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4.小さな訪問者

 

 とても不思議な夢を見た。


 私は異世界の国に召喚され、地毛とは思えないほどのカラフルな髪色をした集団に囲まれたまま、生涯を終えるという謎の夢。


 全く、変な夢だった。

 さっさと起きて朝食を食べながら、お母さんたちにこの話をしてあげよう。きっと弟には「そんな漫画みたいな話、夢以外ありえないな」なんて笑われるのだろうーーーー








「…………どうしよう、夢じゃなさそう」



 一番初めに視界に飛び込んできたのは、自分の部屋では絶対にありえないほどの、豪華な天蓋。


 たとえ両腕を伸ばしても、端に手が届くことはないであろう大きさの寝具に私は横になっていた。




 ……私はあの後、気を失ってしまったようだ。


 王妃(マーガレット)に「もう元の世界には帰れない」と告げられたことは鮮明に覚えている。正直、二度と帰れないなんて認めたくはないが、彼女は嘘をつくような人間ではないだろう。


 それに王子(ルーカス)の話では、私はこの国を救うために召喚されたのだ。もし、私にそんな力があったとして()()()()()()()()()()だなんて伝えるだろうか?


 人によっては「何で勝手に連れてきておいて、帰してもくれないのにこの国を救わなきゃいけないんだ!」と逆上する可能性がある。


 そんなリスクを背負うくらいなら「この国を救ってくれたら、すぐにでも元の世界へ帰す」と嘘つけばいい話だ。





「お母さんたち、心配してるだろうなぁ……」



 私という存在は、元の世界でどんな状況になっているのだろう。


 神隠しのように、いきなり消息不明になっている?それとも、元から【高杉 なつ】という()()()()()()()()()ことになっているのかな?


 どちらにしても悲しいことではあるが、できれば後者であってほしいと思う。存在自体が無くなったのであれば、少なくとも家族や友人たちが悲しまなくて済むからーーーー



「……手掛かりも、生死さえも分からないまま、当てもなく探し続けるなんて……そんなの悲惨すぎるもんね」



 胸が張り裂けそうな痛みを感じながら、私は深く息を吐き出す。さて、これからどうするかーーーー



『こーー!ーーいたーー!』

『ーーほんーー?どこーーーー!』



 考えに耽っていると、ふと外から子供のような声が聞こえてくることに気がついた。

 しかし、その声はまた上手く聞き取れない。この国は電波で会話するのか?


 身体を起こし、テラスへと続いているのであろうガラス張りの扉を見つめる。キラキラとした光が舞っているのが見えた。……あれは何だろう?目を凝らして見ると、人の形をしているような……。


 そのままずっと見続けていると、キラキラとした光が増えていき、やがて扉全体が光に覆われてしまった。



『いたー?』

『いたいたー!』

『あの子がそうなのー?』

『そうかも!』

『きっとそう!』

『ゼッタイそう!』



 今度はハッキリと声が聞こえた。そして、その姿もしっかり認識できている。


 扉に張り付いているのは小さな子供だ。

 小さな子供と言っても、恐らく……というか絶対に人間ではない。


 だって羽も生えてるし、手のひらくらいの大きさだし……実際に見たことはないが、漫画やゲームでの知識で言えば、あれは妖精……なのかな?



『入っちゃう?』

『入っちゃおう!』

『いいのかなー?』

『いいかも!』

『きっといいよー!』

『ゼッタイいい!』



 は、入ってくるつもりだ……。

 私の部屋でもないので、悪さをしないのなら別に構わないけれど……どうやってこの部屋に入るつもりなのだろうか。


 扉はしっかり閉まってるように見える。あの小さな身体ではびくともしないのでは……?それとも案外、怪力だったりするのかな?


 まぁ、開けないようであれば開けてあげれば良いか。少しワクワクした気持ちで眺めていると、一匹の妖精(仮)がクルリと舞う。


 すると、閉ざされていたはずの扉はゆっくりと開き、隙間を作り出した。



「……えっ?」



 今、一体、なにが起こったのかーーーー


 驚いている私のことなんて気にも止めずに、隙間から次々と部屋に入ってくる小さな来訪者たちは、楽しそうに寝具の周りをふわふわと飛び回り始めた。



「こ、こんにちは……」



 とりあえず挨拶してみる。



『こんにちはー?』

『こんにちはってなにー?』

『なんだろう?』

『わかんなーい』

『わかんないけど、こんにちはー!』

『こんにちはー!』



 想像してたよりも緩い性格のようだ。見た目は妖精の服を着せた幼稚園児みたいで、とっても可愛い。……手のひらサイズの幼稚園児ってちょっと怖いけど。



「あなたたちは、妖精さんでいいのかな?」


『そう!ボクは炎の妖精!』

『ワタシは水の妖精なのー!』

『ボクは風の妖精!』

『オレは土の妖精だー!』

『ボクは雷の妖精だよー!』

『ワタシは氷の妖精ー!』



 なんということだ、妖精にも種類があるのか。

 確かに言われてみれば、姿形は似ているが、纏っている光の色がちょっと違う。


 炎の妖精の子は、赤。

 水の妖精の子は、青。

 風の妖精の子は、緑。

 土の妖精の子は、橙。

 雷の妖精の子は、紫。

 氷の妖精の子は、白。


 なるほど、色で見分ければわかりやすい。



「教えてくれてありがとう。わたしはナツって言うの、よろしくね」



 この場にいる妖精は数百匹を超えるだろう。さすがに全員を撫でることは不可能なので、代表として自己紹介してくれた六匹の妖精たちを指の腹で撫でる。


 撫でられた妖精たちは嬉しそうに擦り寄ってくる。撫でられなかった妖精たちは「ボクも」「ワタシも」と不満気に指を引っ張ってくる。……可愛さの暴力。



「それで、みんなはどうしてここに来たの?」



 不満気な妖精たちを撫でながら、訪問しに来た理由を問う。



『ナツを探してたんだよー!』


「えっ? わたしを?」


『みんなで散歩してたらねー、ナツの魔力を感じたのー!』


「魔力」



 それは初耳である。私には魔力があるの……?

 この世界に来てしまった代償なのか、元々あったものなのかは謎だけれど、私には何も感じられない。



「魔力があるってことは、魔法が使えたりするってこと?」


『もちろん!』

『頭の中で想像すればいいんだよ!』

『そうすれば後はボクたちが力を貸すだけー』


「な、なるほど……?」



 頭の中で何がしたいか想像すれば、妖精たちがそれを叶えてくれるっていうことだろうか。

 ……それ私の魔力って関係あるのかな?妖精の力では?



『ナツ、魔法使いたいのー?』

『ナツならいつでも力を貸してあげるよー!』

『ボクが貸すー!』

『ダメー!ワタシが貸すのー!』



 まだ使うなんて一言も言っていないのに、誰が私に力を貸すか、妖精たちが喧嘩を始めた。


 数百匹の妖精たちが喧嘩をし始めるということは、とてつもなく騒がしいということで……耳が張り裂けそう。



「みんな、ちょっと落ち着いて! わたしはまだ魔法が使えるのかすら分かんないから!」



 なんとか宥めようと声を張り上げるが、残念ながら妖精たちの声にかき消されてしまい、さらにヒートアップする妖精たちの喧嘩に、もうお手上げ状態である。


 耳を塞いでも騒がしい。どうすれば良いのこれ、誰でもいいので助けてください。




『ーーーーやっと、見つけたのだわ!』



 そんな騒動の中、耳まで塞いでるのに、クリアに聴こえてきた声に驚く。未だに喧嘩を続けている妖精たちを掻き分け目の前に現れたのは、ボンキュッボンのスタイル抜群な妖精だった。


 ボンキュッボンではあるが、大きさは他の妖精たちよりも少し大きいくらいだ。……他の妖精が子供だとしたら、この妖精は大人ってことかな?



『もう、あなたたち! 見つけたらすぐに知らせなさいって言ったでしょう!』



 私の顔の前でお尻を突き出し、指を立てて子供妖精たちにお説教をし始める大人妖精。なんだかお説教されてるところばかり見ちゃうなぁ……。


 大人妖精に叱られて喧嘩を止めた子供妖精たちは、シュンと落ち込みながらも『忘れてたー』と答えた。

 もう少し良い言い訳なかったのか……。



『全く、仕方のない子たちなのだわ!』



 ふんっと鼻で息を吐き、今度は私の方に向き直り、ジィーっと見つめてくる大人妖精。目鼻立ちもしっかりしていて美人さんだ。


 大人妖精はしばらく私を見つめた後、にっこりと笑顔になった。……まさか私までお説教されるわけじゃないですよね?



『あなた、聖女召喚の術で来た異世界人よね? ウフフ、とーっても心地良い魔力なのだわ!』


「こ、心地良い?」



 お説教どころか褒められてしまった。頬に擦り寄ってくる大人妖精を見て、子供妖精たちも身体の至る所に擦り寄る。か、可愛さの暴力ぅ……。



「あ、あなたも妖精さん?」


『そうなのだわ……。ワタシはあの子たちのまとめ役で、人間で言うと、親みたいなものなのだわぁ……ふぁ〜……あぁ……このままずーっと、あなたに引っ付いていたい気分……』



 さっきまでのハキハキとした大人妖精はどこへ行ったやら。私の頬に張り付いてめちゃくちゃダラけている。


 できれば、ずっと引っ付くことはご遠慮願いたいが、ここまで心地良くなってるのを見ると無理には引き剥がせない。可愛いって得だなぁ……。


 あっ、そうだーーーー



「ねぇ、あなたたち妖精なら……わたしを、元の世界に戻すことができる?」



 王妃(マーガレット)は「戻れない」と言ったが、もしかしたら妖精なら、人知を超えた力で戻せるかもしれない。


 そんな私の期待のこもった言葉を聞いた大人妖精はそっと離れ、目線を合わせる。目の前にあるその表情で、何となく答えが分かってしまった。



『それは、できないのだわ……。元々の世界に深く根付いていたあなたを、この世界に連れて来れただけでも奇跡なのよ。もしかしたら、あなたがこの世界に順応する前ならできたのかもしれないけれど……』



 やっぱりダメか。まぁ、期待はしたがそこまで悲しみはない。それよりも、もしかしたらの話に興味を持った。



「順応って?」


『ワタシとあなた。今、普通に妖精語で会話をしているでしょう? それはあなたがこの世界に順応している証拠なのだわ』


「よ、妖精語?」



 なんということだ。普通に日本語で話していたつもりだったけど、私は妖精語を喋っているらしい。


 王子(ルーカス)と会話した時と同じだ。あの時は「スピリット語」を話していると言われたっけ……?



『妖精と会話できる人間なんて滅多にいないのだわ。それだけでも、あなたはこの世界に深く根付いてしまったということ。そんなあなたを、また世界から切り離し、大きなリスクをかけて元の世界に戻すことはできないのだわ』



『力になれなくてごめんなさい』と謝る妖精に、心が締め付けられる。……妖精の力でも無理なら、あとはもう神に頼むしか方法はないだろう。

 

 大きなリスクっていうのも怖いし、安全じゃないなら戻ることは諦めた方が良さそうだ。



『も、元の世界に戻すことはできないけど、この世界のことでなら、何でも助けてあげられるのだわ! 毎日一緒にいて、あなたに寂しい思いなんてさせないし、何か危険なことがあれば守ってあげる!』



 私の少し落ち込んだ表情を見て慌てたのか、必死に元気付けようとしてくれている。子供妖精たちも大人妖精の言葉に同意し『元気出して』と頭を撫でてくれる。なんて優しい子たちなの……。



「そうだね、あなたたちがいてくれるなら何も寂しくなさそう。ありがとう、妖精さんたち」



 私の笑顔を見て安堵し、妖精たちも笑顔になる。

 無関係である妖精たちに、これ以上は気を遣わせたくない。気持ちを切り替えて、この世界で生きていくことを考えなければ。



「そういえば、あなたのお名前は? わたしはナツって言うの。好きに呼んでね」



 これからずっと一緒にいてくれると言うのに、あなたや大人妖精って呼ぶのも寂しい。……ただし、子供妖精たちについては数が多すぎるので保留ってことで。


 大人妖精は可愛らしい笑顔を、少し寂しそうな表情に変え、答える。



『ワタシ……なまえは、ないのだわ』


「えっ? ないの?」



 それは盲点だった。妖精には名前を付けるという習慣がないのか、それとも名前を付けてくれる存在がいないのか……。



『いつも「無の妖精」とか「妖精さん」って呼ばれてるから……』


「そうなんだ……。あっ! じゃあ、あなたが良ければ、わたしが名前をつけてもいいかな?」


『ーー! ええ、もちろんよ! ぜひお願いしたいのだわ!」



 良かった、とても嬉しそうだ。

 子供妖精たちが『いいなー』とボヤいているけど、ここはスルーさせていただきます。

 君たちは色の違い以外、あまり大差ないから名前をつけても私は見分けられないと思う……。


 そんなことよりも、まずは目の前の子の名前だ。

 無の妖精と呼ばれているってことは、属性は何もないってことだよね?


 無ってなんか嫌だな……それならーーーー



「エレナ、っていうのはどうかな?」


『エレナ?』


「そう、エレナ。イタリア語……あー、元の世界の言葉で『光』って意味なの」


『…………』



 大人妖精はこんな私に「ずっと一緒にいてあげる。守ってあげる」と言ってくれた、まさに光のような存在。


 女の子っぽいし、ピッタリだと思ったのだが…も、もしかして気に入らなかったのだろうか?大人妖精は俯いていて、表情がわからない。


 どうしたものかと、下から覗き込もうとした瞬間、大人妖精は勢いよく顔を上げた。



『エレナ、気に入ったのだわ! 可愛くて、とっても素敵なのだわ!』



 よほど気に入ったのだろう、目はキラキラとしていて満面の笑みだった。心なしか身体から発せられてる輝きも増してる気がする。



「良かった、気に入ってくれて。改めてよろしくね、エレナ」


『ええ、よろしくなのだわ!』



 エレナは小さな唇で、私の額に口付ける。

 その瞬間、私は輝かしい光に包まれ、思わず目を固く閉じた。


 いきなり何だ!?と驚いたが、不思議と嫌な感覚はなく、むしろ暖かく心地良いーーーー






「な、なんと……! これは、妖精の祝福ーー!?」



 その声に驚き、目を開けると、扉の側で国王(仮)や王妃たちが信じられないというような表情でこちらを見ていたーーーー


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