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VRゲームで歩む最強への道  作者: 仮面色
1章 始まり
2/40

02戦目 リンクスタート

5話くらいは毎日更新します!




「なぁ、もう戦うのやめないか?」



 俺の言葉に全員が振り向いた。みんながみんな不思議そうな顔をして、こちらを見つめている。疲弊はしてるものの、その目には光が灯っている。



「突然何を言い出すのさ」

「そうよ、おかしなこと言うわね」



 一番背の高い彼女と長髪の彼女が、何をバカなとでも言いそうな勢いで否定していた。


 言いたいことはわかる。でも俺はやめたいと思っている。



「私は賛成です」

「えー? もっとやらないの?」

「全くだな……」



 他の連中も意見は様々だった。賛成してるのは小柄な彼女だけだ。



「仕方ないだろう。頑張っても頑張っても無駄なんだ。この先に見込みがあるとは思えない」



 俺としてはここらが潮時だと考えていた。正直虚しさを感じていたからだ。頑張っても頑張っても代わり映えしない毎日。戦い続けることに疲れてしまったのだ。



「なんだったら俺だけ抜けてもいい。もう俺は疲れたんだ」

「気持ちはわかるけど……でも君が抜けると僕達のチームは成立しないよ?」



 背の高い彼女は言う。その意見も尤もだと思う。いや、俺だけじゃない。誰か一人が抜けただけでも上手くいかなくなるだろう。時々誰かが休むことはあったが、その時はいつもより調子が悪かった。



「ああ、それを承知で言ってるんだ。もうやめよう」



 みんなは複雑そうな顔をしていた。俺の言うことにも一理あると思うが、やめるのはどうかと思う。そんなことを考えているのだろう。


 なんとかやめられるように説得しよう。そう思った時だった。一番陽気なあいつが口を開いた。



「じゃーさー、こーいうのはどーかな?」



 その内容は驚くべきものだった。まさか……あんな提案がされるとは思ってもみなかった。







 声がした方に内助と一緒に顔を向ける。そこには一人の男子が立っていた。


 第一印象として受けるのはなんと言っても、『大きい』ことだろう。おそらく身長は二メートル近い。そして体格も細長いのではなく、がっしりと肉がついており横にも広く、全体的に丸いシルエットをしていた。頭は坊主に刈り上げてあり、顔も丸い。


 声をかけたであろうこの男子は、顔に笑みを浮かべていた。だが内助の笑顔とは違って、嫌な感じの笑みだった。



「お前だよ、お前」

「俺か?」



 一方で俺は、クールな態度を崩さないよう心がける。特に関心がない、冷たい目を向けていた。



「お前さ、レベル1って本当かよ?」

「……ああ、そうだな」



 とても友好的な態度には見受けられない。俺は硬い声で答えた。それを聞いた途端、男子生徒は笑いだす。



「ははは! 聞いたかよ、なんでこんな雑魚がいるんだ!?」



 後ろにいた取り巻きらしき二人も、つられてわざとらしく大声で笑いだした。いつの間にか教室内の生徒達のほとんど全員が、俺達に注目していた。話し声が他にせず、静まりかえっている。



「おい、悪いこと言わねーから、さっさと退学しちまえよ。それか転校な」

「そうだそうだ」

「やーい」



 明らかに悪意のある発言だった。正直、辟易としていた。どこにでもこういう連中はいるだろうと思っていたが、初日にいきなり絡まれるとは。まるで子供みたいな煽り方だな。



「……別に俺のレベルがどうだろうと、お前らには関係ないだろう」



 あくまで俺は冷静な態度を崩さない。だが、男子達はその言葉に苛立ったようだった。めんどくさいな。



「関係はあるだろ。知らないのか? この学校にはクラス対抗戦っていう、イベントがあるんだぜ?」



 その事は俺も知っていた。入学前に受けた説明でそんな話をしていたからだ。それにしても学校行事にまでゲームが関わってくるとは、本当に今までの環境とは違うと言わざるを得ない。


 クラス対抗戦は文字通り、クラスごとにチームを組んで対戦を行うイベント……らしい。すなわちクラス全員の協力が求められる。



「だからよ、お前みたいなのがいたら足手まといなんだよ。さっさと出ていけ!」



 最後の方は強い口調で言われる。それに対して俺は、露骨にため息をついていた。まぁあれこれと言われるだけなら、特に害はない。直接的な暴力を振るったら、問題になることは理解しているのだろう。このまま無視というか、聞き流すとしよう。



「おい、待てよ。好き勝手言ってんじゃねーよ」



 だが、その目論見は崩れた。黙って俺達のやり取りを見つめていた内助が、突然立ち上がったのだ。その横顔には明らかに怒りが浮かんでいる。そのまま俺と男子の間に割り込むように立ち位置をずらす。



「お前らだって大したことねーだろうが。どれだけレベルがあるんだよ、あぁ?」

「うっ……」



 体格では男子に劣る内助だったが、その気迫に絡んできた男子達は怯まされていた。無理もない。彼らの自己紹介というかレベルは覚えてないが、内助がクラスのナンバー2である以上それより低いのは間違いない。彼らの理屈で言えば、言い返せないのも仕方ないのだろう。



「これ以上真偽に絡むなら、俺が相手になるぞ?」

「内助……」



 外見はチャラいが、この男ものすごく真面目なタイプのようだった。ここまでかばってくれるとは想定外だ。



「ぐっ……お、お前には関係ないだろ! 俺が話してんのはそっちの雑魚だ」

「てめえ……」

「まぁ待て、内助」



 男子は俺に矛先を変えてくる。流石に内助相手では分が悪いと判断したのだろう。人によっては逃げたとも見えるだろうが、俺は逆に感心していた。こういう判断も割りと大事だ。勝てる確証も無しに挑むのは、愚の骨頂だからな。そういう意味ではむしろ的確だと言えるだろう。


 また雑魚と発言したことで、内助はキレる寸前だった。背中を見ているだけだが、声の調子でなんとなくわかる。


 そんな彼の肩に手を置き、向かっていきそうな体を押さえた。



「真偽……でもよ」

「ここは俺に任せろ」



 俺は仕方ないと思いつつも、男子の方に向き直った。



「そんなに言うなら、戦ってみるか?」

「なんだと?」

「実際に戦ってみればいいだろ」

「おもしれえ、雑魚の癖に勝てるつもりか!?」

「それも、やればわかるさ」



 見下したようにこちらを見ている男子生徒。俺はというと、特に思うことはなかった。



「よーし、やろうぜ!」



 男子は制服のブレザー、その内側から一枚ガラスのサングラスのようなものを取り出した。これは通称【VRグラス】と呼ばれる機器だった。


 一昔前ならVRに接続するのには、大きなゴーグルのような機器を使用して、やっと視覚と聴覚を体感するのが限界だった。だが、その後技術は大幅に発展。今ではこんなサングラス並のサイズの機械に最先端テクノロジーが詰め込まれており、これ一台あれば誰でも一瞬で仮想空間に接続することができる。


 しかも仮想空間は完全没入型空間と呼ばれる世界だ。文字通り肉体を離れて意識だけが、別世界に飛ばされるかのような感覚となる。



「はっ、雑魚が。秒殺してやるよ」



 俺の隣の席を借りた男子は、ドカッと座り込む。その巨体で腰かけると、椅子の方が子供用にも見えてしまう。


 俺もVRグラスを取り出すと、素早く装着して椅子に座り直した。ちなみに俺のVRグラスは限定品でカラーリングが灰色と珍しい。



「リンクスタート!」

「リンクスタート」



 VRグラスはかけると音声認識で起動するタイプが多い。他にも空中に画面が浮かんでいるようにも見えるタイプもあるが。


 起動の掛け声をほぼ同時に発すると、あっという間に俺達の意識は、仮想空間へと飛ばされた。







 『デイドリーム』は基本的には格闘ゲームだ。だが、それは一対一の勝負とは限らない。時には二対二のこともあるし、十対十や、百対百と言った戦争レベルの戦いまで存在する。


 その為、サーバー内には多種多様なフィールドが設置されており、その中で無差別に戦うことが可能だ。一対一の場合なら、ある程度の広さのステージを使うのが一般的だが。


 俺は現在、大きな建物の目の前に立っていた。周囲には遠くまで草原が広がっている。この学校サーバーに接続するのは初めてだが、おそらくここがスタート地点となっているのだろう。



「さて、と」



 俺は改めて自身の分身となるキャラクター、アバターの体を見下ろす。


 灰色の薄汚れたボロボロのマントを体に巻き付けた、骸骨のようなひょろひょろのボディ。灰色のボサボサ髪に、目の下の隈がひどい顔。両手首には白と黒の腕輪が嵌められている。ついでに首には金属製のチョーカーというか、首輪のようなものが嵌められていた。


 使い慣れた俺のアバター【ゴースト】だ。



「おい、雑魚!」



 改めて確認していると、声がかけられた。そちらの方に首だけで向き直る。


 そこにいたのは、巨体のアバターだった。身長はおそらく現実と同じで二メートル近い。巨大な片手斧を右手に持ち、ふさふさして毛皮のベストを着ている。逆立てた髪のせいで更にでかく見える。



「どうだ、俺様の【グリズリー】は!」



 先ほどの男子生徒だろう。……そう言えば本名聞いてなかったな。


 吠えるように叫ぶと、一瞬強い風が俺の体に吹き付けられた。まさしく熊そのもののアバターだな。


 『デイドリ』においてアバターとは、自身で一から作れるものではない。


 まず体格だが、これは現実世界の自分の体をスキャンした上で形成される。すなわち現実世界の自分とほぼ同じ身長や肉のつき具合になる訳だ。これは格闘ゲームならではの措置と言える。すなわち現実の自分とアバターの肉体の間に差がありすぎると、どうしても動きにズレが生じてぎこちない動きになってしまうからだ。


 強者同士の戦闘ともなれば、高速戦闘になりがちだ。一瞬の判断が勝敗を分けることもある。だが肉体の方が判断通りに動けなければ何にもならないという訳だ。


 そして【スキル】の存在がある。これはいわゆる必殺技のことだ。体力ゲージの他にスキルゲージというものがあり、時間経過と共に溜まっていく。更に、ダメージを与えるもしくは受けることでゲージの蓄積はより加速する。このゲージが一定量たまることで逆転の必殺技、スキルが発動できる。


 このスキルが問題だ。スキルはランダムに合わせたものが決定される為、自分で選ぶことができない。まさしく与えられた才能と同じだ。


 唯一自分で決められるのは、武器や防具となる装備だけだ。これは自由に決めることができる。


 それにしても、熊みたいなアバターで武器が斧って……山賊みたいだな。



「はっ、なんだその弱そうなアバターは!」



 見た目が弱そうなのは否定しない。だがわざわざ口に出してくるところが性格出てるな、と思う。



「早速ぶちのめしてやる。ステージは決めさせてやるぜ」



 男子……グリズリーはすでにヤル気満々だった。この場合は殺る気かもしれないが。


 俺はメニュー画面を取り出すと、対戦申請をグリズリーへと送る。もちろん速攻で許可された。


 ステージは好きなステージを指定するか、ランダムかどちらか選べるのだが……別にランダムでいいか。結果はもう見えてるようなものだし。


 ランダムで決まるルーレットが表示され、回転する。数秒の後停止し、草原ステージに決定した。草原ステージは、障害物がほとんどないステージだ。小細工もしづらく、プレイヤーの実力が試されるステージと言われている。



「いよいよお前も運がないな。これじゃあ本当に瞬殺だ」



 勝ち誇ったように俺を見下すグリズリー。いや物理的にも見下ろされているけどな。



「それはどうかな」

「何……?」



 グリズリーは訝しげに眉をひそめる。俺が余裕の態度を崩さないので、不審に思い始めたのかもしれない。


 その間に俺達の近くに、一つの扉……ゲートが出現した。これはステージへと移動するための入口だ。これをくぐると選択したステージに一瞬で転送される。



「ふん、何か企んでいようと関係ねえ。ぶっとばすだけだ」



 ドスドスと足音を立てて、グリズリーは一足先にゲートをくぐっていってしまう。後には俺が取り残された。



「じゃあまあ、軽くやりますかね……」



 誰にでもなく呟くと、俺はゆっくりした足取りでゲートをくぐった。

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