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83話 救出

 さて、なんとか最悪の事態を回避することはできた。しかし、この後始末はどうしたものか。


 二人を救うためとはいえ、成り行きで二人が死んでもかまわない、なんて言ってしまった。


 だって仕方がないじゃないか。ただ単純に素人を殴って気絶させるのは相手が十人いようが二十人いようがただの作業であり僕から言わせれば物の数ではない。


 しかし、人質を救うとなるとあの人数の中から二人を助ける確実な方法などあるはずがないのだ。


 だから僕はあんな博打のような真似をして二人に危害が加わらないように願った。非行を繰り返す人間というのは得てして天邪鬼なものである。その性質にかけたのだ。


 結果として二人が助かったからよかったものの、かなり危ない橋を渡ったものだといまさらながらに思う。


 内心、生きた心地がしなかった。


 とはいえ、二人からしたら僕の考えなんて知ったことではないだろうし、そもそも僕のこともクラスは同じだが二人とも僕の名前も性格も知らないだろう。アリーシャに至っては話したこともないから顔すらも知らないかもしれない。


 学園で今後も顔を合わせることになるのだから、誤解くらいは解かなければならないだろう。


 そう思い、僕は何とかアリーシャの手を借りて起き上がった王子のもとに歩み寄った。


 その際、アリーシャはなぜか僕のことを恐ろしいものでも見るかのような視線を向けていたが、この際仕方がるまい。


 僕は王子の前で立ち止まり、跪いた。


「救出が遅れてしまい申し訳ございません。フレデリック殿下。あのような方法でしか殿下をお救いすることができなかったこと、深くお詫び申し上げます」


 突然の態度の豹変に二人はずいぶん驚いていた。しかし、すぐに王子は毅然とした態度で僕を見た。


「いや、気にすることはない。それに、頭を上げてくれ。今回の件は王族でありながら不用意にこのようなところに来てしまった私の失態だ。君は最善を尽くしてくれた。君がいなければ今頃、私も、彼女も無事では済まなかっただろう。それよりも、君は……クラウディウス家の従者、では、ないのだな」


「はい。名乗り遅れてしまい申し訳ございません。私はエインベルズ領にて騎士を拝命しております、ベストール・ウォレンと申します。以後、お見知りおきを」


「……そうか、君がそうだったのか」


 王子は納得したようにそういうと、くたびれたようにその場に座り込んだ。外傷もそうだが、よほど疲れているのだろう。


「ありがとう、本当に助かった」


「感謝する必要ございません。王国に仕えるものとして当然のことですので。ただ、あまりこういうことは言いたくありませんが、遊びもほどほどにしていただかねば、こちらとしても限界がございます。今回はたまたま私の目に止まったからよかったものの、毎回毎回そういうわけにはいかないのです。深くは事情はお尋ねしませんが、これを機に考えを改めることを進言いたします」


「ああ。反省するよ……。でも、ひとつ聞いてもかまわないか?」


「なんでしょうか」


「いつから私が時折街に出ていることを知っていたんだ? 驚く様子もないようだし、元から知っていたのだろう?」


 王子からすればほとんど初対面の僕がこのことを知っているのは確かにおかしな話である。気になるのも無理はない。ここは嘘をついても仕方あるまい。


「殿下がフローレンス嬢と出会ったその日ですよ。あの通りをたまたまエインベルズの馬車が通っていたのです」


「そうか……なら、ニーナ嬢もこのことは知っているのか?」


「あの日、殿下の姿を目にしたのは私のみです。ただ、お嬢様も先ほどお二人の姿を目にしておりますので、隠し通すことは困難かと」


「ほかにはいないのか?」


「公言した覚えはございません」


「……感謝するよ」


 王子はそういうと少しだけ微笑んだ。そして深呼吸を数回して立ち上がった。


「だ、大丈夫ですか!?」


 心配そうにアリーシャが王子を支える。


「ああ、心配しないでくれ。僕は運がいい。骨までは折れてないみたいだからな」


「そ、それでも、ちょっとは安静にしててください!」


 自分もずいぶんな目にあったというのにアリーシャは王子に真摯な表情でそういった。


 きっとアリーシャはなかなかに図太い神経をしているのだろう。強姦未遂を受けて自分よりも他人の心配ができる女性がいったいどれほどいるのだろうか。


 やはり彼女は紛れもなくゲームの主人公、アリーシャ・フローレンスなのだ。原作通り、ちょっと抜けているところもあるが、強い信念を持ち、自分よりも他人を優先できる、そんな強い人物なのだ。


「これからどうなさいますか?」


 一応はバットエンドを回避できたとは言え、まだ油断しきるべきではない。今日一日くらいは様子を見るべきだろう。


 そう思い、僕は二人の動向を尋ねた。


「すこし落ち着いて休めるところに行きたいな。さすがにこんな状態で帰るわけにもいかないし。アリーシャはどこか希望はあるか?」


「いえ、私はとくには……」


 行く当てはとくにないらしい。ならば好都合だ。二人のデートを邪魔するようで悪いが、今日一日は僕の監視下に置かせてもらおう。


「お二人は昼食はもう取られましたか?」


「いや、まだだ」


「ならこれからご一緒にいかがでしょうか。いい場所を知っておりますよ」


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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