は、静かに覚悟を決めていた。




