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82話 真打登場 その三  (アリーシャ視点

 ここに至るまでに過半数の男が気絶し、あの男性にはかすり傷の一つもついていなかった。


 そして私はようやく理解した。あの人は尋常じゃない。


 フレデリック王子に助けてもらった時、この人はもしかしたら世界で一番強い人なんじゃないかと錯覚したことをよく覚えている。 でも、こんな言い方はとても失礼ではあるけど、あの人は化け物だ。


 まるで格が違う。


 きっと物語なんかで出てくる偉業をなす人物はああいう人がモデルとなっているのだろうと思わせるほどの圧倒的な強さ。それがあの人にはあった。


 はた目から見ていた王子を足蹴にする男も目の前で繰り広げられる惨劇に全くもって理解が追いついておらず、驚きと恐怖が隠し切れないようで表情をゆがめる。


 そこからはモノの数十秒、いや、あるいは数秒だったかもしれないが、男性に襲い掛かった大男たちは全員が例外なく意識を喪失させていた。


「さて、残りはあんた一人か」


 男性は服についたほこりをたたきながらそう言った。男にとってそれはまるで死刑宣告のように聞こえたことだろう。


 言葉を聞いた瞬間、男は変な笑いが込み上げてきたらしく、無理やり笑顔を作って王子を開放すると、男性に歩み寄っていった。


「い、いやあ、お強いんですねぇ。いいもん見せていただきましたよぉー」


 絵にかいたような手のひら返しをする男は実に情けなく、私たちの目に映った。こんな人間にいいようにされていたのだ。なんとも情けない話である。


 しかし、そう思った次の瞬間、


「隙アリぃっ!」


 ナイフを袖に隠していたらしく、男性が手の届く範囲に入った瞬間、男性を切りつけにかかった。


「アホか」


 しかし、男性はそれすらも予測していたのか、あっさりとナイフをよけ男の腕をつかんだ。そして、男の表情が青ざめるのを待たずに、一瞬で腕をひねりこみ、地面に男をひれ伏させた。


「い、いてぇ! いてぇよお! 骨折れた! 助けてくれぇ!」


「最初に言わなかったか。文句は言うなって」


「…………」


 なすすべなく、男は黙り込み、表情を曇らせていった。その際、男は地面にうつむくのではなく、ただじっとあの男性の顔を凝視していた。


「……!! 思い出したぞ! お前、エインベルズの死神か!? 俺も戦に出てたから戦場で見たことがあるぞ!」


 青ざめた表情のまま男は男性に向かってそういった。


 エインベルズの死神。その二つ名は先の戦争で王国に勝利をもたらしたエインベルズ兵団をさして、しばしば用いられる。


 噂話ではあるが、彼らは死をも恐れずに突撃してくる大陸有数の武力兵団で、一人一人が死神のように命を駆り立ててくるという。


 戦争に行っていたお父さんは、あんな連中とは死んでも戦いたくない、帝国の連中のほうがまだかわいいものだ、と帰ってきてから言っていた。


 そして、もう一つ、その二つ名は個人を指して使われる場合がある。それは、若くしてエインベルズ兵団を指揮し、たった一戦で帝国を恐怖させた稀代の英雄。その人以外はあり得ない。


「そのこっぱずかしい二つ名で僕を呼ぶな。フン!」


 男性はずいぶんと辟易とした様子でそういうと男を殴りつけて気絶させた。


 それは同時に、私と王子が無事、とは言い難くとも、何とか生還することができたことを意味していた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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[一言] アリーシャに顔ばれェ……
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