ロープウェイ
なし
3次会に東京組に
だいぶさそわれたが
それを仕事のせいにして固辞して
新潟駅まで
さちの旦那様に送ってもらった
ハンサムなイケメン
さちが好きそうなタイプ
男の好みも昔とまったく
かわっていない
さちはあれこれ
せんさくされるのが
いやらしく
すかさず先輩の話を
してくる
「先輩、宮沢先輩が独身だって
聞いて私大連の中でも
美男子で独身を集めたぞおって
私には言ってたんですけど
いい人はいなかったですか?」
「ぜったい、朋子なら
もてるから東京に帰ってから
続くといいなあ、先輩そう言ってましたよ」
「宮沢先輩、誰かと携帯の番号交換しました?」
私が力なく首をふると
別な話題に
「そうそう最後に
先輩この間
昔の友だちとT岳に登った
みたいですよ
あの解放感はたまらない
そう何回も言っていましたよ
そしてあげくには
同じ新潟なんだから
さちもこんど
一緒に登ろうと誘われましたよ
わたしは愛する旦那様がいるんですけどね」
「でも先輩も年を取ったのかな
俺は
ロープウェイを使ったけど
さちなら
ふもとの土合とか
JRの駅からどんどん歩けるだろ
まあ、おれも
年をとったわ
ワンゲルなのにロープウェイを使うとは
昔なら考えられないなあって
嘆いていましたよ。
でも先輩誰といったんでしょうね」
さちの先輩談義は
続いていたけれど
そういえば
先輩ともT岳の話をしたけれど
誰かと一緒に行ったとも
一言も先輩は
言っていなかった
なぜだろうか
そんな疑問が横を
流れる川になぜか浮かんでは
沈んでいく
そして
さちが一方的に
話している間に
車は万代橋をこえ
中心街に
あっという間に
新潟駅に着いた
ホームまで見送ると言って
きかないさちを無理やり車に押し込んで
旦那様にお願いして
私は新幹線ホームに急いだ
やっと乗り込んだ新幹線
私は指定席に座るや
今までの疲れがでたのかいつの間にか
眠ってしまった
室井洋子がやってくる
お盆明けの洋子は
なんだかやけに疲れていて
私にいつものように
ハイタッチしようとして
私の首に手がのびる
そして
なんだかすごい形相で
首をしめんばかりの怒気迫る顔
その形相に
なんのことかわからなくて
私は声もでない
そこで
はっと目が覚めた
ちょうどながいトンネルをぬけたところだった
冷房が効いている車内で
冷汗がとまらない
私があわてているところで
列車は音もなく
駅についた
お盆明けの出社はいつもどおりだった
休んだ分事務仕事は
いつも以上にたまっており
その処理に追われて
幾日かすぎた
そして、事務がひと段落
ついたのを見計らって
室井洋子にケーキバイキングに
誘われた
疲れた体に甘いもの
終業後とてもおいしいケーキバイキングに
感心しながらも
洋子が提案してくれた
私たちが登る山はT岳だった
なし