世界最大の洞窟は全長9キロ
黒い人影は郊外の廃工場まで移動して足を止めた。いかにもな場所だけど、ここがアジトと言われても違和感があった。夜通し捜索した際にこの付近にも来ていて探査魔法をかけている。この周辺には怪しい反応はなかった。私が探査した後に移動してきたという可能性はあるけれど、それはあまりにも偶然過ぎて可能性が低すぎる。廃工場に入る前に探査魔法を走らせてみたが清隆君の反応どころか他の怪しい反応もない。ただの廃工場だ。
黒い人影は確かに廃工場へ入ったのにその反応すらないことに私は自分の探査魔法に疑問を抱く。自分の不甲斐なさを実感することが続いているので自分の力も信じられなくなってきている。
だけど、女神としてそれではいけないと気持ちを切り替える。落ち込むのは後。今は清隆君を助けるのが優先だ。
慎重に廃工場へ足を踏み入れると中は真っ暗で何も見えない。魔法で視界を強化して暗闇の中でも見えるようにしたけど何も怪しいモノは見えない。どこかに隠れているのかと周囲に気を配りながら廃工場の奥へと進む。
廃工場の中央付近まで歩いてきても何の反応もなくて無音が空間を支配していた。
(無音?)
疑問が頭をよぎった私は少し強めに足踏みをする。足はしっかりと地面を踏みしめた。しかし、その際に発生するはずの足音が聞こえなかった。
「これはっ!?」
地面だと思っていたモノがそうでなかったと気付いたと同時に足が地面に沈んでいった。抜け出そうと足掻いてみるが流砂にのみこまれたように足掻くだけ体が沈んでいく。魔法で飛ぼうともしたが出来なかった。私を飲み込もうとしている地面が魔力を吸収しているようだ。吸収できないほどの魔力で無理やり抜け出そうと考えたがすぐにやめる。
この地面は敵の罠だ。おそらく清隆君も同じように地面にのまれて捕まっている。ならこのままわざと捕まった方が清隆君を救出できる可能性が高い。そう考えて諦めたふりをして体が沈んでいくのに任せていると足先から浮遊感を感じた。地面の下の空間に抜けたようだ。しかし、これはおかしい。探査魔法で廃工場を調べたばかりだ。地下室のようなモノがあれば当然分かる。だが、先ほどは地下室の存在を確認できなかった。何か私に感知出来ないものが足元にある。若干の恐怖を感じながらも意を決して私は一気に沈み込み、地下の空間に突入した。
「はっ?」
突入した私は目の前の光景に言葉を失う。そこは数百メートル規模の洞窟が広がっていて中央付近には石造りの巨大な祭壇があった。祭壇を囲むようにかがり火が焚かれていて日の光が差し込まない洞窟の中でも比較的視界は明るかった。洞窟の天井から落ちながら観察していた私に祭壇の中心から発生していた禍々しく黒い気配が襲い掛かってきた。
視界を黒く染め上げるような気配を振り払い、下に降り立つとすぐに清隆君を探すために周囲に視線を送る。が、一見しただけでは清隆君の姿は見つけられなかった。しかし、洞窟の壁や鍾乳石が不自然に壊れていてここで戦闘があったのは間違いなかった。壊れた鍾乳石の断面から判断するにその戦闘は最近発生して既に終わっている。
血痕などは見えないが清隆君がここにない以上、負けてしまったのかと考えてしまう。
「ようこそ、女神様」
洞窟内を反響するように響いた声の主を探すとそいつは隠れる様子もなく堂々と祭壇の最上部にいた。見た目は高そうなスーツを着た白髪の老紳士だが、それが本来の姿でないことは溢れ出している禍々しい魔力で分かりきっていた。
「あなたがここの主かしら」
「いえいえ、私はあくまで一時的に管理を任されているだけでございます。主はこちらでございます」
老紳士が腰を低くして手で促した先には禍々しい空気を発する祭壇には不釣り合いな純白の石碑が設置されていた。如何にも魔王が封印されていそうな石碑だ。
「封印されている魔王ってところかしら?」
「いえいえ、魔の王、魔族の王を名乗っているだけの者達と一緒にされるのは心外でございます、女神様」
先ほどから私の事を老紳士は女神と呼んでいる。自己紹介をした覚えはないので以前ソリダス達と戦った際、この老紳士はどこかで戦闘を見ていたのだろう。
「そういう言い方をするってことは神ってことかしら」
「ご明察です。さすが女神様ですね」
「褒めてくれてありがとう。ちょっと前に落ち込むことがあったから嬉しいわ。嘘でもね」
「本心でございます」
老紳士の言葉遣いは丁寧だが、敵意をあからさまにむき出しの状態では逆に怖さがある。
「私の知り合いがここに来たと思うけど……どこにいるかしら」
「あの者ですか。ええ、来られましたよ。女神様のように誘いに乗ってホイホイと」
一匹見つけたら百匹はいるような虫と同じような呼ばれ方をされて少しイラついた。
「……で、どこに?」
「異世界の勇者だったそうで。確かにお強かった。ウガリスとソリダスが残した使い魔を全て倒してしまいましてね。大変困ったことになりました。これでは主復活のための準備が出来ないと。ですが、ふと私は冷静に考えました。代わりなら、いいえ、代わり以上の者がそこにいると」
「もう一度聞くわ。どこにいるの」
「このような趣向はお気に召しますでしょうか」
老紳士が指を鳴らすと祭壇の奥、純白の石碑の真後ろから石柱がせり上がる。何かと思って見ていると石柱の中から清隆君の上半身だけが姿を現した。両手と下半身は石柱に飲み込まれていて身動きは取れそうにない。そもそも清隆君は瞳が閉じられていて嫌な考えが頭をよぎる。
「ちなみにご安心を。まだ生きております」
老紳士の言葉に内心ほっとしたことを表情に出さないように清隆君を観察すると確かに血色はよく胸の部分が呼吸で上下していた。




