今日は"軽め"のランニングです
「では、行きましょうか。軽めの五キロですわよ?」
アリーゼが軽く髪を整えながらそう告げると、隣のベラも頷く。エマも静かに靴紐を結び直し、準備を整えた。
レティシアは……もちろん軽く震えていた。
筋肉痛で階段を降りるだけでも呻いたのに、走るなんて論外である。
「い、いきなりスピード速くない!?」
最初の数十メートルでレティシアは悲鳴を上げかけた。
だが、三人はそれを気にした様子もなく、むしろ “走るより少し遅い程度” の軽い呼吸で走り続ける。
「このくらいの速度でなければ体が温まりませんから」
と、アリーゼ。
「アリーゼ様は本当に……体力が物凄いです」
エマはそう言いながらも息ひとつ乱れず、一定のリズムを崩さない。
「そうかしら? 体力測定の時も、あまり良くなかったのだけれど」
アリーゼは微笑みながら、あくまでも控えめに言う。
その言葉を聞いてレティシアは心の中で叫ぶ。
いや、あなた十分すぎるでしょ!?
だってアリーゼの体力測定は――
握力 右43kg、左39kg
上体起こし 29回
長座体前屈 64cm
反復横跳び 47回
50m走 7.3秒
立ち幅跳び 190cm
ハンドボール投げ 23.6m
「レティシア様、腕は振れております。もう少し前傾を保ってください」
エマが横で優しく――しかし容赦なく――指導を入れる。
「む……無理よ……速すぎ、息……でき……」
「まだ五百メートルも走っていませんよ?」
「ウソでしょ!?」
そんなやり取りをしている横で、アリーゼがくすりと笑う。
「レティシア様は可愛らしいですわね。
慣れてしまえば五キロなんて、むしろ散歩程度なのですけれど」
「散歩じゃないわよ! 拷問よ!」
「ふふっ。では、今月中に“散歩”に感じられるくらい鍛えましょうね?」
「ひ、ひぃぃ……っ」
レティシアが泣きそうになりながらも必死に走っていると、エマがふと後ろを振り向く。
「それでも、昨日より脚が前に出ていますよ。
やっぱり弾け飛びかけた筋肉は、ちゃんと強くなっているんです」
「弾け飛びかけたって言ったわね!? あなた今さらっと言ったわよね!?」
だが三人は気にした様子もなく、むしろペースをほんの少しだけ上げた。
「さ、ついてきてください、レティシア様」
「ま、待って……!! 私を置いていかないでぇぇ……!!」
その悲鳴が林道にこだましながら、四人は颯爽と――いや、三人は颯爽と、レティシアは転ばないように必死で――軽めの5kmランニングをこなしていくのだった。




