108話 突然の来訪者 その2
「さて、これでここには私と殿下のみということになりましたね」
「……」
皇子は様子見でもするつもりなのか、黙り込み、まるで口を開く気配はなかった。困るんだよなぁ……。こういう沈黙が一番つらい。
「まあ、そうですね……これは独り言だとでも思っていただければいいのですが、ここから先は何があろうとも私と殿下しかあずかり知らぬこと、ということになりますね」
「……」
僕がそう口にすると皇子はずいぶんと懐疑気な表情を浮かべた。前にニーナに教えてもらったが、こういう表情をする人間はたいていの場合、僕のことが腹黒い化け物にでも見えているらしい。
その気持ちはわからないではないが、実のところは何にも考えてないんだよなぁ……。
どうにか手っ取り早く本心で話してもらえないものだろうか。いや、僕のことを信用していないうちは無理か。
ならば……!
「殿下。殿下が私のことをどのように思われているのか、正確なところそれは私にはわかりかねますが、一つ申し上げるとすれば、信用のおけない人間を部下に置こうなどとは考えるべきではないでしょうね。いつ寝首を掻かれるとも限りませんから」
「…………」
僕がそう言うと皇子は僕から視線をそらした。十中八九僕の言っていたことが当たっているのだろう。というか、僕のことを信用しているのなら逆に怖い。何故、僕みたいな人間を信用できるというか。そうだったら帝国の皇子として危機感がなさすぎる。
「……助けてほしい」
皇子は少し考え事をした後、深いため息をつきそういった。
「?」
「俺が生きていくにはお前の力が必要なんだ」
「??????」
唐突な皇子の発言に僕は表情こそ変えなかったものの、内心はクエスチョンマークに埋め尽くされた。
予想以上に壮大な問題に自分は巻き込まれてしあっているのかもしれない。
それから皇子は聞いてもいないのにべらべらと身の上話を話し始めた。
皇子は幼いころから思ったことをすぐに口に出してしまう癖があったのだという。そして、その思ったことというのも大抵は相手に対して不利に働くような事象である場合が多く、たくさんの人間を不快にさせてきたらしい。
これについては僕も心当たりがある、システィとの決闘がそうだ。おそらく、この皇子は物事の本質を見ぬことに本人も気づいていないがかなりの才覚を持っているのだろう。
そして、それが災いし、現皇帝である父親やほかの兄弟たちからも煙たがられているらしい。今回の留学というか、人質に皇子が選ばれたのもそれ原因らしい。
そして、帝国は次の戦争の際、必ず人質であるヘンリー皇子を切り捨てる。そうならないためにも皇子は自分が帝国にとって価値のある人間である必要があるのだ。
そのための僕らしい。
僕という人間の今までの功績を鑑みれば十二分に帝国の脅威となりえる。そして、実際の決闘を目にして噂通りの人物であると確信したらしい。
そんな人物を部下に置くことができれば帝国もヘンリー皇子を無碍に扱うことはできない。つまりは僕という人間の名のもとに保護されることを願っているのだ。
「……以上だ」
すべてを話し終えたヘンリー皇子は何とも悲壮な顔をしており、無力な自分を嘆いているように見えた。
「……」
話を聞いた感想としては、正直に語りすぎだと思った。いっそのこと、この皇子は馬鹿なのではないかとも思った。むしろ、これは表向きの理由で裏にもっと別の目的があるのではないかとも思えた。しかし、そのようなそぶりは見えなかったため、そうだとすれば相当な策士である。
この皇子はいい意味でも悪い意味でも素直すぎるのだ。これでは国で煙たがられるのも無理はない。
上から目線の高飛車な態度に加えて、言われたくないことを包み隠さずピンポイントに告げてくる。こりゃ友達いないだろうなぁ。
まったく、面倒なのに目をつけられてしまったものである。しかし、こうやって自分を頼ってこられては無碍にすることもできない。
どうしようもないことに僕は同情してしまったのだ。お人よしだの、偽善だのと言われようともそう思ってしまった以上はどうしようもない。
しかし、自分に害が及ばない手段をとる必要がある。
「……殿下が意を決してお話になった以上、私もできる限り真摯にお応えしたいと思います」
「そ、そうか!」
「ですが、私は殿下の部下にはなれません」
「な、それでは困るとあれほど……!」
「一つ、お聞きしたいのですが、別にそれ、私じゃなくてもかまいませんよね?」
僕は皇子の言葉を遮るようにそう告げると、皇子は言葉に詰まった。
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