表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/12

12.円環の調律者

 カテリーナに同化したリリー。最初の仕事は情報を集め、「ざまぁ」をするためだった。シルクレイド公爵の息のかかった情報屋ではなく、第三者に依頼を複数頼んだ。


 これが、物語の登場人物に割り振られた役割の中で、主人公たちに不利になることはさせてもらえないカテリーナにはできなかったこと。だからこそリリーが最初にしたかったことだった。


 そして、デイヴィットへの浮気の仔細報告。これもカテリーナではできなかった。リリーはカテリーナではないことを悟られぬよう、気を配りながら日常を過ごしていた。




 或る夜。暗闇に現れる人影。カテリーナはわかっていたかのように起き上がった。


 「様子は?」


 ふるふると影は首を振った。


 「そう、あの子に彼女(・・)と接触するよう伝えなさい。ただし、こちらの予定が完了後に……と。彼もその場に居合わせるように調整して」

「了解致しました」


 リリーが言う「彼」とは、追放されたシルヴァン。「彼女」とは、本物のレインのことだ。


 「それと、貴方はあの子のサポートに回って。あらかた仕込みが済んだら、彼……彼女かしら? に接触して。貴方のおかげでこちらの準備は整ったわ、ありがとう」


 カテリーナはにこりと微笑んだ。影はその姿を確認し、来たとき同様、闇夜に姿を隠した。


 「いよいよ大詰めね」


 ベッドに横たわりカテリーナは呟いた。そして目を閉じた。

 






 卒業式典から怒涛のように過ぎた日常も婚約式が終わり、落ち着きを取り戻していた。カテリーナは微睡みの中から覚醒する。見覚えのある輝く草原に佇んでいた。


 「ここは……?」


 キョロキョロと周りを見回す。そこには以前不思議な猫、リリーと出会い契約を交わした場所だった。


 「リリー? 貴女が呼んだの……?」

 【えぇ、円環の輪から抜け出せたから呼んだの】

「抜け出せた……?」


 カテリーナは足元にいる猫のリリーを抱き上げ頬擦りをする。


 「ありがとう、リリー。貴女には感謝しかないわ。お礼をしたいのだけれど……」


 リリーを抱き締めていたカテリーナは絶句する。リリーの身体が透け始めていたからだ。


 「リリー?」

 【契約は無事履行され、カテリーナの願いが叶ったから。そろそろお別れね】


 慌てるカテリーナとは対照的にリリーは冷静だった。


 【お礼……。そうね、カテリーナ幸せになりなさい。デイヴィットと】

「リリー……」

 【あたし、湿っぽいのは嫌いなの。笑顔で別れましょう? 】


 ぐすりと鼻を鳴らしカテリーナは微笑んだ。リリーも微笑み返し、二人は抱き合う。


 「さようならは言わないわ。また会いましょう」

 【えぇ、また】


 口では別れの言葉を交わしたが、カテリーナはリリーが消えぬようにぎゅっと強く抱き締めていた。やがてその重みがなくなり、カテリーナは自分を抱く形になる。


 「絶対……約束よ……」


 カテリーナは強く自分に言い聞かせるように呟いた。

 その後、デイヴィットとカテリーナは良き指導者とその妻として、のちに名を残す治世を行い、子宝にも恵まれ幸せに暮らしました―――とさ。悪役令嬢カテリーナ・フォン・シルクレイドの物語はおしまい。

 





 リリーは猫の姿のまま光輝く道を流れるように進んでいた。その隣に妖精が並走する。


 「救済者の仕事は完了したよ。………ご主人、今回はやけに長かったね」

 【まぁね。続編と合わせて潰さなきゃいけなかったから、想定よりも時間がかかったわ】


 妖精の名はキラ。白く輝く光のようだからとリリーが名付けた。


 「それにしても……まだ猫のままなの? ご主人」

「煩いわね、好きなのよ」


 リリーはキラに指摘され、人形(ひとがた)に戻った。黒髪に紅い瞳が印象的な美少女に。


 「それよりもキラ? 頼んだ方はどうなったの?」

「あぁ、あの物語に入り込んだヤツ(・・・・・・・・・・)でしょ? ちゃんと排除したから大丈夫。それについては、ダークに任せたし……しっかり仕事してるでしょ」

「ダークって……また仕事を押し付けたわね?」

「いいんだって。ダークはご主人の力になれるのが至上の幸福なんだから」


 キラの言い分にリリーは呆れる。話に出てきたダークとはキラの双子の漆黒を思わすような色合いをしている妖精のことだ。


 「全く……あなたって子は……」


 リリーが呆れていると。


 「主様」


 話題に上がっていたダークが現れる。


 「ダーク、お仕事お疲れ様」

「いえ。力と記憶を奪い、因果律の厳しい設定にしておきました。ただ……」

「ただ?」

「最後はキラが適当に捨ててしまったので、どんな状況かはわかりません」


 ダークがしょんぼりとしていた。その頭を撫で、リリーはキラを睨む。キラは視線を逸らし乾いた笑いをする。


 「キラ……」


 怒気を含んだ呼び方にキラの肩が震えた。


 「主様、いつものこと。構われたくてしてるだけ……」

「あら、そうなの?」

「ダーク!」


 顔を真っ赤にしたキラがダークを睨む。その顔を見てニヤッと笑い、ダークは「紅い顔してたらバレバレだし」とシレッとしていた。


「~~~~~っ! 次、次の依頼だ」

「あ、話を逸らした」

「うるさいっ!」


 キラとダークの掛け合いに少しだけ笑みを浮かべたリリー。キラの持つ次の依頼書を抜き取り目を通す。


 「おふざけはここまでよ」


 きゅっと顔を引き締めるキラとダーク。リリーは次の依頼主の元へ向かうべく前を見据えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ