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保護者を面談

 香織の両親と会う際はそれなりにちゃんとした服装をした方が良いと言われたので香織に選んでもらったワンピースを着ることにした。

 場所は市役所の会議室となっていたので面談時間の数時間前には斎藤君とシェルターの職員である安藤さんと集合して事前の打ち合わせを行った。基本的には前回取り決めた面談の手順だ。基本的には斎藤君と安藤さんが香織の両親と話して私は何か質問された際に答えることになっていた。場合によっては私は一言も話さない可能性がある。そうなってしまうと私がここに来ている意味が無くなる。なのでその場合は私から逆に質問をしようと思っている。香織の両親が香織をどう思っているのか、どうしたいのかちゃんと聞いて、香織に伝える必要があると思う。

 面談の予定時間は午後六時。だけど、すでに午後六時半を過ぎているのに香織の両親は現れていない。斎藤君の方が連絡を取ると仕事が長引いて遅れていることが分かった。こういう場合は向こうから連絡してくるのが普通なのではと思う。この世界でも私の世界でも共通の認識なはずだ。

 午後七時を過ぎた頃、会議室に女性が一人入ってきた。


「遅れてすいません」

「いえ、お待ちしておりました」


 入口の扉付近で頭を下げる女性に対して斎藤君が席を立って迎えにいく。香織の母親なのだろう。


「すいません。夫がどうしても仕事が抜けられないとのことで……今日は私一人で」

「謝らなくて結構です。お仕事でしたら仕方がないことですから」


 さらに低く頭を下げる女性を斎藤君が椅子へと案内して座らせた。


「まずは自己紹介から行いましょう。私はすでに何度かお会いしていますが改めて斎藤明(さいとうあきら)、弁護士です」

「次は私ですね。安藤里美(あんどうさとみ)と言います。娘さんが今生活しているシェルターの職員です。娘さんとは一緒に食事やレクレーションで仲良くさせてもらっています」


 自己紹介を終えた二人に促されて私も自己紹介を続ける。


「ステラ・サンドウィッチです。名前は冗談みたいに思われるかもしれないけど本当なの。香織……娘さんとは深夜のコンビニで出会いました。そのまま放っておくことが出来なかったので私から斎藤君を通じてシェルターに入れるように。それ以来何度か娘さんとは何度か会って話をしています」


 斎藤君や安藤さんと違って場から浮いている私の事を香織の母親は怪しい者を見る目で睨んできた。この場で私が一番身分が不確かなのだから当然の反応なのだが、それにしても目つきが鋭すぎる。明らかに敵意だ。もしかして香織が今の状況になっている原因を私のせいだと思われてないだろうか。


「私は宮田紀乃(みやたきの)です。この度は娘が大変ご迷惑をおかけしております」


 香織の母親、紀乃さんは自己紹介をしつつ深々と頭を下げた。顔上げた目線の先は私ではなく斎藤君と安藤さんに向けられていた。紀乃さんの視線を受けて斎藤君が話し始めた。


「さっそくですが、娘さんである香織さんの状況からお伝えします。何か気になる事があれば質問をしてください」

「分かりました」

「香織さんはシェルターでの生活は真面目ですね。一度夜に抜け出したことがあったようですが、それ以降はシェルターのルールをよく守ってくれています。学校の方にも毎日ちゃんと通われて、朝食も夕食もきちんと食べていて健康状態にも問題はありません」

「あの子が……」


 斎藤君の報告に紀乃さんが怪しんでいるように首を傾げた。自分の娘が規則正しく生活して学校に行っているという報告なのに何を疑問に思うことがあるのだろうか。


「香織さんのシェルターでの生活は何も問題はありませんがシェルターはあくまで一時的な保護施設です。香織さんが自宅に戻れるまでの一時的な」

「あの子が戻ってきたいって言ったんですか」

「いえ、今のところ香織さんから自宅に戻りたいという言葉は聞けていません」

「でしょうね。あの子はずっと反抗的で私の事を嫌っていましたから。家に居たくないから家出したんです。今更戻れないでしょう」

「紀乃さん。香織さんが居てもいい戻れるような家にするのが親としての責任なのではと私は思います」

「高校生まで育てました。もう充分責任は果たしたと思いますよ。今どきの子は一人でいろいろ考えられるでしょう。実際、しばらく一人でどうやっては知りませんが寝泊りしていたみたいですし。今更、家には戻ってきませんよ」

「香織さんはまだ未成年です。親には子供を監督する義務があります」

「監督ならしてきました。あの子が立派に育つように将来幸せに過ごせるようにって……それを嫌がったのはあの子です」

「ここ最近は香織さんとちゃんと話すことがなかったのではないですか? 一度落ち着いて話し合うことができれば香織さんの今の気持ちが分かって和解できると思います」

「和解? 何を和解するっていうんですか? 別に親子喧嘩もしてませんよ」


 自分の娘である香織を突き放すような言葉につい声が出てしまう。


「香織は母親のために頑張って勉強してたみたいよ。知ってた?」

「知ってた? 子供が勉強するのは当然でしょ。何を言っているの?」

「香織が同年代の子と遊ぶのも我慢して褒められたいから勉強してたのを知ってた?」

「褒めてましたよ。ちゃんと出来た時は。せっかくいい中学に入れてあげたのに成績が信じられないくらい悪くなって。成績悪かったら怒るでしょ」

「香織は無理してたのよ。それで限界が中学校で来たの。本人から聞いた話だけどね。あなたは母親として香織からこういう話ちゃんと聞いてた?」

「……ずいぶんと娘とは親しいみたいですね。呼び捨てなんて。えっとステラさん? 貴方は誰なの? 弁護士でも施設職員でもないみたいだし」

「香織の友人よ。あなたより香織を大事に想っているね」

「っ!?」

「ちょ、ステラさん!!」


 紀乃さんが顔を真っ赤にして立ち上がった。両腕を震わせて私を睨んでくる。私もその視線を受けて視線を返していたが紀乃さんから私の姿を隠すように斎藤君が間に入ってきた。


「宮田さん、落ち着いてお座り下さい。ステラさんもあまり変なことは言わないで下さい」


 変なことを言ったつもりはないけれど斎藤君を困らせるのも悪いので改めて黙ることにした。


「この人何なの!? おかしな名前だし、態度は失礼だし。あの子を悪い道に連れ込んだのはこの人じゃないの?」


 反論したいけどここで反論すれば火にガソリンを注ぐ行為だということくらいは分かるので黙っておこう。

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