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30話 第一回エリザベート対策会議

「エリザベートが来るわ」


 しばらく歩くと、初めにあったあのベンチの近くで、冷ややかにニーナはそういった。


「ああ、うん」


「ああ、うん、……じゃないわよ! あなただってクラウディウス家にいたんだから知ってるでしょう! あの女は化け物よ!」


「えらい言いようだな……。聞かなかったことにしとくから、その辺にしとけ。あんなのでも侯爵令嬢だぞ」


「あなたも相当ひどいこと言ってるって自覚してる?」


 ニーナは疲れたようにそう言うと乱暴にベンチに座り込んだ。もはや、僕の前では令嬢らしいふるまいなど欠片もありはしない。


「で、僕にどうしろってのさ」


「何とかしてあの女との縁を切りたいのだけど、何かいい方法はないかしら」


「ぶん殴ってやれば向こうから逃げてくんじゃないの」


「そんなことしたら家がどうなるかわかったもんじゃないわよ。まじめに考えて。あの女の嫌悪レベルは出会った当初のカレンの比じゃないんだから」


「そんなにか……」


 エリザベートよ、いったい何をしたんだ?


 カレンでもニーナに嫌われきるまでに数週間はかかっていた。それを一日で限界すれすれまで持ち上げるとは、恐るべし。


「そんなによ。ほめるところが一ミリもない人間なんて世界中探したってあの女くらいなんじゃない。プライド高い、性格悪い、致命的にセンスがない。おまけに大食漢。自分で言ってて信じられないけど、ほんと、絵にかいたような悪女よね……」


「あははは……」


 全く否定ができなかった。寸分たがわずニーナ言葉は正しい。


「とにかく、あの女とは早々に縁を切っておきたいの! でないと、王都の学園に行ったときに取り巻きにされちゃう」


「あーまあ、うん。そりゃ、確かにいやだなぁ……」


「でしょう!」


 作中でもニーナは陰でエリザベートを操ってはいたが、表向きは取り巻きの一人という位置づけだった。


 それに、バカなエリザベートのせいで予期せぬトラブルに巻き込まれることもしばしばあった。


 そう考えると確かにエリザベートとの縁を早々に切りたいと願うのは当然だろう。というか、僕としてもできるだけエリザベートとの縁は切っておいてほしい。


 今のニーナがエリザベートによからぬことをさせるとは思いたくないが、将来的にどうなるかなんて誰にも分らない。できる限り早い段階で芽は摘んでおくべきだろう。


「何か策はあんの?」


「あなたがあの女に何でもいいから失礼なことしてよ。そしたらクラウディウス家のほうからこれからの交流を断ってくるはずよ」


 ただの無茶ぶりじゃねぇか。それは策とは言わない。


「いや、それだと僕の立場はどうなんのさ……。せっかく騎士になれそうだってのに、それじゃ平民に逆戻り……」


「いいじゃない。むしろ、戦争に出なくて済むんだから。あなたはあなたで何か別のもので生計を立てればいいのよ」


「あのなぁ……。戦争になったら騎士じゃなくても普通に働き盛りの男なら徴兵されるんだよ。大体、その作戦じゃクラウディウス家は縁を切ってこないぞ」


「? なんでよ」


「あそこの奥方は聡明な方でな。娘のためなら少しくらいは手荒なことをしても目をつぶってくださる。僕も相当、エリザベートに失礼なことをしてきたけど、一回も咎められたことなんてなかったぞ」


「う、そう……。ん? あなた、あの女と話したことあるの?」


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