第5話『皇帝陛下、婚約発表!?でも本人は「まだ足りない」とおっしゃってます!』
「……はいぃ!? 今、なんとおっしゃいました!?」
「婚約だ。帝国中に正式に発表する」
カイゼルは、私の前でいつもの無表情……いや、よく見るとほんのり口角が上がっている。満足げな悪い顔だ。
「いや、ちょっ、え、まって、心の準備が――!?」
「心の準備なら、俺が毎晩でも手伝ってやろう」
「せめて言い回しを考えてからにして!!」
◇ ◇ ◇
ことの始まりは数日前。
カイゼルが何気なく「そろそろ婚約の儀を整えるか」と言いだしたのがすべての発端だった。
「まだ私、子供なんですけど……!」
「なら、成人するまで俺が傍でしっかり育てるだけだ」
「そういう問題じゃない!」
「むしろ問題がない。何か異論が?」
「めちゃくちゃ異論ある! ていうか私の気持ちは!? ねえ聞いてます!? カイゼー―」
「リリー」
「……な、なに?」
「今さら、離すと思うのか?」
……はい、完敗です。
あの目で見つめられて、「お前は俺のすべてだ」なんて言われたら、何も言えない。
でも!!
「せめて、少しずつ慣れさせてください……」
「ではまず、触れ合うところから始めようか?」
「“触れ合い”がもう怖いんですよこの人は!!」
◇ ◇ ◇
そして今日。
帝国中に、皇帝陛下が“婚約者を得た”という発表がなされた。
それはもう、とんでもない騒ぎになった。
宮廷ではざわつき、国民は興奮し、貴族たちは泡を吹いた。
しかも、発表内容がこうだった。
『皇帝カイゼル=ヴァルフレイムは、魔術師リリー=ノクターナ嬢との婚約を公にした。
ただし、現在はまだノクターナ嬢が未成熟であるため、婚約関係は“独占的保護”として明記し、今後正式な結婚を前提とした関係であることをここに示す。』
……独占的保護ってなに? それってつまり、**“俺のもんだから誰も手出すな”**っていう、宣戦布告じゃないですか!!
◇ ◇ ◇
(夜。皇帝の執務室)
「……というわけで、私は今、婚約者としてお世話になってるらしいですよ?」
「世話しているつもりはない。リリーは俺の妻になる予定の者だ。むしろ俺の方が求めている」
「……なんでこんなに、愛し方が全力なの?」
「好きな女に対して、手を抜く理由があるか?」
「ぐっ……正論」
そう言いながら、カイゼルは私の頬にそっと触れる。
「口づけていいか?」
「……そ、それ聞いてくれるだけ、ありがたいです」
「答えは?」
「い、いいです……」
そして彼は、すっと顔を近づけて――
私の唇に、優しく、けれど逃げられないような深いキスを落とした。
「……ふっ、ん……」
呼吸が奪われて、思考が止まる。
でも、不思議と怖くはない。
「もっと、リリーが俺を望んでくれるまで……俺は、待たないぞ」
「そ、そこは“待つ”って言うところ........っ!」
それでも――
私は、彼に触れられるたびに、
心の奥が、あたたかくなっていくのを感じていた。




