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45話 進軍


「ぷっ、お前、後ろから雑用してるだけでよかったんじゃなかったのか?」


 会議での決定をアーギュに伝えると案の除、笑われた。


「まあ、そんな辛気臭い顔すんな。なに、度胸がありゃ殺されることもないだろうよ」


 軽くそういうとアーギュは招集した部隊とともに目的地へと進行を開始した。

心の整理もできないままわけもわからず実践の場に立つことになるなんて、昨日までは想像もしていなかった。


 僕が前線に立つのは戦争に負けそうになったときくらいなものだと高をくくっていたのが神様にばれたのだろう。


 しかし、だからと言ってこの仕打ちはあんまりである。アーギュの率いる六番隊は通称、斬りこみ隊と呼ばれている。もっとも戦場において危険かつ重要な役割を果たす部隊だ。


 そんな部隊に実戦経験皆無のガキを放り込むとか、スパルタ人もびっくりだよ。


 僕は人生の終了をしみじみと悟り、あきらめたようにアーギュの後ろに続いた。すると、そんな僕を見かねてか、アーギュがこちらに話しかけてきた。


「怖いか?」


「そりゃ、心の準備も何もできてないままだし……」


「だろうな。だが、そりゃあ命取りになる。あんまナーバスになんな。気楽に行け」


「無理だよ。こんなこと言うのは、なんていうか、この期に及んで不甲斐ないって思うかもしれないけど、僕は殺すのも殺されるのもごめんだよ」


「俺だってそうさ」


「本当に? 斬り込み隊長がこんなこと言っていいの?」


「俺は殺人鬼じゃねぇんだ。当たり前だろう」


「じゃ、なんで兵士なんてやってるのさ」


 僕がそう言うとアーギュは自分の剣を引き抜いた。


「俺は物心ついたころからこいつを握ってた。顔も覚えてねぇ親父も、その親父も、そうやって生きてきたんだ。おまんま食べるためにはきれいごとなんざ何の役にも立たんのさ」


 アーギュの出自について語られた時、ずいぶんと不憫な話だとは思ったが、それ以上は特に何も思わなかった。別にアーギュのような人間は少なくないのだ。特に、職業軍人の集まりなんて、そんな輩は多い。


 人並みの幸せが得られる環境に育った僕には知る由もないことなのだ。


「ほかの生き方をしようとは思わなかったの?」


「思わねぇわけねぇだろう。でもまあ、結局最後はこいつが俺には一番なんだって結論になる。これ以外のことをしたことがないからな。学もなけりゃ一発逆転のアイディアもない。俺はそういう人間なんだってしみじみ思うよ」


「ふうん……」


 相槌を打ち、僕はそういうものなのかと適当に結論づけた。


 ただ、自分の考え方に少しでも共感してくれる人間が近くにいることが、少しだけ心の負担を減らした。


 自分の考えは間違っていないのだ。誰だって、好き好んで人殺しをしているわけではないのだ。そう、自分自身に言い聞かせた。


「そろそろだ。いったん止まれ!」


 一行が森に入ると、進軍をとめ、偵察を出す。そして、それほど時間を置くことなく偵察部隊は戻ってきた。


 聞くところによると、やはりこの近くに帝国軍が潜んでいるということだった。五千人規模の敵兵が侵入していることに気づくのがこんな直前というのは何とも情けない話である。


 僕のみならず、その場にいる大半が無駄に広大なこの森を恨んだ。


 偵察部隊の帰還と同時に各兵士たちはそれぞれが息をひそめ、それぞれの持ち場についた。じっと息を殺し、敵の通りかかるであろうルートに待ち伏せするのだ。


 寒空の元、体の震えを抑え込む。しかしやはり、僕の思考は寒さによる体温の低下などよりも、これから自分がするであろう行為に対する嫌悪が大半を占めていた。


 これから僕は人を殺すのだ。それはきっと、実際にこの場にいなければ何物にも想像しえないどす黒い何かなのだ。


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