第一話
「オレはおもしれー女には絶対ときめかねえ」
学校一のイケメン池田くんが、突然そんなことを言ってきた。
池田くんとは小・中・高とずっと一緒の腐れ縁だ。
平々凡々な僕とは違い、池田くんは小学校の時からものすごくモテていた。
さらっとした黒髪に端正なマスク。
整った眉にキリッとした瞳。
艶かしい姿は男の僕から見てもドキッとしてしまう。
そんな池田くんは誰とも付き合ったことがない。
中学生の頃は冗談抜きで全校生徒から告白されたんじゃないかと思えるくらい毎日ラブレターが下駄箱に入っていたものの、池田くんは気にもとめてなかった。
絶対に成功しないと言うことで女子の間では「記念告白」「ウソ告罰ゲーム」なんてイベントが流行っていたとかいないとか。
そんな池田くんと同じ高校に入学し、同じ通学路を歩くことになったわけだけど、高校に入ってからも池田くんのモテ伝説は続いていた。
昨日なんて校内一の美少女と噂に名高い3年生の女子に告白されていたらしいが、今日僕と一緒に登校してる時点で池田くんがなんて返事したかは想像に難くない。
そんな池田くんがいきなり
「オレはおもしれー女には絶対ときめかねえ」
なんて言うもんだから、何事かと思ってしまった。
「どうしたの? 突然」
「オレはな、おもしれー女には絶対ときめかねえぞ!」
「会話に脈絡がなさすぎて怖いんですけど!?」
聞くところによると、池田くんはふたつ下の妹から
「お兄ちゃんっておもしれー女にときめくキャラみたいだね」
と言われたらしい。
要するに少女マンガにありがちなモブ女主人公を好きになる王子様キャラだと言いたかったわけだ。
でも池田くんはそんな妹の言葉を真っ向から否定した。
「女に興味のねえオレが、なんでおもしれー女にときめくんだよ」
「その言葉がすでにときめきフラグビンビンじゃん」
「バカ言うな! このオレがおもしれー女にときめくわけねえだろ!」
ということで、今朝のセリフが出てきたというわけだ。
「北川ならわかるだろ? オレ別におもしれー女に1ミリも興味ねえよ?」
「いやぁ、案外妹ちゃんの予言は合ってるかもしれないね」
「は? ねーわ! 絶対ねーわ! 仮に女にときめくにしても、相手はおもしれー女じゃねえわ!」
「っていうか、池田くんっておもしれー女の定義わかってる?」
「おもしれーからおもしれー女なんだろ?」
それだと女芸人すべて(一部除く)がおもしれー女になってしまう。
「うーん、僕もよくわかってないけど、たぶん常識外れな女の子のことをおもしれー女って言うんだと思うよ?」
「なんだそれ。だったら余計ときめかねえよ。誓ってもいい。オレは絶対おもしれー女にはときめかねえ」
そんな他愛もない会話を繰り広げていると、「遅刻、遅刻~!」と猛ダッシュで走ってくる女の子に出くわした。
どうやらよほど急いでるようで、食パンを口に挟みながら爆走している。
……いまどきいるんだ、ああいう子。
女の子は僕らの前に飛び出ると、イケメン池田くんに思いきりぶつかった。
「ぬおっ!?」
「げふん!」
マンガで言うなら「バッタンコ」という表現がぴったりな感じで二人は倒れ込んだ。
「だ、大丈夫?」
どちらに手を差し伸べればいいか迷ったけど、とりあえず池田くんを抱え起こす。
幸いケガはないようだ。
すると池田くんは「あいたたた」とお尻をおさえながら「どこ見て走ってんだ、てめえ!」と叫んだ。
「あたたたた……」
池田くんにぶつかった女の子は前髪パッツンのおかっぱ頭で、失礼ながらどことなく金太郎に似ている子だった。
着ている制服は、近くの名門女学園のものだ。
ってことは、かなりのお嬢様なのか?
そんな彼女は池田くんを見るなり言った。
「ちょっと、危ないじゃない! どこ見て歩いてるのよ!」
ええー……。
予想の斜め上のセリフを吐かれて呆然となる。
普通に前を向いて歩いてましたけど……。
周囲に気をつけて歩いてましたけど……。
なんなら、この子が爆走してるのを正面から見てましたけど……。
なんて思ってると、女の子は道ばたに落ちた食パンを見つけて悲鳴をあげた。
「ああ、私の食パンが……! 大事な栄養源が……!」
そう言って女の子は食パンを拾い上げ、フーフーしながらまた口に入れた。
ええー…………。
落ちた食パンをまた口に入れるなんて、若干引く。
「今日は急いでるから許してあげるわ。ほれじゃ!」
サッと手を上げると、女の子はまた土煙をあげて走り去って行った。
一瞬で見えなくなるほどの速さ。
陸上選手か何かなんだろうか。
「……な、なんだったんだろう。あの子」
呆然とたたずむ僕に、池田くんは言った。
「さあ。でもおもしれー女だったな」
……不穏な空気が流れた。




