第4話『リリー、初めての嫉妬? 陛下が女官と話していただけで超機嫌悪いです』
朝の光が差し込む謁見の間。
私は今日、授業の後に城へ呼ばれていた。
最近では、カイゼルのそばで公務補佐の真似事をするのが日課になっていて、側近や文官の人たちとも顔見知りになってきた。
けれど――今日は、違った。
「陛下、こちらの書類に――」
声をかけようとして、私は足を止めた。
カイゼルの隣に、一人の女官がいた。
すらりと背が高く、淡い桃色の髪を編んでまとめた、大人びた美人。
カイゼルのすぐ横で笑いながら、何やら親しげに話しかけている。
しかも……距離が近い。近い。めちゃくちゃ近い。
「……あれ?」
胸の奥が、つんと痛んだ。
よく見れば、その女官は陛下の袖を軽く引いて、書類を覗き込んで――
まるで“恋人”みたいに、自然に寄り添っていた。
「……なに、あれ」
知らないうちに、声にトゲが混じっていた。
◇ ◇ ◇
数分後、いつもどおり仕事を始めたものの、私の機嫌は急降下していた。
「リリー?さっきから返事がないが」
「返事? してますけど?(※してない)」
「……顔が不機嫌なのは、どうした」
「別に?(※めっちゃ不機嫌)」
カイゼルが目を細めて、私の隣に腰を下ろす。
「……もしかして、嫉妬したのか?」
「し、してません!!(※盛大にしてる)」
「……あの女官と親しげに話していたのが気に入らなかった?」
「だから、別に! そんなこと気にするような、ちっちゃい女じゃないし!」
「……」
じっと見つめられて、私はつい、ぷいっと顔を背ける。
ああもう、なんでこんな気持ちになるの。
見た目は幼女、心は元成人女性の私が……本気で、嫉妬してるなんて……!
「……あの女官は、王弟付きの職員だ。職務上、今日だけ俺の補佐に回されていただけだ」
「……うん」
「それに――俺が触れたいのは、お前だけだ。
見つめたいのも、笑わせたいのも、泣かせたいのも、すべてリリーだけだ」
「……!」
耳まで真っ赤になる。そんな、さらっと凄いこと言わないでください……!!
「嫉妬、悪くなかった」
「へ?」
「……もっと可愛くて、意地っ張りで、俺を意識しているお前が見られるなら――少しなら、嫉妬させてもいいかもしれない」
「……っ、意地悪!!」
思わずクッションで殴った。
でも、笑ってそれを受け止めるカイゼルを見て――
ああ、この人が好きだって、思ってしまった。




