某コーヒーショップの注文は呪文のようだ
「ねぇ、ステラ、聞いてる?」
「ん? ああ、聞いているわよ」
若干ぼーっとした頭で生返事をしたせいか香織の表情が分かりやすく不機嫌になった。また香織に呼び出されてカフェでお茶をしている最中だ。前行ったようなはやりのお店ではなくチェーンのお店だが、季節ごとの新商品が人気なお店であるため、周囲の客席は満席となっていた。
「じゃあ、今、私が言ったこと言ってみて」
「めんどくさい彼女か」
「べ、別に彼女って! だ、第一そっちの趣味はないし……」
香織が顔を赤くして急に体を動かすのでテーブルに置いてあったやたらと長い商品名の飲み物が下に落ちそうになったので慌てて支えた。
「動揺すると余計怪しいわよ。まあいいけど、えーっと、学校のことよね。自分の変な噂広まって困ってるって」
「一言一句は一致してないけどその通りよ」
「噂にしても香織がオヤジ狩りしてるというのは荒唐無稽よね。それほど強そうに見えるのかしら」
「そこは私に不良な彼氏がいてその仲間と一緒にやってるって話になってるみたい」
「ステラ、不良じゃないけど?」
「そもそもステラは彼氏じゃないでしょ。茶化すのはやめて。結構真剣な悩みなの。ただでさえ今は学校に居場所無いのに」
「それは香織の身から出た錆というヤツじゃない? ……使い方合ってるわよね?」
「たぶん合ってるけど……確かに私が数少ない友達の家に無理やり泊まりに行っていたのが原因だけどさ。パパ活も実際にしてたからそこはいいんだけどさ。それでもやってないこと言われるのは腹立つわけなのよ」
「でしょうね。で、ステラに何をして欲しいの?」
「なんか投げやりぃ~」
「投げやりじゃないわよ。香織が困っているなら出来る範囲で力になるわ。最初に言った通りにね」
「……うーん、ステラの知り合いに探偵とかいないの?」
「ちょっといないわね。なんで?」
「オヤジ狩り犯人捕まえてもらうと思って」
「捕まえるのは警察の仕事でしょ。探偵の仕事じゃないと思うわ」
「やっぱり事件を解決するような探偵はドラマの中だけか……」
「その辺りは知らないだけでいるかもしれないけれどね。そっちの方が夢があるでしょ」
「そうだけど……今はどうやったら変な噂がなくなるのかってことよ」
「オヤジ狩りが捕まるのが単純よね」
「ステラ、捕まえられない?」
「さすがにどこの誰とも分からない人は捕まえられないわよ。後、今結構立て込んでて忙しいの」
「え、ステラに忙しい日とかあるの!?」
香織が本当に驚いたような表情を浮かべた。さすがにそれは失礼な反応ではないだろうか。
「ここ最近は毎日夜勤よ」
「社畜?」
「働いてるわけじゃないから違うわ。一緒に行動している人が暑苦しいのが難だけど」
「……ふーーん」
なんだろう、香織の目つきが少し鋭くなった。
「でも夜勤の片手間でよければ探してみるわ。オヤジ狩り。ちなみにオヤジ狩りって何? 実は分からなくて言葉尻だけでやり取りしてたけど、オヤジは父親の呼び方の一種よね。父親を狩るの?」
「この場合のオヤジっていうのは本当の父親のことじゃなくて中年のサラリーマンのこと。ようは弱そうなおっさんから金を奪うの」
「それって追い剥ぎよね。盗賊じゃない」
「盗賊って……まあ江戸時代ならそう呼んでたかもね」
「まあ、分かったわ。出来る限りやってみる」
「頼むわ。私の学校での存在がかかってるから」
頼まれてばかりだと一方的すぎるので私の方からも香織に話を振ってみた。
「ステラからも一ついい?」
「なに?」
「香織の家族のこと」
予想通り家族という単語に香織の表情が固まる。一気に険しくなった。
「シェルターにはずっと居られないって聞いてるでしょ。それで香織の家族と話し合って問題を解決しようとしていると思うんだけど何か聞いてる?」
「一応聞いてる……」
「香織はどうしたい? 家に戻りたい気持ちある?」
「あるわけないじゃん。出来るなら一生関わり合いたくないっての」
「でも学校の学費は両親が払っているんでしょ。少なくとも学校を卒業するまでの付き合っていく必要があると思うわ」
「じゃあ、学校はもう行かなくていい」
あからさまに不機嫌になった香織はそっぽを向いてしまった。
「さっきまで学校で生活するための相談をステラ受けてたんだけど」
「それはそれ、これはこれ」
「別にご両親と和解してとは言わないわ。今までずっと続いていた関係が第三者が入ったからってすぐに解決するとは思わないし。学校を卒業まで寄生してやるって気持ちでもいいと思うわよ」
「……」
「実は香織との話し合いの場にステラも呼ばれているのよ」
「はぁ!? ステラ関係ないじゃん」
「そうだとは思うんだけどね。香織がシェルターに入るようになった関係者だからかな」
「きっと納得するよ。こんなクソ両親じゃ家出するの無理はないって」
「香織にそう言われるとちょっと会うのが楽しみになってくるわ」
香織は私の言葉に反発するようにやたら長い商品名の飲み物を強く吸い込み、大きな音を鳴らした。音に反応した周囲の視線が集まり香織の顔が赤くなった。




