100話 鍛練
「鍛練ですか」
「ああ……もっとも、貴殿からすればただのお遊びだろうが」
システィはずいぶんと自信を消失しているようだった。どうも、剣のほかにも僕は彼女のプライドも砕いていたらしい。
無理もない話である。きっと、自分の剣術にシスティはかなりの自信を持っていたに違いない。それをあのような形で僕が踏みにじったのだから、状況が状況でなければ文句の一つも言いたくなったことだろう。
だが、システィ個人は皇子の護衛という立場であるためそんなことは許されない。一人、ずたずたのプライドを抱えるのみなのだ。
さすがにこれは僕もかわいそうに思えてきた。自分が原因ということもあって、さすがに後味が悪い。いまさらながら、ずいぶんと大人気ないことをしたものである。
「その、そこにいるのはまさかとは思うが、ガーラン殿下……ではないか?」
「ええ。少しお疲れのようですから。少しお休みになられてるんですお気になさらず」
「そ、そうか」
システィは動揺しながらもあまり深くかかわっていいことでもないだろう判断し、それ以上このことに関して言及してこようとはいなかった。僕にとってはありがたい限りである。
そしてシスティは深呼吸をすると、まるで僕らはいないものであるかのように鍛練を始めるのであった。
ふと、システィのもつ直剣に目をやると、それは粗野で一般的な直剣だった。少し罪悪感を持ってしまう。
「さすがにそんなにじろじろ見られてはやりにくいんだが……」
すると、迷惑そうにシスティはそう言った。さすが我ながらにデリカシーがなさ過ぎた。
「すみません。少しだけ剣が気になったものですから」
「ああ……あの剣のことは気にしないでいただきたい。あれは私の未熟が招いた結果だ。貴殿が気にする必要はない」
そういうと、システィは再度、鍛練に入りなおした。それからしばらくの間、黙々とシスティは鍛練を続けていた。僕も僕でシスティを気にするのは失礼だと思い、視線を移さないように努め、王子の見張りを続けた。
すると、音が止んだ。もう鍛練を終えたのだろうかとシスティに視線を向けた。
すると、なぜかシスティは泣いていた。
理由はわからない。しかし、事実として彼女は大粒の涙を流し、声を殺して泣いていた。
さすがに状況が呑み込めない。
「ど、どうかなさったんですか」
そう言いながら僕はその場から立ち上がった。
さすがにこれに声をかけないわけにもいかない。正直なことを言うと、唐突に泣き出すような面倒極まりない女に声をかけたいとは思わないが、この場にいる以上は僕が原因ということも考えられる。
それに、同じクラスにいる以上、システィを放置するのはさすがに気分が悪い。
「いや、気にしないでくれ……」
そう言ってシスティは僕が近づいてくるのを制止した。泣き顔を近くで見られたくないのだろうか。とっさに僕から顔をそむけた。
しかし、この状況で、はいそうですか、と放置するわけにもいかない。知り合いとしてしつこいと思われようとも声をかけるべきだろう。
「見た以上は気にしないわけにもいきませんよ。悩み事なら相談に乗りますよ。それとも、原因は私ですか」
「いや、貴殿は何も、本当に、何も悪くない。本当にこれは私個人のものなんだ……」
嗚咽交じりにそういうシスティは何とも痛ましかった。そんな姿を見せられてはますます放置するわけにはいかない。
何か気の利いた話の一つでもできればいいのだが、あいにく僕にそんな真似はできない。
仕方ない、あまりいい方法ではないが、僕なりの方法でやらせてもらうとしよう。
「ラザフォード殿個人のものですか。では、毎晩ここでそのようになされているのですか?」
「いや……」
「なら原因は直近のものですね。例えば、どこぞの平民上がりにコケにされたとか」
「…………」
「それともご自慢の直剣を折られた、とかでしょうか」
「…………」
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