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103話 鍛練 その四

「……来い!」


 僕がそう叫ぶと同時に、システィは言葉にならない悲鳴にも似た叫びをあげながら僕に襲い掛かってきた。それを一つ一つ丁寧に僕は避けていった。


 動きに迷いがある。まだ戸惑っているのだ。これでは授業の時の決闘のほうがよほどましである。


「脇を占めろ! 地面から足を離すな!」


 僕のダメ出しを聞き、涙や鼻水をまき散らしながら瞬時にシスティはそれらを修正して見せた。それとともに明らかに技の精度が増した。


「剣に振り回されるな! 敵の一挙手一投足、何一つ見逃すな!」


 その言葉とともに、より一層、システィの動きは精度を増していく。


 時折、涙や鼻水がまき散らされたものが僕に降りかかるのだが、そんなものは気にならなった。返り血よりは何倍もマシである。


「そんなもんじゃ、自分の首を斬られておしまいだぞ! 丸腰の相手に手間取るな!」


 僕の怒号一つに付き、システィの動きの精度は二次関数的に飛躍していった。そしてついに、僕は自分の剣を抜かざるを得ないほどにシスティに追い込まれていった。


 しかし、システィはそんなものには全く動じることなく、純粋に僕を殺しにかかってきた。ほかの邪念は一切ない。


 ただ、単純に、純粋に、従順に僕の言葉に従い、僕を殺しに来る。


 授業で戦った時のシスティよりも明らかに手ごわかった。


 もはや、戸惑いは吹っ切れ、それ以外のことを彼女が考えはしないだろう。


 そして、ついに僕はシスティに反撃の一撃を与えることとなった。手加減なしの斜め斬り。それをシスティは間一髪で受け止めた。


 剣の接触部分から、システィの力が伝わってくる。必死に押し返そうともがいているのだ。


「どうした! その程度でこのベストール・ウォレンの首が取れると思っているのか! 全神経を注ぎ込め!」


「!」


「腕だけで押すな! 全身の筋線維一本たりとも無駄にするな!」


「———!」


 うめき声のような、鳴き叫ぶような、そんな声とともにシスティはじりじりと僕の剣を押し返していった。


 どんどん無駄なものがそぎ落とされ、洗練されていくそのさまが僕には手に取るように分かった。


 そしてついに、システィは僕の剣を押し返した。それとともに、声帯を壊さんばかりの叫びをあげ、僕の首を斬りかかってくる。しかし、まだ僕の対応できる範疇を超えることはしなかった。


「まだまだこんなものではないだろう! こんなものでは」


「———!」


 その言葉がトリガーとなったのか、システィは歯を食いしばり、うめき声のような咆哮をあげ、乱雑な、しかし、敵を殺すために的確な無数の斬撃を浴びせかかってきた。


 これはさすがに僕もさばききるのは至難の業である。


「そうだ! ほかのことは何も考えるな! この首だけを追いかけて見せろ!」


「———!」


 そこから僕は一言も言葉を発しなかった。否、発する余裕はなかった。


 それだけ、システィ・ラザフォードという剣士は強敵であり、称賛に値するものであったのだ。


 一撃一撃、速さを増し、突きを防いだかと思えば一呼吸の間も置かずに斜め下からの斬撃が飛んでくる。


 それを躱したと思えば今度は一直線に首を切断しにかかってくる。


 まさに死闘。


 しかし、それだけの攻撃を躱し、受け流すを繰り返すとともに、僕の脳裏に先の戦場における数々の修羅場を思い出すこととなった。


 そして次第にシスティの動きにも慣れてくるのだ。


 あの時に比べれば、そういう思いがふつふつと湧き上がってくるのだ。


「どうした! その程度ではないだろう! 動きが鈍くなってるぞ!」


 当然、システィの動きが鈍くなるなど、そんなことはありはしない。


 しかし、僕に話す余裕が生まれてくるとは、相対的に見て、僕とシスティの実力にまたも差が開き始めているということを意味しているのだ。


 相変わらず、システィは嗚咽を混じりの叫びを垂れ流し、僕に斬りかかってきた。しかし、そこから僕とシスティの差が縮まることはなかった。


 逆に、動きに対応していく僕の体はどんどん精度を増し、システィは体力の限界なのか、どんどん動きが鈍りだした。


 そして次第にシスティは息を切らし、全身にうまく力が入らなくなっていた。しかし、殺意を忘れることなく剣を構え続けた。唾液以外の液を垂れ流していた。


「それで終わりか! この首はまだつながっているぞ!」


 僕がそういうと、最後の力を振り絞ってシスティは僕の首を貫きにかかった。


「———!」


 しかし、それが僕を貫くことはなった。


「何を……!」


 システィのぼろぼろの刃を僕は自らの腕で受け止めた。それは骨にあたり、刃が欠けていたのが幸いしてか、貫通することはなかった。しかし、血は出る。


 その血を目にしてシスティは我に返ったのだ。


「お前は強い」


「…………」


 そういうとシスティは静かに剣を引き抜き、力なく建物が倒壊するようにその場に拉げこんだ。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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