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27 黒井賽の日常へ

その日を境にして、俺は新浪と関わらないようにした。


 新浪も教室にくることがなくなり、あれほど騒ぎたてられていた俺と彼女の関係は、次第に話題にされなくなっていく。それはもう……笑ってしまうほどに。


「あのさ……私なにかしちゃった……?」


 そんな様子に言及してきたのは、申し訳無さそうな顔をする林道。


 確かに、なにかしちゃったのはしちゃったけど……、


「何の話だ?」


 俺はそうとぼけるしかなかった。


「それさあ、新浪さんも言ってたんだけど……絶っ対私のせいだよね??」


 どうやら、先に新浪のほうに聞いてたらしい。


「だからどういうことだ?」

「いや、あんたと新浪さん急に絡まなくなったから、その……」


 言いたいことはわかる。罪悪感を覚えてしまったのもわかる。


 そりゃあ、あれだけ絡んでた俺と新浪が突然絡まなくなったのだ。一番近くで見ていた林道からすれば違和感だらけだろうし、その原因が自分にあるかもしれないと不安になる気持ちすらわかった。


「お前のせいじゃない。それに、俺とあいつは別に付き合ってもなかったしな?」


 しかし、彼女のせいじゃない。


 誰かのせいにするのなら、やはり俺なのだろう。


 終わらせ屋がバレたのは迂闊な俺のせい。

 知りたいとしつこくせがんできた新浪を振り払えなかったのも俺のせい。

 挙句の果てには、終わらせ屋とはまったく関係のない事にまで巻き込んで、妙な勘違いまで周囲にさせてしまった。


 それでも……新浪の告白に応えるのなら、俺は彼女との関わりを断つべきじゃなかったんだろう。いや、応えないにしても、周囲なんて放置しておけば良かったのかもしれない。


 しかし、それは何となく危険だと思った。


 新浪にとっても俺にとっても、それを放置して過ごすことは、とても危ういことのようにも思えてしまったのだ。


 逆に考えれば、良い機会だったのだろう。 


「最初から仲良くなるような人じゃなかったんだ。俺とあいつは」


「でもさ、私が変に騒ぎ立てたのが原因なんじゃないの?」


「違うって言ってるだろ。つか、今さら考えて見れば、付き合ってるって思われても変じゃなかったしな?」


「……本当に付き合ってたんじゃないの?」


「付き合ってないって。ただ、そういうことが曖昧になってたのは確かかもな? だから、ちゃんとしようってなっただけだ」


 不安げな林道を落ち着かせるべく、笑顔でそう言ってやる。


 それでも彼女の不安げな顔に変化はなくて、何度「林道のせいじゃない」と説得を試みても「でも、でも」と反論しつづけてきた。


「――はぁ。お前のせいだったら……何だよ?」


 だから、流石に鬱陶しくなって俺はそんな言葉を吐いてしまう。


「仮にお前のせいだったら何かしてくれるのか?」


 そして、一度吐いてしまったら……引っ込みがつかなくなった。


「いや、その……」


 急にぶつけられた怒気に林道は狼狽し言葉を濁す。


「なんの償いもできないくせに、「罪悪感だけは持ってます」アピールはイタイぞ?」


 そして、追い打ちとばかりに差し込んだ言葉。それに彼女は目を見開いて固まってしまった。


「賽、僕はなーんにも分かんないけどさ? 今のは言い過ぎじゃないの?」


 傍から見ていた四島がのんきな声でそう言ってくる。


 しかし、それを訂正して謝る気はなかった。そんな事をするのなら……俺はたぶんそんな言葉をぶつけていない。


「あくまでも仮の話だ、仮。最初から言ってるように、林道のせいじゃない」


 それでも……悪い事だと自覚はしていたから、掛けておいた保険を使う。


「……ご、ごめん」


 もちろん掛けてたのは自分にだけで、林道には掛けてない。俺が吐いた言葉のダメージは今も受けたまま。


「だから、お前のせいじゃないから謝っても意味ないって」

「……ごめん」


 そのやり方が卑怯だと分かっておきながら、俺は作った笑顔でそう主張しつづけた。


 それは、林道にその話題を金輪際言わせないための強硬手段。印象が悪いのは自覚していたが、それでも謝る気はない。


 林道に関わらず、どうせ誰から何と思われようが俺にはどうってことなかったから。


「ふーん。まぁ、なんでも良いけど。薫はもう謝らなくていいんじゃね?」


 傍観気味の四島は興味なさげな感想を漏らしたあと、林道にそう声をかけた。


 四島も俺の事を軽蔑したかもしれない。


 しかし、もはやそんなことすらどうだって良かった。


 林道は四島の言葉に従い、まだ物言いたげな顔をしていたものの諦めて離れていく。


 その事にすら何の感情も沸かない。


 それよりも、ようやくいつもの日常が戻ることに安堵していた。


 俺はこれからも、周囲とは深い繋がりを持たずに過ごしていくのだろう。

 そして、裏では終わらせ屋を仕事として過ごしていくのだろう。


 それが、黒井賽の生き方なのだろう。


 そんな結論を再認識していたら、ポケットのスマホが軽く振動し、彩芽さんから学校終わりに事務所にくるよう連絡があった。


 おそらく新しい依頼。


 ちょうど良かった。今は、何もしないでいると考え事をしてしまうから。


 その連絡に了承の返事をした俺は、浅い息を吐いた。

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