久しぶりに会う知人は顔は覚えていても名前は覚えてないことがある
「もう出よう、ステラ」
「まだ飲んでないんだけど」
「歩きながらでも飲めるでしょ」
店に居づらくなった香織に急かされて店を出る。店の外はまだ日が高いため人通りが多く、一歩先に出た香織の姿を一瞬見失いそうになった。私が香織に声をかけようとする一瞬先に知らない青年達が香織に声をかけてきた。
「久しぶりじゃん。最近集まりに来ないしどうしたんだろうって心配してたんだぜ」
「……誰?」
親しげに話しかけてくる青年達に対して香織は嫌悪感を隠さない。香織は青年達のことを知らないみたいだ。
「誰って……冗談言うなよ。仲間だろ」
「知らないんだけど……ナンパ? いつの時代の手よ」
完全に敵意を向けている香織の態度に青年達はそれまでニヤニヤと浮かべていた笑顔をやめた。
「……お前、誰だ」
明確な敵意を今度は青年達から感じた。
「香織っ!」
香織の体を引き寄せて香織に向かって伸びていた青年達の手から逃す。
「ちょ、ステラ、急に何!?」
「なんか危なそうだから逃げるわよ」
香織の腕を掴んで走り出す。全力で走るわけにはいかないので香織の付いてこれる速度で人混みを縫って行く。ちらりと後ろを見ると青年達は追ってこようとしていたが、人混みが壁となって距離が段々と離れていく。この様子ならもう少し走れば大丈夫だろう。
青年達の姿が完全に視界から消えてからもしばらく走り続けて香織が顔で限界だと示してきた頃、ようやく足を止めて近くの壁に寄り掛かった。辺りは繁華街からそれなりに離れているため人通りは疎らになっていた。
「もう限界……は、走れない」
香織は汗を大量にかいて息を荒くしている。魔法で確認してみると心拍数がかなり上昇しており、疲労も溜まっていた。逃げるためとはいえ少し無理をさせすぎたかもしれない。香織の移動速度を考慮したつもりだったけど、まだ見込みが甘かったみたいだ。
「ごめん、大丈夫?」
声をかけながら不自然にならない程度に体力が回復するよう魔法をかける。
「大丈夫じゃ……ないわよ。急に走り出すんだもの」
「仕方ないでしょ。かなり危なそうな相手だったし……知り合いじゃないんでしょ」
「し、知り合いじゃないわよ。知らない男達よ。てか、ステラ体力あるのね」
「密かに鍛えているの」
「そうは見えないけど……ふぅ、少し楽になってきた」
香織の息が落ち着いてきた。
「しばらくあの辺には行かない方がいいわよ。また絡まれるかもしれないし」
「そうする。あーあ、走ってせいで飲み物どこかに落としちゃったし、今日はさんざん」
「……お詫びじゃないけど、ステラの部屋が近くだから休んでいく?」
「え、なに? 連れ込まれるの?」
「変な想像しないの。ゆっくり休みたいでしょうけど、外に居たら万が一にもさっきの人達が追ってきた時に大変でしょ。だったら部屋の方がより安心ってだけ」
「……確かに。それにステラの部屋って気になるし。ゴミ屋敷じゃないでしょうね」
「綺麗にしてるわよ」
毎日、清掃の魔法をかけているので埃一つない部屋になっている。ゴミについては明日が収集日なので多少溜まっているけど、問題ない範囲だ。
「で、部屋に来る?」
「行く。もてなしてよね」
「分かってるわ。心の限りを尽くしましょう」
香織の同意を得たので部屋へと向かうことになった。正直、私の部屋はそれほど近くないが、まずは香織を安全な場所へ連れて行くのが優先だ。
部屋に付くと香織は私よりも先に部屋に上がり、断りもなしに部屋の中を物色し始めた。
「確かに綺麗にしているし、一人暮らしでこの部屋、広くない?」
「そう? 1LDKだし。結構荷物置いてるから最近狭く感じてるんだけど」
「いやいや、十分でしょ。こっちは洋室……って物置ね」
「普段使わない物を詰め込んでいるの」
「なんかご当地のお土産が多いんだけど、ステラ、旅行が趣味」
「一時期個人的にブームな時期があったのよ」
「ふーん。こっちのリビングで普段生活してるってことよね」
「そうよ。ソファに座ってて。何か飲み物出すわ」
「コーラでお願い」
「……あったかしら」
香織の要望に応えようと冷蔵庫の中を覗いてみるがコーラはない。入っているのはミネラルウォーターだけだ。
「無いからちょっとコンビニで買ってくるわ」
「あ、無いならあるものでいいよ」
「何も無いの。ごめんね、すっかり忘れてた。お菓子も無いからついでに買ってくる」
「出かけるなら私も一緒に行くって」
「香織は走って疲れてるでしょ。部屋で休んでて、そのために来たんだから」
「そうだけどさ……いきなり他人を部屋に一人にするの不用心じゃない?」
「不用心? なんで? 香織がいるんだもの。逆に安心よ」
私の言葉に香織は一瞬驚き表情を固めた後、ゆっくりと口元を緩めて笑った。
「なら、ゆっくりさせてもらう。テレビ見てていいよね」
「構わないわ。じゃあ、行ってくるから」
「行ってらっしゃい」
香織に見送られて部屋を出ると足早に一階へと降りる。足先をコンビニへとは向けずにマンションの玄関先を出た所でピタリと止める。
「追いかけっこはやめにしましょうか」
人影の見えない住宅街の路地に向かって話しかける。
「気が付いているとは思っていたが……」
電柱の影や庭先の植木の中から先ほど香織に声をかけてきた青年達が姿を現した。
「お前は何者だ。あの娘の中にいたヤツをどうした」
「逆に聞きたいわ。あなた達は何者? 香織の中にいたヤツはその辺り聞く前に消しちゃったのよね」
言葉を言い終わるより前に青年達が人間離れした速度で私に襲い掛かってきた。




