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90話 決闘 その四


 もはや隠し通すことはできない。であれば、いっそのこと、自由にやってしまおう。システィくらいの実力者なら遊び相手にはちょうどいい。


 それに、向こうがやれと言っているのだ、向こうも文句は言えまい。


 そう心のなかで思うと僕は自分の剣に目を移した。先ほどの攻防でずいぶんと刃が欠けてしまっている。


 だがしかし、問題ない。


「先ほどは失礼いたしました。次は本気で行きます」


 静かに僕がそう告げると、目の前に立ちはだかるシスティは緊張するように表情を固めた。そして先ほど同様の構えを見せる。


 改めてシスティの剣を見ると、ずいぶんと値の張りそうな直剣だと思った。柄の部分にはいくつかの宝石が埋め込まれ、刀身には細かな竜の彫刻が施されている。


 きっと、相当な高級品なのであろうが、実践においてあのような武器は何の意味も持たない。所詮武器など、相手を殺めることができればそれで十分なのだ。


 むしろ、あんな目立つ武器を持っていては自分を殺して奪い取ってくれと言っているようなものである。


 ここはひとつ、小娘に現実を教えてやらねばなるまい。


 そう思い、僕はシスティと同じ構えをとった。


(何のつもりだ? まさか、あれが本来の構えなのか?)


 先ほどとは違った僕の動きにシスティは明らかに戸惑っていた。その戸惑いが実戦であれば命とりであることを彼女は知っているのだろうか。


「始めろ」


 またも端的な皇子の一言で勝負は幕を開けた。そして今回もまたシスティは様子見をしてくる。


 さすがに警戒しているのだろう。ただ、僕にはシスティを警戒する理由はなかった。


 先ほどの勝負とは全くもって真逆の展開。


 つまるところ、僕のほうから仕掛けに行ったのだ。


(頑張ってくださいよー。システィ・ラザフォード殿!)


 大ぶりの一撃がシスティを襲う。全く反応できないといった様子で、構えた剣が動き始めたそのころには僕の手が届くところに彼女は立っていた。


 そして僕は彼女の剣を宝石も、彫刻もお構いなしに打ち付けた。間違ってもシスティには当たらないように。


 しかし、システィ自身はそんな事実には気が付くわけもない。たまたまぎりぎり間一髪、剣が間に合ったと思っていることだろう。


 一瞬遅れて後ろに跳ね飛ぶと、息を荒くしてまたも僕を見た。


 そして今度は先ほどのお返しと言わんばかりに、斬撃や突きの嵐を僕に浴びせかかってきた。


 さっきの勝負で見たあの連撃だ。


 あくびの出るような、カタツムリのような、のろまな剣舞。数回避けて切先でシスティの剣の柄を小突いてやった。


 その拍子に手首のバランスを崩したのか、一瞬、システィは剣を手放しそうになった。しかし、何とか持ち直し、再度僕から距離をとる。


 すでに息を乱し、僕は大して攻撃していないのにも関わらず満身創痍を疑うほどである。


 がんばれ、システィ。まだまだ勝負は始まったばかりだぞ。


 別に笑うつもりはないけど、さすがに僕と戦うには実力不足は否めない。


 僕はしばしば自分のことを卑下するが、それでも客観的に見た場合、自分が強者の部類に入ることは自覚していた。成長期をあんな血なまぐさい場所で消化したのだから当然だ。これで弱いままなら逆にびっくりである。


 ただ、システィはそうではないのだろう。おそらく彼女は先の戦場に立っていない。きっと、温室で小奇麗で行儀のいい剣術を教わってきたのだろう。


 エインベルズの地で死線を潜り抜けてきた僕とじゃ話にすらならない。そういう人生を歩んできたのだろう。


 そう考えると、なぜか僕は八つ当たりの一つでもしたくなってきてしまった。


 そして、当てつけのようにシスティの連撃を真似て、やはり剣のみを狙いすまして剣舞を放った。


 真似た、と言っても僕のそれは彼女のそれに対して、早く鋭く、洗練された一点集中の破壊の舞と化していた。


 システィの使う剣術はおそらく、戦場でもよく見た帝国剣術だろう。連中の国では直剣使いはほぼ全員がこの剣術を使う。


 ただ、そのほとんどは形だけの張りぼてのようなもので、全く身になっていない。システィのレベルともなると相当なものだ。


 僕はシスティの剣にわずかな亀裂が入ったことを確認し、剣舞を中断した。


「貴殿、王国の騎士でありながらその技を使うとは……」


 システィは息も絶え絶えになりながらそんなことを口にした。僕が自分と同じ技を使ったことに相当な衝撃を受けているらしい。


「見様見真似です。僕に直剣の使い方を教えてくれた人物はきれいな技はひとつも教えてくれませんでしたから」


 アーギュの剣術はいわゆる我流で、最初はなんでこんなのが強いのか全く理解できなかった。兵団で採用している王国剣術が基本にあるようだが、名前の付くような技はひとつも持ち合わせていない。


 しかし、それ故に戦場で敵を殺すことのみに特化した粗野で完成された剣術であった。いまさらながら、あの剣術に技など必要なかったのだと思う。


 ただ、あいつは教えることに関してはびっくりするほどへたくそだったため、教えてもらったといってもこっちも見様見真似である。


「ならば貴殿の剣術を見せてほしい。自分の技を盗まれて敗れたなど格好がつかんのでな」


「…………」


 システィの問いに対しては沈黙を得ざるほかなかった。


 僕の剣術ねぇ……。そんなのあってないようなもんだしなぁ……。


「行くぞ!」


 僕の沈黙を了承と受け取ったらしく、システィは元気のいい掛け声とともに僕に突進してきた。そして大ぶりな兜割の態勢に入る。


 これはきっと、自分はがら空きである、どこからでもかかってこいというそういう意味であろう。負けるときは潔くというわけだ。


 でも残念。僕は好き好んで女の子を斬りつけるような冷血漢ではない。


 そう心の中で思い、僕はシスティの兜割を剣で受け止めた。そして、受け止める際、先ほど作ったひび割れにあたるように調整した。


 すると案の定、システィの剣は砕け、あまりの出来事にシスティは言葉も出なかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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