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第六話 お前は追放だ、はフラグにしか聞こえない

お前は追放だと言われたいですか。

天界にも一応精神科があるので受けたらどうです? ざまぁ展開がしたい?

ここチート転生課ですけど。まぁその展開もこの部署の担当なので、あってますけど。

でもおすすめしませんよ。追放した奴らにざまぁ展開が終わったあとは、ただのチート無双になりますから。


ちょっとお話しましょうか。

ある日、お前は追放だと言われて追放されたとします。その後、追放された子が実はめちゃくちゃ優秀で、追放した奴らはその後、ことごとく依頼に失敗する。

そして追放された子はどんどん成り上がって、追放した奴らは悲惨な運命を辿ることになる。

ここまであなたの描いたざまぁ展開ですね?


いや〜ハッキリ言ってクソですね。人間はいつ猿に退化したのやら。だって自惚れや横取りはあっても追放した奴らが、自身の能力に気づかない方がおかしいじゃないですか。

人って意外と違和感に気づくもので、武器の使い心地や周囲の目線など敏感なんです。


話がややこしいから簡単に説明しろ?

結論、強さには自覚が必要。

要は風邪を引いて、どれくらい体調が悪いのか。分かるのは自分だけでしょう。

強さもまた然りです。例えば筋肉ムキムキなゴリラと戦うことになったら、負けるって無意識に危険信号を出すでしょう?


人間は好戦的な生物ではなく、ビビりでチキンな弱小生物なんです。

それでも俺が強いという輩は頭イカれた狂人かヤク中毒者のやべぇ人しかいません。

それなのにざまぁ展開ができるのは、追放される子が無意識に意図的に仕組んだ展開としか思えないんです。


私が思うにざまぁ展開はご都合主義の頂点ですよ。それでもざまぁ展開がしたいのでしたら私はもう止めません。

あとは糞神がご都合世界を作ってくれるので、その世界で暴れ散らかしてください。


最後になるけど、チートは追放されるまで封印されます。あとからやっぱりハーレムやチート無双がよかったとか言わないでね。

ついでにショタの体で追放されるのも文句言わないように。

よーし、レッツ異世界げー……じゃなかった。


レッツ異世界チート転生!



◇◇◇◇



「お前は追放だ」


その言葉は破滅か、自由と捉えるべきか。

だが、今の僕にとって前者に近かった。


「うわぁぁぁ!?」


暗い路地裏で転がる少年が一人。泥汚れた顔を手で拭い、四人の男女パーティに向かって叫んだ。


「なんで追放するの!?」


「お前が一向に弱いからだ。珍しいスキルだから加入させてやったのに全然役に立たねぇ」


パーティーリーダーは道に唾を吐き捨てる。彼らにとって役に立たない奴は食うだけのお荷物同然だ。


「リーダーの言う通り。無能は無能らしく道に転がってればいいのよ」


「ようやく生臭野郎が消えて清々するわ」


「ふん。無能に居場所なぞない」


彼らは高笑いしながら立ち去った。

少年は自分の弱さを嘆く。結果を残せないスキルに涙する。道端で転がり精神の脆さを痛感する。どうしようもない無気力に包まれて夜空を少年は見上げた。


「僕はこれからどうしたら……」


すると少年の内から熱が吹き荒れる。

魂に刻まれた傷跡(きおく)が、心に空いた穴を荒治療で繋ぐように強烈な痛みが全身を駆け巡った。

激痛を乗り越え、前世の記憶と共に本来の正しいスキルの使い方を思い出す。


「ぼ、僕は……」


それは始まりの一歩。前世の彼が異世界へと踏み出す瞬間だ。

やがて少年は立ち上がり、夜空に向かって告げる。


「このチートスキルで必ず強くなってみせる」


彼が歩む道のりは果たして思い描いだ物語になるのだろうか。それは未来の自分と神のみ知ることだ。



◇◇◇◇



私はコーヒーを啜る。変わらない味と職場の光景に今日も残業日和だなっと一息つく。


「カマエル先輩、一週間謹慎処分という名の追放どうだったッスか?」


ハニエルの顔は笑顔だが、その心の中は少し不満気味な感じが見て取れる。しかし、まともな休日だったよだったらどれだけよかっただろうか。


「謹慎処分という名の仕事だったよ」


「……あ」


ハニエルは即座に察した。今までカマエルがいなかったのに仕事が順調に回っていたのはなぜか。結論、裏でカマエルが働いていたからである。


「まともに休めるとでも?」


「す、すみませんッス」


「まぁハニエルが言いたいことも分かるよ。何で糞神共に一発殴りにいったのかでしょ」


「も、もう大丈夫ッス!」


「糞神共をわからせたかったんだよね。まぁ糞神共の泣き面見れたのは最高に滾ったよ」


ゆっくりと黒ずむ天使の輪にハニエルは手を伸ばして引き留めようとする。


「そ、そうだ! 先輩にぜひ聞いてほしい話があるんですよ!」


「なにかな?」


「ご都合世界で起きた話なんッスけど」


ハニエルは語り出す。何がなんでも堕天を食い止めるために。


「追放ざまぁ展開の子を担当したこと覚えてるッスか?」


「知らない。覚えてない。ざまぁ展開を糞神共にしたい」


「と、とにかく! その追放っ子が奇想天外のことしたんですよ!」


「ふーん、一言で説明して」


「追放っ子は狂戦士化し、ざまぁ展開から世界を滅ぼしたんッス」


「……詳細に説明して」


「はいッス!」


獲物を釣り上げたハニエルは意気揚々に語り出す。

糞神の創り出したご都合世界は追放少年のご都合そのものだった。前世とチートスキルが解放されて切磋琢磨に強くなっていく。

しかし、追放少年は強くなりすぎた。


普通なら現仲間達と前仲間達と戦い、実力の差を見せつけてざまぁ展開を広げていくのだ。

追放したことを後悔させ、今までの償いをさせるために。

ところがどっこい。強くなりすぎたことにより戦いではなく蹂躙いや、殲滅に変わった。

もはやざまぁ展開どころではない。

タガが外れてしまった追放少年は戦いに飢えてしまったことにより、世界は危機に瀕したのだ。


「まぁご都合世界だから滅んでもいいか」


「よくないッスよ! 滅んだら先輩()責任負わされるじゃないッスか!」


も? 糞神と一緒にってことかな。


「ああ、それはないよ。ご都合世界は私の管轄外になるから責任は糞神になるよ」


変数世界は天界役所が管理しているため、迷える魂を送った天使と神は責任を負わされる。

しかし、ご都合世界は天界役所は預かっているものの神々が創造した個人のモノだ。その世界で迷える魂が何をしようとも自己責任と言い返せる。

まぁたまにクレームつける糞神もいたりするが。


「ちなみにクレームつけにきた糞神(ヤツ)は完膚なきまでに論破して、世界創造の権限を剥奪するよ」


「……なんかカマエル先輩の方がよっぽどざまぁ展開してるッス」


「そ・れ・よ・り・つ・づ・き・は?」


「あ、えーと実は…………」


その後、ご都合世界は塵一つ残さず滅んだ。綺麗さっぱりもう見事なまでに爆発四散したのだった。


「やったぁああ! 糞神にざまぁ展開できるぅううう!」


「いやあの」


「やっぱり一発殴って正解だった! 今度こそ何様ですか糞神って正面から言えるよ!」


「あの! その件でガブリエル先輩がピンチなんッスよ!」


私の頭がはてなに埋め尽くされて首を傾げる。


「なんでガブリエルが?」


「実は強くなりすぎた追放っ子が、神様に強いヤツと戦いたいって言ったんッスよ。それでガブリエル先輩が選ばれたッス」


見事に狂戦士化してるなぁと思いつつ、私の中で一番強い人を思い浮かべる。


「それならルシファーとか」


「ルシファー先輩があの神様達に従うとでも?」


「うん、絶対に従わないね。ご都合世界を殲滅させるくらいには」


「それで謹慎処分のカマエル先輩は頼めないし、他の天使(ひと)達も忙しくて……」


「で、比較的暇なゲーム転生課のガブリエルが担当したと」


ハニエルはこくりと頷く。


「もうやばかったッス。手加減できないガブリエル先輩はチート転生者とぶつかって世界は見事に消滅したッス」


私は頭を抱えた。基本ご都合世界は糞神共の責任問題である。しかし、ご都合世界でも干渉して滅ぼしたとなれば話は別だ。


「ガブリエル先輩は世界を滅ぼした責任を負わされて、いまは審判の間で裁定させられてるッス」


ハニエルは顔に影を落とした。これからガブリエルがどうなるか理解しているのだろう。

最悪、天界役所から追放されて、あのガブリエルなら野垂れ死ぬ可能性だってある。


「で、でも私達には関係ない話でしたね! つまり私が言いたかったのは大天使と戦いたい転生者もいるんだなぁと思っただけッスから!」


ハニエルの言うことはもっともだ。ガブリエルがどうなろうとチート転生課に影響はない。しかし、ガブリエルはしっかり仕事をしたのだ。

傍観してる糞神と違って。なのに責任を負わされるとかとんだ理不尽だ。

私はこう言おう。そんな理不尽はクソくらえだ。


「ハニエル」


「な、なんッスか」


カマエルはメモ帳を取り出して、乱雑に書きなぐる。


「ここに書いた資料を用意しといて。三十分くらい時間稼ぐからそれまでに審判の間に来るように」


「りょ、了解ッス! 必ず用意するッス!」


カマエルは仕事を放り出し、全速力で審判の間に向かった。

その後、ハニエルが用意した資料とカマエルの正論に糞神は太刀打ちすら叶わず、カマエル陣営が勝訴した。

結果、糞神は世界創造の権限を剥奪されて、カマエル達は意図せずざまぁ展開を繰り広げてみせた。

しかし、代償として残した仕事が大波のように翌日に押し寄せて、カマエルとハニエルは涙目になるのだった。

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