29話 戦争の影と手紙
「ここをこうしてだなぁ……」
「それじゃ、強度が怖いなぁ。やっぱこっちを……」
姉妹喧嘩から数週間。
僕は週に一回、鍛冶屋で鉄砲の設計図作成に注力していた。しょせん僕の知識はネットでかじった程度のものであって、正確な構造を聞かれても詳しくは答えられない。
そのため、今もこうして鍛冶屋の店主と眉をひそめていた。ただ、ある程度のアイディアはあるため、設計図はほぼ完成段階である。
「ずいぶん形になってきたな」
「だね。製作はどのくらいかかりそう?」
「三か月から四か月は最低でも欲しいとこだな。俺もこればっかに時間を割いてられるわけじゃない。最近デカい仕事も入ってきたしな」
「へえ。デカい仕事って?」
鍛冶屋に通い詰めているとさすがに店主とも仲良くなる。そのため、少しくらいなら込み入った話もしてくれるようになっていた。
「お前みたいなガキには、まだ話は回ってないか」
「? どういうことさ」
「まあ、お前もあの家の人間だし、言っても問題はないか……。ほかには言うんじゃねぇぞ。エインベルズ家から大量の武器の発注が来たんだよ。なんでも、帝国の動きが最近気になるんだとよ」
「マジ?」
「おうとも」
初耳である。
帝国とは昔から仲が悪く、何度もこの国とは戦争をしている。騎士となる以上、いつかは戦場に立つ日がくるとはわかっていたが、できれば勘弁してほしいものである。
というか、僕は前線に立つことになるのか? まだペイジだし、後ろのほうで見学とかでもいいのかな?
まあ、希望的に考えるのは危険だ。貧困層の子供が前線で戦って命を落とすなんて話は別に珍しくはない。僕も覚悟はしておくべきだろう。
しかし、戦争か……。本編以前のことは妹からも特に聞いていないから、いつ起こるのかわからん。
クソッ。恥ずかしがらずにプレイしときゃよかった……。
妹の前でどうどうと乙女ゲームをプレイするのは兄としてのプライドが許さなかった。
「どうかしたのか?」
「い、いや、なんでもない。まあ、それならぼちぼち鉄砲のほうも頼むよ。さ、今日中に設計図は完成させよう」
ごまかすように僕は設計図をもう一度いちから目を通し、なんとかその日のうちに設計図を完成させた。
結局その日は夕暮れ時まで屋敷に帰ることはなかった。
「おーい、ベストール!」
屋敷の門をくぐるといきなり遠くからエドモンドさんが手を振ってこっちに走ってきた。
「どうかしましたか?」
「ああ、昼頃、これが届いてな」
僕がエドモンドさんに歩み寄ると手紙を差し出された。
「手紙ですか。差出人は……エレノア様!?」
すぐさま中身を確認すると、近々エインベルズ家を訪問するというものだった。その中には父さんも含まれるらしい。
日本の青年だったころの記憶を持っているとはいえ、僕は基本的にこの世界で生まれたベストールという少年である。
久しぶりの父親との再会に、柄にもなく僕は興奮していた。
「なにかいいことでも書いてたのか?」
「え?」
「顔にでてるぞ」
「す、すみません。忘れてください」
無性に恥ずかしくなり、僕は手紙を懐にしまった。そして手紙の内容を話すと、エドモンドさんは快くクラウディウス家の訪問期間を休日にしてくれた。
僕は御礼を言ってエドモンドさんと一緒に宿舎に向かった。その途中のことだった。
「あれ、ニーナお嬢様じゃないか?」
僕がニヤけていると唐突にエドモンドさんが口を開いた。
言葉の通り、前方にはなぜかげっそりとした顔のニーナが歩いていた。
「具合でも悪いんだろうか? ベストール、何か聞いてるか?」
「いえ……」
僕らが遠くで会話しているとニーナもこちらを見つけてなぜかトコトコとこちらに向かってきた。
……嫌な予感。
「ちょっと来て」
「え、ちょ!」
ニーナはこちらに来るなり僕の襟をつかんで返事など聞かずに僕を引っ張って歩いて行ってしまった。
エドモンドさんがわけもわからず間抜けな顔をしているのをしり目に僕はニーナに引きずられていくのであった。
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