表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/166

48話 今を生きる僕


 拝啓、ニーナ・エインベルズ様。


 別れの日から数えて三度目の冬が訪れました。こちらは相も変わらず血生臭さと男くささで鼻が曲がるような思いをしております。現在、戦況は芳しくなく、十分な物資もなく、悪戦苦闘の日々の連続です。寒々しい空は私共の体を貫くかのような冷気を放ち、敵は我々を貫かんとする槍を振りかざしております。僕自身もいつ死ぬかわからない状況であり、一刻も早くこの戦争が終わることを願うばかりです。


「———って、内容辛気臭すぎか……」


 僕はペンを置き、書きかけの手紙を丸めてゴミ箱に放り込んだ。毎週、ニーナへ宛てる手紙の内容には悩んでいる。できるだけ暗い内容を送りたくないのだ。


 ニーナはニーナなりに僕のことを心配してくれている。あまり不安にさせるようなことを送るのはニーナの精神衛生上、あまりよろしくないのだ。


 結局その日も毎週のように僕は当り障りないことを適当に書き連ねてエインベルズ家へと手紙を送るのであった。


「ふう……」


 砦の仮郵便局に手紙を出し、ため息を一つつく。


 しかし、我ながら面倒くさい約束をしてしまったものである。せめて一か月に一回にしておけばよかったと何度悔やんだことか。毎回違う文章を考えなければならないことをまるで考慮していなかった。


 だってしょうがないじゃん。戦争がこんなに長引くとは思ってなかったんだもん。


 エドモンドさんの口ぶり的にすぐにあっさり王国が負けて運がよかったら戦場に立つ前に帰れるかも、くらいに思ってたし。


「お嬢様への手紙か?」


 一人ため息をついていると後ろから話しかけられた。振り返るとそこにはエドモンドさんが立っていた。


 この人とは必然的に行動時間が長くなるため、かなり早い段階でニーナへの手紙もばれていた。


「団長がこんなとこブラブラしてていいんですか?」

「ちゃんと用があってきてるんだ」


 そう言ってエドモンドさんは一通の手紙をひらひらと僕に見せた。


「どこ宛の手紙ですか?」


「旦那様だよ。物資の減りが思ったよりも早いからな。今はまだ大丈夫だが、じきに足りなくなる」


「そのための嘆願書ですか」


「そういうことだ」


「あんまり大きな声じゃ言えませんね」


「まったくだ」


 戦争が長期化するにつれて状況は緩やかに悪化の一途をたどっている。物資は不足が目立ってくるし、兵士の士気も下がってきている。


 にもかかわらず、帝国は一向に弱っている気配はない。隣の芝生は青い、なんていうが、目に見えてこちらが弱ってきているのは事実だ。


 相変わらず近隣の貴族たちは全く協力的ではないし、エウラス家に至っては敵が潜伏していたというのに知らぬ存ぜぬを貫き通している。


 そのため、またいつぞやの二の舞とならないよう、偵察隊の数は必然的に増やすことになった。


 こちらのそんな状況を知ってか知らずが、帝国軍はちょこちょこ小競り合いを仕掛けては来るものの、鬱陶しい嫌がらせのようにちょっかいをかけてはすぐに撤退していくという、なんとも理解しがたい戦法をとってきていた。


 おそらく、最初の挟み撃ち作戦が失敗したのがきっかけで相当慎重になっているのだろうが、こちらとしては迷惑以外の何物でもない。


 加えて、当初の予定では本軍がこちらに早急に勝利してから駆けつけてくるはずだったというのに、西の本軍からも一向にいい知らせは届かない。この戦争がいったいどのような終着点を迎えるのやら、僕には皆目見当もつかない。


 いい加減、このまま戦っていても勝てるとは思えないし、そろそろ何かしらのアクションを本軍には起こしてほしいのだが、まあ、願うだけ無駄なのだろう。


「今日も連中は動かないつもりなんですかね……」


 僕はエドモンドさんが宛名をかく傍らでぽつりとつぶやいた。


「わからん。だが、ベストール、少しばかり悪い情報も入ってきてる」


「なんですか、それ」


「連中もずいぶん焦ってるらしい。偵察の話では帝都から名うての将軍が率いる部隊が近々こちらに参戦するとのことだ」


「やっと本腰を入れてきたってわけですか。三年間も出し渋ったカードならば、さぞお強いのでしょうね」


「まあ、今までのような小競り合いではすまんだろうな。だが、これは好機だ」


 宛名を書き終え、書状を提出し終えると、エドモンドさんは僕の目を見てずいぶん自信ありげにそう言った。でも、僕にはどういう意味なのかいまいちわかりかねた。


「いや、そんなのに攻め込まれて大丈夫なんですか? 今のとこ、兵の士気はダダ下がり状態ですよ。そのうえ、面倒くさい敵が増えたなんてみんなが知ったら……」


「確かに、お前の言う通りだろう。でもな、おそらく次の総攻撃を俺たちが耐えしのいだなら連中もあきらめていく。俺はそう踏んでるよ」


 そう言い残し、エドモンドさんは僕の肩を叩いてその場を後にした。


 しかし、僕は半信半疑だった。実際、どうなるかはわからない。けど、わざわざ三年も嫌がらせに徹してきた敵がそれくらいで撤退してくれるものなのかと疑わずにはいられなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


ブックマークや、評価していただけると作者のモチベーションにつながります!


よろしくおねがいいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ